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右や左の国士様  作者: 隣之 芝生


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第47話 私と私のキャンペーン(2)

「拒否する!」


 私がそう叫ぶと、たちまち私の頭にはヘルメットが被され、丁寧にタオルで顔まで隠された。

 何故か、老人の私までヘルメットとタオルで頭部を保護され、私達の手には角材が握らされている。

 細くて軽くて、すぐ折れる角材。


「プチブルジョワジーめ」


 老人の私が叫んで私のヘルメットを叩くとポッキリ折れる角材。


「働け!この(自主規制)プロレタリアートが」


 そう叫んだ私の角材は振る勢いだけでポッキリ折れてしまう。

 たちまち、ヘルメットもタオルも角材も消えてしまって、私達は何事もなかったかのようにプレイを再開する。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

『教師Aの道徳 #4』


「失礼ながら、正直言って、君が来てくれるとは思わなかったよ。丸くなったというか、落ち着いてくれたのだとしたら嬉しいね」

 今日の主賓だというのに元校長は、わざわざ私の席までやって来て、酒を勧めながら語り掛けて来た。

「日和った訳ではありません。主義主張は違えど、あなたは尊敬に値する教師だったというだけです」

 勧められた酒を辞退しながら、元校長の酒杯には溢れるほどにビールを注ぐという私の意固地な態度を元校長は笑って許した。

 今宵は元校長の受章祝賀会である。

 ありふれた出来事ではないが、公務員として大過なく勤め上げて(ストライキ参加などによる懲戒歴がなく)退職した後、長命であれば栄誉に浴することができるようになっている。

 国家権力からの勲章の授与を言祝ぐという行為を私が忌避すると元校長は思っていたようだが、脊髄反射的に反対するわけではないのですよと言ってやりたい。

 私にだって年相応の分別と世渡りの常識はある。対話と相互理解のドアは、いつだって開けているつもりだ。

 『単』とか『双』のつく受章は謹んでお祝い申し上げる。

 警察官や消防士といった自己の生命身体を危険にさらしてでも他者の生命財産を守るという職責を全うした労働者の叙勲だからだ。

 元校長も学校内での職務に加えて、課題のある子ども達との卒業後の交流や、退職後の保護司としての活動など、義務感からではなく献身できることに感謝しながら取り組んでいた人柄だ。そんな元校長が唯一、苦痛を感じた職務が何かにつけて騒動を起こす私への説諭だったというのだから、地区委員会が何と言おうと祝賀会には参加すると決めていた。

 無いであろう仮定ではあるが、もしも元校長が受章したのが『中綬章』以上であったならば、祝賀会に参加したか自信がない。その辺りからは高級官僚や政治家の縄張りになってくるからだ。もちろん彼らとて職務上の功績と苦労はあるだろう。しかし労働者である以上に権力者なのだ、彼らは。

 権力者達が高禄を喰みながら、馴れ合って栄典を授け合う。全くもって許し難い。

 そして、度し難いのは我が党の地区委員会や、指導者層も同様だ。

 排他的な教条主義、既得権益に固執する疑心暗鬼と内輪揉め。

 権力は人を腐らせる。

 もちろん、自分とて一点の曇りもない清廉潔白な細胞というわけではない。

 私は少し、自棄になっていたのかもしれない。

「この後、人と会う予定がありますので」

 一次会がお開きになったあと、二次会に誘ってくれた元校長に余計な情報を含んだ断りを入れると、彼は嬉しそうに言った。

「おお、それは喜ばしい。いや、済まない。野暮な物言いだった」

 我が身の受章よりも嬉しそうな笑顔を浮かべる元校長と別れた後、私は待ち合わせの場所に向かった。

 真相は違えども、全くもって野暮用だ。

 約束の相手は男だが、会ってするのはゲバルトだ。

 果たし状が送られて来たのだ。

 私の『転び公妨返し』が見事に決まり、その後の法廷闘争でも勝利して、当局の権威に泥を塗ってやり、賠償金も分捕ってやったのだが、その当事者であるハムは自らの不手際を問われ、官職を辞し、失意の内に亡くなったという。

 その息子を名乗る者から、お前の『転び公妨返し』を破ってみせるから立ち会えと、決闘の申し込みが来ているのだ。

 不当な国家権力の行使を粉砕してやったのだから、何ら恥じ入るところは無いのだが、思う所が無いわけではない。

 あのハムとて労働者だ。

 共に肩を組み、労働者階級による革命の同志となる手が無かったのかと問われれば、確信を持って否定するのは難しい。

 まあ、だからと言って、手加減などしてやるつもりはない。

 ハムの息子もハムなのだ。

 任意の職務質問なぞ断固として拒絶してやる。


名前 教師Aとくめい

年齢 34

特技

転び公妨返し返し返し

 『転び公妨返し』を破る『転び公妨返し返し』を編み出したという公安警察官との果し合いのため、教師Aさんが挑戦する『転び公妨返し返し返し』はイメージトレーニング中の技です。自分の身を守るだけでなく、襲ってきた相手にも怪我をさせないという護身の精神を貫くには、かなり厳しい状況です。


境遇

 『転び公妨返し』に起因する長期にわたる法廷闘争のため、教師としての仕事は休みがちでした。

 自分の天職であると思っている思想教育に十分に注力できなかったことや、その他もろもろあって疲れています。


特記

 ハムというのは公安の公の字を分解した隠語です。(聞きかじりの浅い知識で書いているだけなので監視や粛清の対象にしないで下さい。あと『中綬章』から以下云々の論評も教師Aの演出上の表現で本意ではありません。立派な方々が受章し、活動されていると思います。本当です。皆さん、信じてください。)


1D1~5 教師Aの道徳 #9 へ物語は続く

1D≧6  教師Aの道徳 #10 へ物語は続く

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