第44話 怠慢プレイ(4)
どうしてだろう。
さっき、あれほど後悔したというのに。
さっさと『与吉』の物語を進めて『噛みつく』ことが最善手だと分かっているのに、迷っている自分が居る。
「なんだよ、早く見せてくれよ。ただのエクソシストのままじゃ、神へと至る道は開かれないぞ」
老人の私がうるさい。
いや、うるさくない。
声援だよね。
やっぱり、始めたからには、やり遂げないと駄目だよね。
私は『脱出王』ハリーの物語を進める。
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『脱出王ハリー #10』
部屋へ入るなり、何かを言おうとした少年をシスターは許さなかった。
「黙れ、この豚野郎。許可なく、その臭い口を開くんじゃねえ」
そう叫びながら、シスターはベッドの上の少年に馬乗りになり、往復ビンタを繰り出している。
「Mr.ハリー。お手伝いくださいますかしら?」
喋ることも、動くこともできなかったハリーに、シスターは微笑みながら話しかけてきたのだが、その間もシスターの手は休みなく、少年の髪の毛を掴んて頭を壁に打ち付け、ハリーが聞いたことはあっても使ったことのない言葉で少年を、いや、少年に憑りついている悪魔なのだろうけど、罵っている。
どうなんだろう、手伝ってもいいのかなとハリーは迷ったのだけれど、シスターの頼み事を断るなんて、ハリーの常識からは思いもつかぬことだったし、なんとか、シスターの非常識な要求に応じることができた。
シスター持参物とハリーの手持ちの小道具で、少年の身体は拘束衣で固められ、ロープでベッドに縛り付けられて、口には猿轡が嚙まされている。
身動きがとれず、許しを請うこともできない少年を鞭打ちながらシスターは叫んでいる。
「さあ、苦しみなさい。痛みを受け、苦しめば苦しむほど、あなたの罪は贖われ、天国に近づくのです。後悔しなさい。懺悔するのです」
少年の顔は腫れあがって、涙と鼻水でグチャグチャで、それでもシスターは鞭打ちに織り交ぜて、時々、少年の腹を力任せに殴ったりしているので、このままでは少年が嘔吐して、猿轡をしたままでは窒息死する危険もあったので、ハリーは泣いてシスターに縋りついて、暴力をやめて、それが駄目なら、せめて猿轡だけでも外してくださいと懇願して、やっとシスターは猿轡を外すことに同意してくれた。
何か、つまらぬことを言ったら、いつでも再開してやるぞと身構えるシスターから目を逸らしながら、少年は、いや、少年に憑りついた悪魔なのだろうけど、その存在は自己の敗北と過ちを認めたので、シスターの『悪魔祓い』は沈静化した。
部屋の外で待たされていた少年の家族を招き入れたシスターが、少年がどんなに懇願しても3日の間はベッドに縛り付けたままにして、最低限の水とパンだけを与え、排尿排便も、そのまま垂れ流させるように言いつけて、少年の家族が何か言おうとする前に、『悪魔とは狡猾な存在です。もしや、あなた方にもすでに悪魔が……』と言い出したので、ハリーも少年の家族も開きかけた口をすぐに閉じた。
少年の家を辞去したハリーはとても困っていた。
シスターが同道を申し出てくださったのだ。
少年の部屋を出る時、少年は、いや、少年に憑りついた悪魔かもしれないのだけれど、その存在が言ったのだ。
「Mr.ハリー、感謝する。あなたが探している人物の所在を教えよう」
それ自体は、何も困ることではないし、驚いてもいない。
少年の家は裕福そうだったから、腕の良い探偵を雇って詐欺師の居所をつきとめることも有り得ないことではないだろう。
告げられた所在が全くのデマカセでも、別に困ったりはしない。生涯をかけて探し続けるつもりだったから。
でも、分かってしまったのだ。
憎い仇を捕まえたとして、縛り上げて、重石を付けて、大きな水槽に突き落とすなんて出来はしない。
自分がやってみせる分には良いのだけれど、他人に、そんなことをするなんて常識のあるハリーには出来っこなかったのだ。
「あの悪魔は、きっと、あなたと取引をするつもりで呼び寄せたのでしょう。これから、あなたが行く先にも、狡猾な罠が仕掛けられているに違いありません。必ずや苦しみを与え、その悪魔が少しでも天国へ近づけるようにしなくては。Mr.ハリー。お手伝いくださいますかしら? たとえ相手が悪魔であっても暴力を振るうのは罪深いことです。私の行く先は地獄でしょうが、もしも、あなたが巻き添えになったなら、腕の見せ所ですわね、脱出王さん」
そんなシスターの提案は、ハリーには、とても飲み込みがたいことで、ひどく困ってしまうのだ。
名前 脱出王ハリー(だっしゅつおう はりー)
年齢 32
特技
脱出・瞬間移動系マジシャン
縄抜け、手錠外し程度であれば、生まれつき柔軟な身体や任意で外せる関節を駆使して数秒で実行できる。厳重に封印された木箱に入れられたフリをして脱出したように見せかけるトリックも使えるが、本人のこだわりで、本当に拘束され、水槽に沈められてから脱出する方法を好んで実行している。ハリーを逮捕・拘束することはできず、コンクリートを注入したドラム缶に押し込めて〇〇湾に投棄するというような敵対行為は失敗するが、地獄の責め苦から脱出できるかどうかは、やってみなければ分からない。
シスターへの畏怖
どんなに酷いと思うことでも、シスターからの要請であれば、ハリーは、きっぱりと断ることができません。シスターを上手く誤魔化して窮地から脱出することが出来るでしょうか。
脱出成功判定(1D≧3)
罪を憎んで悪魔を憎まず(+GM裁量D)
悪魔への脱出芸の手ほどき。
成功判定(1D≧6)
境遇
復讐を果たすために半生を捧げてきたが、そんなこと自分には出来はしないと分かってしまった。シスターの『洗礼』を受ける悪魔達に同情を禁じ得ないのだ。
行く先に、悪魔が居たなら、なんとかしてシスターの注意を逸らして、その隙に、悪魔達に自分の脱出芸の術理を教えてやることは出来ないだろうかと考えて始めている。
特記
この victim を使用するプレイヤーが、シスターの要請からの脱出成功判定に失敗すると、次の『悪魔祓い』に参加することになるので、悪魔憑きの少年か、悪魔祓いのシスターのどちらかを選んで、自分が考える最高にカッコイイ登場時の名乗り、若しくは決めゼリフを披露しなければなりません。既に演じたものを再度やってもいいのです。回数を重ねれば重ねるほど、羞恥心が吹っ切れて、良い演技が出来るでしょう。
※脱出成功判定に失敗したプレイヤーの心が折れてしまいそうな時、この victim を使用するプレイヤーに『悪魔への脱出芸の手ほどき』へのチャレンジを許可する裁量がGMにはある。
※脱出成功判定に失敗したプレイヤーの『名乗り・決めゼリフ』が、よく練られていない未完成なものと判断したとき、GMはプレイヤーに退席を命じる裁量がある。
『脱出王ハリー』 Fin




