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右や左の国士様  作者: 隣之 芝生


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第42話 怠慢プレイ(2)

 私は歯噛みした。

 怠慢プレイは私の方だった。

 さっさと『与吉』の物語を進めて『噛みつく』べきだったのに目先の不安感に判断力を失って『脱出王ハリー』の物語を進めてしまった。


 老人の私は『ナターシャ』の物語を進め、第三階梯までの前進を可能にした。

 ダイスが振られる。

 銃弾の回避判定成功。

 もう一度、『ナターシャ』が進み、毒物の耐性判定に成功すれば私の敗北が確定する。出目の要求は厳しいが、回数付与が手厚いので、十分に予想できた結果だ。


 老人の私の言う通り、錆びついている。

 いや、そもそも、まともにビーチフラッグを戦ったことがないのに最強などと自惚れた挙句、この様だ。

 穏やかに老人の私が告げた。


「ターンエンド」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

『病院送りにしてあげる #10』


 まったくもって不愉快だった。

 英雄がやって来たのだ。

 数え切れぬほどの激戦をくぐり抜け、常に先頭を突き進み、あらゆる負傷を意に介さず、多くの強敵を打ち破って来たという。

 しかも、この王国の第三王子という肩書まで持っていて、まるで神話やおとぎ話に出てくるような、本当に本当の英雄なのだ。

 最初はとても興奮した。

 満身創痍でやって来たと聞いたから、さっそく得意の手当をして、お高く留まった王子殿下の泣き叫ぶ姿を心ゆくまで味わってやろうと思ったのに、忌々しい此奴ときたら、うめき声どころか、眉一つ動かさず、歯をくいしばる素振りさえ見せぬのだ。

 痛くはなかったかと尋ねても「いや」と短く答えるだけで。

「我慢強いのですね」と煽ってみても「違う」と仏頂面で見つめてくる。

 面白味のない男に、もう、これっぽっちも割く時間はないと思ったので、後方へ搬送して、まともな病院で治療を受けさせるよう指示したのだが、皆、動かぬ。

 近頃は私が微笑みさえすれば、古参兵どころか士官までもが恭しく従うというのに、皆、目を炯々と輝かせて「行かねばならぬところがあるのです」と言って、英雄と一緒に塹壕から出て行ってしまった。

 どこへ行くつもりだと私も付いて行こうとしたら、残っていた負傷兵達が総出で私を押しとどめる。

「なんのつもりだ」と怒鳴ったら「あなたのために行くのです」と叫んで飛び出して行く。

 身動きのとれぬ重症の兵士達が悔し気に泣いている姿が面白くて、つい立ち止まって観察している内に、英雄も、将官達も、誰も彼もが飛び出して、敵陣へ突撃し、これまでに聞いたことのないような激しい銃撃と砲撃の轟音が一頻り続いたあと、勝鬨の声が木霊した。

 英雄が敵国の王族の首を獲って、この戦争は終わったらしい。


 まったくもって不愉快だった。

 充実した毎日は終わり、煌びやかだが興味の持てない戦勝祝賀会が催されて、私と英雄は国王から勲章を授与されるのだという。

 血と泥にまみれた野戦服から礼装に着替えても、看護卒の証である緑の腕章だけは付け続けると言ったとき、身分の高そうな役人の目がギラリと光ったように見えた。もう切ったり縫ったりさせてはくれぬということか。

 英雄と二人、礼装の胸に勲章を縫い付けられ、祝杯を捧げ持って来た給仕の顔色が悪く見えた。面白いと思うほどではなかった。

 もう誰も泣き叫んで苦しまぬのなら、楽しいことなど何もない。

 そこで、ふと、いたずら心が閃いた。

 どうせ、つまらない日々に戻るのなら、最後にちょっと悪戯をしてやろう。

 この祝杯、英雄の分まで二つとも一人で飲み干してやったら、皆、あきれて笑うかな。

 思いついたら我慢できないのが私だ。

 両手で一つずつ杯を掴み取り、立て続けに飲み干した。

 それから、すぐに私は血を吐いて倒れた。

 とても眠たくて、それなのに大声で喚き散らす奴らばかりで煩わしい。

「共和主義者どもめ」だとか「卑しい身分の母親から生まれたくせに」とか「革命運動の象徴など不要」とか、おおよそ子守歌には似つかわしくない内容のものばかりで閉口していたが、ようやく静かになったと思ったら、英雄が私を抱きかかえて顔を覗き込んで来た。

 誰も私のユーモアを理解していなくて不愉快だったが、意外だったので言ってやった。

「笑わせるわ、アンタも、そんな顔が、出来るのね」


名前 ナターシャ

年齢 16(19)

特技 

聖女の微笑み(+3D)

 多くの狂信者を従えるカリスマ


料理や裁縫と何が違うの?

 他人の痛みや苦しみ、出血などに対して忌避感がないため、外科手術の模倣行為に躊躇いがなく、経験の浅い正規の軍医よりも素早く的確な処置が出来る。近頃、何か手技の真髄を掴んだような感覚があって、人間以外の手当も、やれば出来そうな気がしている。嘆き悲しむ存在に出くわせば、喜んで、切って開いて縫うだろう。


心の恋人(+3D)

 騎士道には想い人に相応しい存在になるために武者修行の旅に出るという慣習があり、微笑みの聖女の話を聞いた第三王子は、彼女を心の恋人と思い定めている。幼少の折、王子は毒を盛られたことがあり、三日三晩、高熱を発して生死の境を彷徨い、回復したものの後遺症で無痛覚症になった。口数が少ないのは喋っていると無自覚に舌を噛み切ってしまう恐れがあるから。咀嚼の際に口内を傷付けることも多いので食事はいつも流動食。一刻も早く聖女を戦地から遠ざけるため、死に物狂いで転戦した結果、国民からの尊崇を聖女と二分する存在になってしまった。毒物については一家言ある。


境遇

 大事な玩具は敵味方なく収集して丁寧に遊んだため、彼女が塹壕から飛び出して負傷兵の回収を始めると、銃砲撃を停止する紳士協定が自然発生した。聖女崇拝は敵味方なく深く浸透したため、厭戦感情と戦争を主導した支配者階級に対する反抗心の象徴となっていた。


特記

 苦しみ、悲しみを隠さない他の victim が規定位置に進む時、この victim もコストを無視して規定位置に進む。

 この victim が規定位置に進んでいる場合、毒物の耐性判定をしなければならないが、失敗(1D≦5)しても特技で付与された回数だけダイスを振りなおすことができる。

 耐性判定に成功した場合、この victim のプレイヤーは、この victim の、その後の人生がどうなったか、自分の主義主張、願望の赴くままに創作して語る権利を与えられる。


 『病院送りにしてあげる』 Fin

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