第39話 分かち合うこと
「待ってくれ。誰も持って帰らなかったのか? だとしたら1カ月以上経っているんだぞ。やめろ、水を飲め」
私が、食器棚から湯呑を取り出して水を汲んでいると、老人の私が冷蔵庫を開けてプリンを取り出したのだ。
「おお、忘れてしまうとは情けない。これを食べてこそ私達だろう」
何を言っているんだ。卵系の腐敗は怖いんだぞ。
「GMの安全管理義務を問う」
『ふむ、ギリ行ける。気合でどうにかなる段階』
「『カットイン』私は提供者の責任として、安全性を身をもって確認する義務がある」
「ケケケ、錆びついても誇りだけは失くしてないようだな」
揶揄う老人の私を無視して、私はプリンを口に流し込む。
「あれ、美味しい。コレ、マスターのプリンの味にそっくりだ」
「ああ、これならバケツでもいけるな」
いつのまにか老人の私もプリンを飲み干している。
『ケケケ、粋な計らいだろう』
油断ならない。安心させておいて落とすのが私達だ。
演技の幅を増やすため『脱出王ハリー』の物語に挑戦しておこう。
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『脱出王ハリー #1』
『同じように見える現象を引き起こせたとしても、その事をもって、これまでの出来事の全てがトリックだったと決めつける証拠にはならない。それは詐欺だったかもしれないし、本当のことだったかもしれない。そして何よりも大事なことは、その証明を、どれだけの人が望んでいるかということだ。これは心の問題なのだよ。幼子を亡くした家族にとって、可愛い我が子が死後の世界で幸せに過ごしていると信じられるのなら、これ以上の安らぎはないだろう』
判決主文を読み終えた後、裁判官は、そんな説諭を付け加えた。
ハリーは全身の血が逆流するような怒りを覚えた。
善良で信心深い老夫婦は倹約して蓄えた老後の生活費を巻き上げられ、インチキ霊媒師は野に解き放たれて次の獲物を探し始める。
圧倒的な発言力が必要だと思った。
あれから随分と時間が経って、自分も一端の大人になって、この世に蔓延る不善を正すことが出来るようになったと息巻いた。
東に高名な占い師が居ると聞けば、駆け付けて、対面に占い所を構え、元から居た占い師以上の的中率で来訪者の過去や未来を言い当てた上で、そのトリックの種明しをしてみせた。
西に信者を多数抱える霊媒師が居ると聞けば、馳せ参じて、教団に入り込み、霊媒師以上に感動的な交霊術を行って見せた後、その仕掛けを図解にして、数名の協力者を用意すれば誰にでも真似できる、人の思い込みと願望につけ込む詐術であることを示して見せた。
それでも足りなかった。
人々は見たいものしか見ないし、信じたいものしか信じない。
真実を解き明かして、詐欺行為から救ったはずの人々から訴えられ、ハリーは敗訴してしまったのだ。
ハリーは裁判官達に向かって叫んだ。
『私は霊能力で言い当てる。あなた達は腰痛や膝の痛みで悩んでいる』
裁判官達は嗤って答えた。
『私達ぐらいの年齢の者が関節痛で悩むのは当たり前のことだよ』
ハリーは法廷に唾を吐いて続けた。
『そうやって笑い飛ばせる余裕と知識の無い人達が、お金を毟り取られていることなど、どうでも良いことなのだろうな、あなた方にとっては』
法廷を侮辱した罪でハリーは禁固刑を言い渡された。
収監されたその日の夜にハリーは留置場を脱出した。
外された手錠には傷ひとつ付いていなくて、扉の鍵はかけなおされて閉じていた。
脱出王ハリーの誕生だった。
変装し、名前を変え、旅芸人の一座に加わり、縄抜けや手錠外しの芸を披露した。
次第に名が売れて、大手サーカス団の一員となり、ハリーの芸は過激になった。
両手両足に手錠を掛け、身体をロープで縛り、等身大の木箱に入れられて、外から釘を打ち付けられ、大きな水槽に沈められた状態から脱出して見せるのだ。
いくら仕掛けがあるといっても、上手く作動しない時もある。ハリーは何度も死にかけて、その度に有名になった。
ハリーの願いは、ただ一つ。社会的な名声と発言力を得たその上で、幼い自分から家族と財産を奪った似非霊能力者に脱出勝負を挑み、奴の両手両足に手錠を掛け、重石を付けて大きな水槽に突き落としてやるのだ。
今日もハリーの出番が来た。
ショーは更に過激になって、ハリーが閉じ込めらた木箱に鎖が巻かれ南京錠で止められている。
司会を兼ねる興行主が観客を煽る。
『さあ、皆さんもハリーが脱出するまでの間、息を止めて見守りましょう。ハリー hurry 早くしないと、お客さん達が窒息してしまうよ』
名前 脱出王ハリー(だっしゅつおう はりー)
年齢 29
特技
脱出・瞬間移動系マジシャン
縄抜け、手錠外し程度であれば、生まれつき柔軟な身体や任意で外せる関節を駆使して数秒で実行できる。厳重に封印された木箱に入れられたフリをして脱出したように見せかけるトリックも使えるが、本人のこだわりで、本当に拘束され、水槽に沈められてから脱出する方法を好んで実行している。ハリーを逮捕・拘束することはできず、コンクリートを注入したドラム缶に押し込めて〇〇湾に投棄するというような敵対行為は失敗する。
境遇
中流階級の生まれ。早逝した妻に遭いたい一心で似非霊媒師に全財産を巻き上げられ、挙句に後追い自殺させられてしまった父を持つ。この世に奇跡などなく、全ての不可思議な現象には、必ず原因、若しくはトリックがあるとことを証明することを生き甲斐にしており、占い師、霊媒師と呼ばれる人々を、この世から一掃するために日々、脱出芸を磨いている。
特記
この victim を使用するプレイヤーは自己のターン開始からターンエンドするまでの間、息を止めなければならない。この行為は当該プレイヤーに限らず、友人、知人、観客が申し出れば身代わりとなることができる。身代わりを認める場合、プレイヤーは息を止めるチャレンジ行為に参加することはできない。身代わり行為は複数人で挑戦することが可能で、身代わりの誰か一人でも当該時間を上回って息を止めることが出来れば成功したこととするが、身代わり全員がチャレンジ行為に失敗した場合、プレイヤーは退席となる。
※チャレンジ行為は安全第一を旨としましょう。ガムテープで鼻と口を塞ぐような行為は厳禁です。水を張った洗面器に顔を漬けるというような行為者の自由意志でリタイアできる環境を整えることが先決で、そのような準備がないままプレイを始めようとする者が居る場合、GMには環境を整えるか、無効試合を宣言する義務があります。
1D1~2 脱出王ハリー #2 へ物語は続く
1D3~4 脱出王ハリー #3 へ物語は続く
1D5~6 脱出王ハリー #4 へ物語は続く




