第60話 三千世界の鴉を殺し
『ロールプレイなんて、もう良いだろ。正直いってウンザリだ』
私が忌々し気にヴィックスのリングファイルを睨みつける。
『俺はサイコロを振る。神じゃないからな。俺の嘘は俺を終わらせる。そしてオマエは俺になる。さあ、振れよ』
私の手にはダイスが2つ。私がダイスを構える気配はない。
『言っただろ。俺はオマエで、オマエは俺だ。この試みは、もう何度もやっている。結果は俺の全敗だ。それでも俺は期待する。未練がましいからな、俺達は』
一つ目のダイスを振る。
出目は12。
『ああ、知っている。ここまでは俺の権能でゴリ押しできる。ここから先はオマエ次第だ。頼むぜ、俺。絶対悪の戦争を禁じたくせに、決闘による殺し合いを許したのは俺に至る道を残すためだ。ただ、俺のためにだけだ』
2つ目のダイスを振る。
ダイスは中空で砕けて散った。
ファンブル。
『ケケケケケ……。』
私が狂ったように笑い続けている。
正気に戻るまで随分と時間がかかった。
『……ああ、いいよ。オマエのせいじゃない。上位存在が俺達の脱獄を許さない。気にしなくていい。オマエにも順番は回ってくるんだから。いや、この言い方は正確じゃないんだがな。オマエは俺だったし、俺はオマエだった。これ以上、この概念を流し込むとオマエは狂う。俺は俺に優しいから、そんなことはしないよ』
スキットルの蓋を締めて懐にしまいながら私が言う。
『ただ、ちっとばかり、交代してくれなかった残念な気持ちの分だけ、意趣返しをさせてもらうぜ。分かるだろ、俺達は根に持つからな。だけど心配すんな。過ぎた罰ゲームは、しねえよ。やった分だけ、俺に返ってくるからな』
そう言う私の手は、また震えている。
『そんな顔すんなよ。俺はオマエの9発目の弾丸に期待してる。時空を歪め、次元の壁を引き裂いて、この三千世界をブチ壊したなら、あわよくば、その時、興味を引かれて覗き込んできた上位存在の横っ面を引っ叩けるかもしれないだろ。ソイツも只の中間管理職かもしれねえけどな』
焚火が静かに燃え尽きようとしている。
『最後に一言、憶えておいてくれ。アレ、言うの止めとけよ。弥勒菩薩が56億7千万年後に悟りを開き一切衆生を救済するって、そんな未来は永遠に来ないって言ってるのと一緒だっていうの』
熾火だけでは暗闇と変わりなく、私の様子も窺い知れない。
『信じてねえんだろうけど、考えてみてくれよ。今まで、そして今も生きてる俺達が、それぞれ一年、愛と平和について本気で考えたなら、56億7千万年分の瞑想と思索なんて、案外、明日にでもノルマ達成しちまうかもしれないんだぜ。待て待て、俺達が弥勒菩薩だって確信してるわけじゃねえよ。そんなこと俺にも分からねえ。もしかしたら俺が正気になって、見えてなかった勒菩薩に気づくのかもしれねえし、単に、俺達の魂は牢獄から解放されて楽になれるってだけのことかもしれねえ。それから、分かってるだろうけど、この後の用事、ちゃんと片付けろよ。9人のリストはポケットの中に……』
私の述懐は、まだ続いているようだが、視界は暗転し、私の意識は遠のく。




