第17話 皆で楽しめれば良いのだけれど(中)
おお、咒禁師!
なんと魅惑的な響きだろう。
前世も含めて勘定すれば精神年齢は孫に囲まれた祖父なのだけれど、それでも私の心の奥底に棲むアレな所がワクワクする。
でもねえ因獄先輩、それって、そこら辺を歩いている人の誰にでも当て嵌まるお話じゃないですか。人が産まれてくるには両親が不可欠で、その両親にも両親が居て、つまり、ご先祖様は遡るごとに2のn乗で増えて行くわけだ。だけど、総人口の推移自体は真逆だ。じゃあ、どうやって辻褄が合うのかっていうと、人類皆兄弟、ご先祖様が被っているってことでしょう?
詰まるところ、誰だって10代も遡れば歴史の教科書に出てくるような有名人と何らかの血縁があるってことになる。いくら不穏分子を監視下に置きたいからって強弁が過ぎるんじゃないですかね。
そんな平安時代に廃止された官職の家が出てくるまで遡らないと華族としての家柄を主張できないだなんて、調家は筋金入りの庶民ですよ。
いや、違うか。
そんな大昔まで遡ろうとしたって、余程の名家でもなければ資料なんて残ってないはずだから、絶対に違うっていう証明が出来ないあたりの血統を引っ張ってきたに違いない。
ふむ、悪い話じゃない。
生徒会役員選挙が終わって、親友が初恋成就の道筋の入り口に立ち、若葉さんが男尊女卑の風潮に楔を打ち立てたならば、もうトラブルメーカーの私は二人の側に居ない方が良い。
そして私が国士院大学付属高校に転入すれば、周囲は価値観の異なる国士様方だらけで、因縁をつけて絡んでくれる御仁があれば、喜んでお相手が出来るというものだし、思想的には近いかもしれないが、戦いを挑んで来る確信犯達にも事欠かないときたもんだ。
気がかりなのは、生徒会長になった若葉さんの身に降りかかる困難だけれども、本来のシナリオ進行から大きく逸脱してしまった彼女に予定されていたイベントが発生する確率は低いだろうし、ちょっとした嫌がらせ程度なら、彼女は、その剛腕でねじ伏せてしまうに決まっている。
そもそも、転校しても私の宣誓は継続する。
若葉さんに腕力で解決できない危機が迫ったならば、私が引っ張り出されることになるだろう。
よし、決まった。
状況の整理がついたところで、私は最後の懸念を因獄先輩に問いかけた。
「とても有難いお話だと思います。その時がくればお力添えをお願いしたいのですけれど、ダイスが反応してしまっているのは大丈夫なのでしょうか。その辺りの知識が無いものですから」
私が手のひらに載せて差し出したギラギラと輝くダイスを見て、彼の回答は淀みのないものだった。
「不安に感じるのも仕方がないと思うけれど、大丈夫。君が決闘できなくても、僕達国士は弱い者いじめをするような奴を決して許さないから安心して欲しい」
うん? お前、今、なんつった?
私は生来の小心者で、いつも他人の顔色を窺ってばかりいる卑怯で姑息な逃亡者だけれども、それ以上に肥大した自尊心を抱えていて、侮られるのが何よりも我慢できない。
「卓へ着け。決闘だ」
立ち上がり、協議机の自席に座ると、机上に見慣れたプレイングマットが出現し、脳内にヴィックスのカード群の選択UIが浮かび上がった。
『決闘の開始を承認する』
超越的存在の宣言が室内に響いた。




