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右や左の国士様  作者: 隣之 芝生


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第4話 ガラスの天井は温室という皮肉か

「つまり、それは、男なら、一年生でも、生徒会長に、なれるけど、女だったら、どれだけ、実績と、意欲と、人望が、あっても、認められない、という、ことですか」


 念のため断っておくが、これは私の発言ではない。


 矯めつ眇めつ、クッキーを吟味しているだけと思っていた若葉さんも話は聞いていたようで、おもむろに抑揚のない口調で喋り始めた。

 能面のような無表情で、一言ずつ区切って話しているのは、自身の裡にある激情を抑え、暴言を発しないようにする彼女の自制心の現れだろう。


 嗚呼、まったく、だから私は駄目なんだ。いつも肝心なところで、このざまだ。

 これは私に用意された機会だと悟った。生徒会の現状が私の知るものと違うのだ。そして怖気づいた。

 損な性格をしていると上から目線で評していた若葉さんに、本来、私が挑むべき試練の入り口に立たせてしまった。


 これまで生徒会長は男子生徒が務めてきた、前例がない、女子生徒が会長になっても軽んじられ、風当りも強くて辛い思いをするだろう。物部先輩の、そんな助言を聞きながら、ミニゲーム――この世界でいう神前決闘の落としどころとして、どのような要求をすれば勝者が与えられる恩典が敗者の支払う代償としては無害なものとなり、決闘を穏便に終わらせることができるのかなどと、算盤を弾く時間が必要なことを言い訳にして、踏み出すことを先延ばしにしていたのだ。


「だったらアタシ、生徒会長に立候補します」


 若葉さんの即断即決は、私の虚栄をあっさりと打ち砕いた。

 もう躊躇っている猶予はない。

 必要十分な刺激を与えても仮説通りの反応を示さぬならば、実験は中止され、試験体は廃棄されるのが世の常だ。


 親友の体重移動が立ち上がる予備動作であることを理解して、私はやっと決断した。

 彼の肩を抑えるように掴んで立ち上がり、右の手のひらを胸にあて、左手を前に差し出して天を仰ぎ見る。

 宣誓の姿勢。


「調貫徹が神前決闘の宣誓をします。この度の生徒会役員選挙に不当な介入をする者、投票により選出または信任された生徒会長に暴力、脅迫に類する干渉を加えようとする者があれば、その所以が善意であるか悪意であるかを問わず、その挑戦行為を調貫徹が神前決闘により受けて立ち、勝敗の結果として求められる代価を、この身で償うことを誓います」


 皆が顔色を失って私の左手を見つめている。

 現れた二つの12面体ダイス。

 神前決闘が承認された証だった。


「屈原すでに洟垂れて」


 知らず、私は呟いていた。

 長いものに巻かれることを良しとしない屈原の悲憤を稚気と嗤う漁父詩は後世の偽作であり、楚辞から削除すべきであると主張していた若き日の血潮。

 年老いた今では漁父詩の読み解き方も変わってきたのだが、今、この一時だけは、その脈動が我が身を奮い立たせている気がした。

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