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右や左の国士様  作者: 隣之 芝生


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第11話 恥に重ねる罪(中編)

「どうして犬殺しループを単発で終わらせたんですか?」


 車外の景色を眺めながらの問いかけであったため、私はアフォー氏の顔色を窺うことができない。


「ウチのコミュニティでは犬殺しループは禁じ手です。それに……」


 言い淀んだ私に運転席からマスターが断りを入れて来た。


「悪いな。オマエさんが、いつもやってた仮想対戦の内容を俺が、アフォー君に教えてたんだ」


 そう、私はコミュニティの競技会で皆がキャンペーンに参加している間、ビーチフラッグ不戦勝で余った時間を使って、私と息子の仮想対戦を一人二役で行っていた。連鎖を選択しない『犬殺しループ』と、息子が好んで眺めていたお気に入りのキャラクター達で構成されたデッキの勝敗率を研究していたのだ。


 空港は、まだ遠い。何がしかの答えを返さなければならないだろう。


 私の敗北確定後、飛行機に乗らなければ次の予定に間に合わないアフォー氏を、マスターが車で送り届けることとなり、コミュニティの仲間達は、中断していたキャンペーンを再開して、マスターの帰りを待つこととなった。

 しかし、キャンペーンに私の席はなく、私も同乗して、アフォー氏を空港から見送るところまでが予定調和となっていた。


 全て白状することが私にはできない。せめてできるのは、嘘は吐いていないと弁明できる曖昧な言葉遊びしかない。


「父親というものは、息子が乗り越えるべき壁でなければならないと思っています」


 アフォー氏は窓の外を見つめたまま動かない。


「でも、乗り越えるべき壁となることと、残酷な現実を突きつけることは、時には正しく、時には誤ったことであると思います。険峻に見えても乗り越えられる壁となって、窮地を切り抜ける方法を考える機会を与え、諦めなければ報われることもあるという体験をさせたいという心情です」


 ここで、私は自分の失言に気付き、運転席のマスターの様子を窺った。


「構わん。続けてくれ。最終便に間に合わせるために、俺は運転に集中する。居ないものと思ってくれていい」


 私の罪が、また重くなった。


「アフォーさんは、私の息子を演じてくれたのでしょう? あなたの使ったデッキは息子のお気に入りのキャラクター達で組まれていた。であるならば、私は父親を演じなくてはならない」


「勝敗には拘っていなかったということですか」


 やっと、こちらを見てくれたアフォー氏の目は揺れ動いていた。


「わざと負けることだけは、してはいけないと思っています。その上で、偶然や不運ではなく、計算された悪意が世の中にあることを教えたいと思います。そういう遣り口を覚えさせたいわけじゃない。知識として知っておいて欲しい。知っていれば、そうした攻撃を避け、身を守る方法を考えることもできる。険しくとも進み続ければ越えられる壁になり、息子が乗り越えて見せたなら抱きしめて褒めてやりたい」


 アフォー氏は両手で顔を覆い、肩を震わせ始めた。

 笑いを堪えているのだったなら、どんなに良かっただろう。

 嗚咽まじりにアフォー氏は語る。


「父は自分の余命が、あと半年であることを僕に隠していました。当時、僕はトレーディングカードゲームを生活の手段として生きていきたいと考え始めていた時で、反対する両親とは、いつも言い争いをしていました。ただの胃潰瘍だからと言われて、それを鵜呑みにしていた僕は病室で父と言い争いをして、喧嘩別れになりました」


 アフォー氏の両手から涙がポタポタと零れ落ちている。


「最後に父が私にかけた言葉は『この、ど阿呆、勝手にしろ』でした。僕が世界大会で初優勝して、その報告に行ったのは父の臨終の翌日でした。僕の活動の妨げになってはならぬと、父は自分の容態を僕に知らせることを母に禁じていたんです」


 アフォー氏は顔をあげ、おそらく彼にとって一番大事な、こころの奥底にあるものについて話し始めた。


「僕が『あ、あ、あ、あ、』という名称を公式大会での登録名にしているのは、父が僕に向けて言った『ど阿呆』が由来です。でも、それは想いとしては半分で、残りの半分は誰にも言ったことがありません」


 アフォー氏は、私の手をとり、続けた。


「僕は父に言えなかったんです。でも、今、あなたを通じて父に伝えたい。父さん、愛してるよ」


 私は、アフォー氏を抱きしめた。

 長い間、言おうとして言えなかった彼の想いを受け止めるためではない。

 私の嘘偽りの表情を見せぬためだ。

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