第36話 誰も彼もが嬉々として
開票作業は生徒会室を訪れた初老の男性によって中断することとなった。
内臓を痛めていると思われる顔色。
他人と目を合わせぬように俯いているための猫背。
見飽きた姿。
前世の私だった。
「じれったくて待ちきれないって。だから、オマエの大嫌いな御祖父ちゃんが来たぞ」
超越的存在の使者であるような口ぶりだが、無理やり転生させられたはずの私が目の前に居て、では私は、一体、誰なのだ?
「あなたの御祖父様の死亡は確認しておりますが、調さん、この男性の言っている意味は……」
いつの間にか、因獄先輩と仲間達が私と私の間に立っている。
「死んだと思っていましたが、どういうことか、僕にも分かりません」
私が嬉しそうに言う。
「ケケケ、オマエを苦しめる過去の亡霊と決着をつけないといけないよ。そうでなくちゃあ、物語が進まないじゃないか」
どういうことか理解が追い付かないが、目の前の私が嘘吐きで、私が否定できない設定に乗っかって、対戦を申し込んでいることだけは分かった。
私の手の中で下卑た輝きを放つダイス。
目の前の私の手の上にあるのもギラギラと明滅するダイスだけ。
全力を出して良い相手ということだ。
「皆で楽しくやろうじゃないか。ああ、因獄ちゃん……」
名前を呼ばれて、腕時計を握りしめる彼に私が語り掛ける。
「最後の生き残りの巫女を守るため、襲い掛かる亡霊の前に立ちふさがる君たちっていう展開も好きなんだが、別の舞台を用意させてもらったよ。君たちも、そっちの方が楽しめると思うから」
腰をさすり、肩を叩きながら私が続ける。
「正門に3人、後門に2人居る。後詰は4人。机と椅子を並べるの、手伝って欲しかったよ」
「決闘を挑む者が訪れるということですか」
織部会長の声質は聞く者を落ち着かせる頼もしさがある。
「そうだ。唯一無二の前衛党となるために闘争をしておられた在野の国士様方をお招きした。それなりに使えるぞ。私が教えたからな」
謎の転校生達に嬉しそうに私が言う。
「まずは、君たち5人の出番だよ。会長さん、副会長さん、因獄ちゃんと親友は、私と孫娘が楽しく遊ぶのを見てから行ってくれ。後詰の4人には『土曜の夜』を教えたからな」
「私だけ蚊帳の外なの?」
若葉さんが、いきり立っているが、呆れた風の私が言う。
「そりゃ、そうだろ。嬢ちゃんが決闘したら自動的に私の孫と交代だ」
そして、私が妙に親し気に転校生達の肩を叩き、さあ、いってくれと囁くと、彼らは私の前に整列して、右も左も入り乱れての大乱闘の開会宣言を始めた。
「我々は名乗らないと決めていた。この身がどうなろうと、貴女が私達の事を想い出して、悲しむことが無いように」
「我々は因獄の呼びかけに応じて集まった。たとえ信じてくれなくとも、貴女を守る名も無き騎士でありさえすれば、それで良い」
「僕っ娘は尊い」
「ツルペタ読書好き少女の前に現れた謎の転校生である自分こそ至高」
「俺の名前は刑部…モガッ……」
5人目が名乗ろうとしたところ、他の4人が口を塞ぎ、引き摺って部屋を出て行く。
「ずるいぞ、因獄だけ名前を呼んでもらえるなんて」
「名前を知らなければ、『お兄ちゃん』と呼んでくれるかもしれない」
「……お前、天才か」
そんな彼らのやり取りが遠ざかって行く。
ああ、見たいな。
彼らは、きっと良いプレイヤーに成る。




