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右や左の国士様  作者: 隣之 芝生


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第14話 戦争の無い終末世界

 見通しが甘いと言われれば否定はできないが、自分一人が食べていくことだけを条件とするならば、絶望的な行動計画ではなかったと思う。

 大都市に行けば、住み込みの仕事、日雇労働の募集、家賃は日払いの簡易宿泊施設が立ち並ぶ一角があるものだ。


 もちろん、ありつける仕事は肉体的、精神的な重労働に偏るだろうから、長続きはしないだろう。そうして、貧窮した私は過去の人間関係に縋り、安定した暮らしを求めて故郷に舞い戻っていたかもしれない。

 しかし、過酷な労働に従事して、必要な栄養と休息を摂取することができない日々を過ごした結果、寿命を縮めて、ひっそりと誰にも看取られずに一生を終えることだって出来ていたかもしれない。


 嘘とは何だろう。

 恋は何時かは冷める時がくる。心変わりをすることもある。

 怒りや憎しみは燃やし続けるには多大なエネルギーが必要だ。

 これらの感情を基に何かを決意した、その瞬間、心の中に不純物はなかったとして、時間経過とともに熱量を失い、歩みを止めたとして、それを嘘と云うのだろうか。

 若かりし日に大志を抱き、夢破れて年老いた者に向かって、お前は嘘つきだと世の人々は責めるのだろうか。


 私は超越的存在を神とは呼ばない。

 我々からみれば神にも等しい権能を持ってはいるが、あれは観察者だ。下等生物に刺激を与え、その反応を眺めている。それが研究なのか、娯楽なのかは判じかねる。水槽の中に生えたコケが、己を除去する人間の意思を知覚できないのと同じ程度の関係だろう。


 超越的存在は前世での私の行動を嘘と決めつけ、この世界へ転生させた。

 ギャルゲーをベースとした平行世界であると推測している不可思議な環境だ。


 この世界には戦争がない。

 50年ほど前から、戦争や紛争と呼ばれる事変を起こせなくなったのだ。

 超越的存在の介入があったためである。

 世界大戦の終焉が近づいて、超大国が大量虐殺兵器を我が国に投下しようとした時、大王おおきみと彼の国の大統領の間で神前決闘が行われ、詳細は秘匿されているが、その結果として大量虐殺兵器は勿論のこと銃火器に至るまでの兵器は忽然として消滅し、それでも鈍器などによる戦争行為を継続しようとした国の指導者層は、乳飲み子の状態にまで若返ったなどと言われている。

 まるで『0点、やり直し』とでも宣告されたかのような現象であった。


 そうした状況の中で我が国は、それまでの戦争行為によって獲得した領土を失いながらも国体を維持している。

 以降、国家や民族間の紛争を解決する手段は、話し合いによる以外は、神前決闘での勝敗による決着に限定され、この世から戦争はなくなった。

 しかし、憎しみ合い、傷つけあうことのない楽園が地上に現出したわけではない。


 人々は知ってしまったのだ。

 始まりは定かではない。

 我が子を誘拐され、身代金を要求された父親が怒りに震えて誓ったのだとも言われているし、強盗に押し入られた家の母親の我が子を守るための必死の叫びだったとも言われている。

 我が身の危険を顧みず、心の底から訴えたならば、神前決闘の宣誓は承認されてしまうのだ。

 

 そして気付いてしまった。

 自身の命を惜しまず、心の底から求めれば社会体制の変革を一個人の行動で成し得る可能性があることに。

 それが必要なことだと信じ切ってさえいれば、奴隷が皇帝と同じ舞台に立ち、その頭を踏みつけることができるかもしれないのだ。


 この革命行為に挑戦する者は世界中に現れ、当初の混乱期を経て、体制を維持する権力者側も、秩序維持のための機構を整えていった。

 我が国でいえば国士院の誕生である。

 神前決闘というテロリズムの標的となってしまった為政者達は、存続していた華族制度を基に、国体護持のために身命を厭わないと宣誓をした華族に国士という位階を与え、国士で構成される国士院議会を既存の権力構造に組み込む国家運営の体制を整え、国士様方は社会体制の転覆を企図して決闘を挑んでくる確信犯達と日夜、鎬を削り合っている。


 そして、私が行った神前決闘の宣誓は国士院議会に付属する調査機関の覚知するところとなった。

 私の宣誓は生徒会長選挙の適正な実施を求めるという可愛らしいものだが、見方によっては他の生徒に恐怖感を与えて立候補を躊躇させる脅迫の類であり、また家父長制が色濃く残る社会習俗の中で女子生徒会長候補を擁立するという先鋭的な活動でもある。


 私達は国士院からの呼び出しを受けることとなった。

 出来る限り穏当な形で終わらせたいと思っている。

 しかし、闘争は続けなければならない。戦い続けていれば、きっと機会が巡ってくる。興味を引かれて観察者が覗き込んでくるだろう。


 私は卑怯で臆病な小人物だ。

 平たく言えば器が小さい。だからこそ恨む。根に持つ。

 不平を鳴らしたいのだ。


 もちろん彼我の力量は隔絶しているから、私は平身低頭の風を装って、超越的存在の真意を問うぐらいしか出来ないだろうが、万が一にも彼の存在に失言や油断があれば、揚げ足をとって勝ち誇ってやりたいのだ。

 億が一にも機会があれば、その横っ面を引っ叩いてやりたいのだ。


 実現不可能な誇大妄想だとは思うのだが、私の嘘は本当のことになるのだろう? 

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