第26話 戦うたびに弱くなる最強の決闘者(1)
因獄先輩が選挙ポスターを破り捨て、会議室の机上にプレイングマットが現れた。
先輩は手動で、私はUIを操作して、キャラクター群と山札を所定の位置に置いた。
誰もヴィックスの遊び方を知らぬ異世界で、私は最強の決闘者であり、手当たり次第に喧嘩を売り買いすれば、地位も名誉も金も快楽も欲しいままにできるのだろうが、そんなものでは届かない。
物語が進まねば、超越的存在に『噛みつく』ことができないのだ。
決闘の作法が広まるほどに私の優位性は失われるのだが、『噛みつける』までに victim の物語を進めるには、私を打ち負かすかもしれないほどの強者の存在が必要だ。
私が学校の七不思議にありがちな場所から入手した victim は『時任 永遠』、『ナターシャ』、『脱出王ハリー』、『教師A』、『与吉』の第一世代のキャラクター群で、超越的存在に手を届かせるには一手足りない。
第三世代でローンチされた『白狼』と改訂版『与吉』を組み込む必要がある。
しかし、ヴィックスの遊び方を実践してみせるために、私は因獄先輩のキャラクター群と同じ構成で対戦に臨んでいる。
私の『与吉』は改定前の姿でファイリングしているが、3年生の因獄先輩の『与吉』の物語が進めば、バニラ化した『与吉』になる可能性はある。
今日が土曜日でないことに感謝するべきだろう。
私は山札を持ち、シャッフルしてから先輩に差し出し、もう片方の手を差し出して、彼の山札を受け取る姿勢をとった。
私の意を理解してくれたようで、私の山札を受け取り、シャッフルした彼の山札を手渡してくれたので、受け取った山札を三つに分割し、順序を変えて積み重ねて一つにしてからシャッフルして、再び、交換の姿勢をとると、無事、同じ手順で返してくれた。
『ケケケケ、作法に適ったお手前で。さあ、始めよう』
超越的存在の声が室内に鳴り響いた。
下品な笑い方だな。まるで私みたいだ。
視界の端に、無表情だが額に汗をかいている因獄先輩の顔を捉えた。
大したものだと思う。私が彼の立場なら狼狽えて悲鳴のひとつも上げていただろう。
先攻後攻を決めるダイスを振る。
私が先手だ。
リングファイルの表紙を捲り、キャラクター群を開示して、山札から5枚、手札を受け取り、手札枠に開示して並べる。
『決意』が2枚、『執念』が1枚、『狂気』が1枚、そして『健康に良いと言われると逆らえなくなるお年頃』が1枚。
良い引きだ。開始早々に例外をやってみせても、腹の据わっている彼なら理解してくれるだろう。
そこで、ふと思いついて、キャラクター群と手札を逆向きに置き直した。
因獄先輩の席から読みやすいように。
私のカードに記載されているフレーバーテキスト以外の記述が、彼に見えればと思ったのだが、因獄先輩は自分のカードも逆向きに置き直しただけで、特に動揺した気配はない。
良くない。見えてないようだ。
期待した成果は得られず、マナーの押し付けをしてしまっただけだった。
対戦相手に読みやすい向きでカードを置くというのは、一般的には上品な配慮として喜ばれるのだが、知識の足りぬ者と見做す挑発行為であると解釈するコミュニティもあったのだ。
まあ、その辺りの受け止め方は、この世界での決闘作法の理解の深まりとともに熟して行くだろう。
「手札の使用フェーズに入る。僕は『健康に良いと言われると逆らえなくなるお年頃』を使用して、山札から、もう1枚、手札を引く権利を行使する」
引いた手札は『校長先生の長いお話への反逆』だ。
本当に引きが強い。豪運だ。
使用した手札を山札の一番下に差し込みながら思った。
先輩には一体、どこまで見えているんだろう。
『健康に良いと言われると逆らえなくなるお年頃』には青臭い良薬を飲み干して、苦み走った表情の強面のオジサンが、おかわりを求める姿が描かれている




