第19話 話せば分かる?
超越的存在により神前決闘の勝敗が宣言された後、因獄先輩が何かの代償を背負わされた様子はなく、どちらかと言えば強引に決闘に持ち込んだ私の方が償いを求められて当然なのだけれど、勝ってしまったから、お咎めなしという裁定のようだ。
プレイングマットが消失して、室内の空気が弛緩したところで、因獄先輩が問いかけてきた。
「君は決闘の法則を、どこまで知っているんだ。なぜ複数の絵札を所有している。咒禁師の秘術というものが――いや、済まない。家門の秘事口伝について詮索するのは許されることではないな」
もうゲームは終了したのに、まだロールプレイを続けてるの? と思いかけて、因獄先輩だけでなく、物部先輩まで悪魔的存在と対峙するヒロインみたいな顔をしているので、ここまでの違和感と照らし合わせて、この人達は本気で動揺していて、私も困惑していて、だから情報のすり合わせが必要不可欠なのだと判断し、提案をすることにした。
「まずは、僕の非礼について謝罪します。神前決闘の結果は、お互いにとって不本意なものだったと思いますが、それは悪意に基づくものではなく、双方の決闘に関する知識と解釈に大きな隔たりがあったためだと考えています」
親友や若葉さんが相手なら、もっと長広舌をふるっているところだが、相手が相手なので一旦、話を止めて反応を見る。
「僕の物言いにも配慮に欠けたところがあったと反省している。謝罪の必要はない。ただ、信じて欲しい。君の生き方を尊重したいと思っているのは本当だ」
おう、そう来たか。
咒禁師云々は依然として眉唾ものだが、私の身辺調査をしたというのは本当のようだ。
因獄先輩は華族で国士院に所属しているというのに、その立ち位置は啓蒙思想寄りで、その事を隠そうともしていない。
頼めば私の欲する情報を――多分、それは国家機密に相当する事柄だと思うのだが、躊躇することなく開示してしまいそうな予感がする。
しかし自分ばかりが得をしては不誠実であるし、潰してしまった因獄先輩の面子についても手当をしなければ、私は今生でも恥と罪を積み重ねることになるだろう。
確かに前世で遊んだギャルゲー内のミニゲームでも開始時点はそうだった。
手持ちの victim は1枚だけで、あとは自分で手にいれなければならなかったのだ。
「因獄先輩、この後、何か御予定がありますか? 差し支えなければ1時間ほどお付き合いいただいて、僕が提供できる利益と、それに見合った対価として知識を授けていただくことについて、相談させていただきたいのです」
因獄先輩の応諾を得て、私はスカートの裾をひるがえしながらクルリと反転して、呼びかけた。
「僕はこれから因獄先輩と二人だけで男同士の話し合いをして来ます。もう暗くなっているので、帰らないといけない人も居ますよね。良かったら、僕の手作りプリンを好きなだけ持って帰って貰えませんか? 親友、言わずもがなだが、ちゃんと送っていくんだぞ」
そう、今生での私の身体は生物学的には女性であり、そして私の性自認は男性である。
辰子おばさ――もとい、辰子お姉ちゃんが気に病むので、不本意ながらスカートなど履いているし、使用するのは女子トイレなのだが、他に女子生徒が居る間は立ち入ること我慢して膀胱炎になってしまったりする紳士であると認識して欲しい。




