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右や左の国士様  作者: 隣之 芝生


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第24話 リターンマッチ(中)

 私の懸念は当たっていた。

 因獄先輩は『世界の終わりの羊飼い』の少女の名前を知らず、何も記載の無い特異な絵札であるという認識だ。


 私にも見えなかったのだ。

 『ヨアンナ』の名前も年齢も特技も何もかも。


 そして、因獄先輩は余分に『口を滑らせて』くれた。

 この世界の神前決闘では、宣誓が承認された証として2個のダイスとともに、一枚の絵札が与えられるのだという。

 そう、私の宣誓では2個のダイスしか現れなかった。

 だから先輩は私に『決闘など出来ない』と言ったのだ。

 ごめんね、因獄ちゃん。侮られたと誤解して失礼な態度をとりました。


 しかし悪いのは超越的存在だ。

 この世界のヴィックスは鬼畜仕様だ。

 脳内に現れるカード群のUIは勿論のこと、ルールブックの提供さえ無く、カードの使い方、ダイスの振り時なども分からぬままに決闘を強いられ、カードに記載されたフレーバーテキストだけを頼りに、試行錯誤と数え切れぬ犠牲を経て、 victim と山札の置き場所、先攻後攻を決めるダイスの振り時、手札を取るタイミングと枚数などが漸く分かって来たのだという。


 特に可哀そうなのは、第三世代でローンチされた『バニラ』を与えられた国士様だ。

 キャラクターの印象を決定づける物語、いわゆるフレーバーテキストがない白紙の見た目を揶揄して『バニラ』と呼ぶのだが、ヴィックス愛好家の間では第三世代の有り様を『末期症状』、『丸投げ』などと酷評する声が多かった。


 キャラクター群が増えるにつれて生じる物語の矛盾への批判や、こういう結末を作って欲しいという信者からの度重なる『お気持ち表明』に応じるタイミングで提供されたのが、物語部分を白紙にして『もう、好きにしてよ』とでも言わんばかりの皮肉的な対応だったのだ。

 いや公式は最初から『対戦相手と合意の上で楽しく遊ぼうよ』という姿勢であったので、ルールブックの記述も幅広い解釈の余地があり、皮肉などではなく、一貫した制度設計だったとは思うのだが。


 それにしても、繰り返しになるが、悪いのは超越的存在だ。

 『バニラ』といえども、名前や年齢、特技や特記事項の記載はあるのだが、因獄先輩は全く何の記載も無いと言っている。

 つまり、私が産まれ持って出た、あの道化の絵札の書式が、この世界のヴィックスの仕様ということだ。


 本当に、ごめんね。因獄ちゃん、怖かったよね。

 先に動いた方が負けみたいな手探りをしているのに、手掛かりとなるフレーバーテキストが無いカードを持たされて、相手は手動じゃなくて、ドバドバとカードを出現させて、そりゃあ呪われてるって思うよね。


 返す返すも悪いのは、超越的存在だ。

 私が、また嘘を吐くのは超越的存在の所為だ。

 命懸けで戦っている人達に、あなた達のやっているのは『ごっこ遊びですよ』なんて言えるわけがない。

 できるだけ飲み込みやすい形にして、どうにかしてヴィックスの遊び方というものを伝えなければならないのだ。


 他の5人にも教えてやらねば後で揉め事の種になるかもしれないが、盗聴器を仕掛けていたならば慌てて戻って来るだろうし、準備を怠っていたのなら、そのような盆暗の心配など、してやる義理もない。


「決闘を始める前に、我が家門の秘事口伝について、私も『口を滑らせる』ことにします。私はアレを神とは認めぬので、なんとも抵抗のある比喩ですが、神前決闘とは、つまり神事なのです。収穫を感謝する祭事として神社の境内で神楽舞を奉納するように、決闘をする者は戦いの中で、お道化て見せて、その娯楽を捧げた結果、絵札が進むべき道を示されて勝敗が決するものなのです」

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