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右や左の国士様  作者: 隣之 芝生


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第21話 今生での私の家族模様

 さて、不本意ながら私が叔母に彼女の期待するロールプレイをして見せたことについて説明する必要があるので、お付き合いいただきたい。


 先述のように私は一人暮らしをしている。

 商社に勤務する父は海外赴任中であり、母は泉下の人である。


 ギャルゲーの主人公に求められる行動の自由度を納得させる設定としての『誰からの見守りも受けぬ未成年の一人暮らしを放置する社会』を批判するのは無粋というものだろう。

 だが、この世界の主人公である親友が幸いにして独居ではないのに、サポートキャラであるはずの私こと調貫徹が一人暮らしであることは余計なリアリティの追求であると感じている。


 確かに主人公が求めれば、あらゆる恋愛対象の個人情報を提供するのだから、そこに至るまでの昼夜を問わぬ対象者の監視という行為を想定すれば妥当なのかもしれないが、所詮は脇役なのだから、そこまで深掘りせずとも『新聞部に所属している』程度の味付けで受け流してくれるのではなかろうか。


 いや、私個人としての苦労はない。

 前世に加えて今生での精神年齢も加味すれば老境にあり、しかも身体は瑞々しく壮健で、関節の痛みや老眼から解放されているのだから炊事、洗濯、掃除など楽しくやっているし、独身貴族の生活を謳歌するなど容易いことだ。


 では何故、このように繰り言を述べるかといえば、申し訳ないのだ。

 家族、親族と向き合うと、いたたまれないのだ。


 今生の私は一人娘である。

 母は病弱な人で、私を身ごもった折に医師から母子ともに生命の危険があると告げられて、堕胎を勧められたらしい。だが、母は頑として出産を希望し、私を産んだ母は身罷られた。

 私の名は母の遺志であるそうだ。

 産まれてくるのは男の子であるという確信と、我が身の危険を顧みぬ決意に由縁するという。


 父の苦悩についても、推量するに心苦しい。

 入り婿であった彼が、産まれてきた娘に亡き妻の希望通りの名づけをした胸中は、私には想像もつかない。

 私は不気味な赤子だった。

 産まれ出た時の私は呼吸をしなかったと聞いている。

 助産師というよりは産婆としての経歴が主である老婦人が私の両足を掴んで逆さに吊るし、背中を打って何やら吐き出させ、漸く産声をあげたという。

 吐き出したものは、得体のしれぬ一枚の絵札であった。

 件のカードであり、今も私の手元にある。

 夜泣きなどせず、成長の過程に見合った我儘なども言わぬ娘を、父はどのような心情で見つめていたのだろうか。


 叔母の義憤についても、罪悪感がある。

 母の生家は子沢山で、何かと出費の嵩む家計の維持に追われる祖父母の手の回りきらぬ育児について、長子である母は病弱の身を押して奮闘したようで、末子である辰子叔母には、年の離れた姉への敬愛というよりは、育ての親への敬慕の念が強くある。

 私の名づけに際して、せめて「徹子」としてはどうかと提案していた彼女は、成長した私が男子として振る舞う真意を曲解して嘆き悲しんだ。

 私の中学卒業を契機として海外への単身赴任を選択した父を辰子叔母は口を極めて難詰し、また、男として振る舞う無理などせずとも良いのだと懸命に私を説諭した。

 叔母と呼ぶことを許さず、姉と呼ぶよう要求してくる人情味溢れる彼女に泣かれると、どうしようもなくなって、やっぱり私は嘘を吐く。


 逃げ癖のある私にとって、今生での名は過分なものであり、恥じ入りこそすれど不足不満は無いのだが、道化の絵札を眺めながら、これは超越的存在の悪意ある仕打ちではないのかと恨みを持って疑うのだ。

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