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セイクリッドの伝説の武器

 突然現れたシャダーラに、クラスメイト達は慄き一斉に離れる。シャダーラはそこからまた二体目、三体目と床から生えてきた。

「何とかしてよ柚子! エクソシストでしょ‼」

 何かのトラウマが蘇った千賀が慌てて柚子を盾にする。

「無理だな。今は武器を持っていない。あと俺は正確にはエクソシストじゃない。手伝ってるだけだ」

「こんな時に正論言わないでよおーー!」

 そうこうしていると、大騒ぎになる教室の窓からコンコンッと音がした。

 柚子が窓の方に目をやると、そこにはユーリがいた。

「おいここ四階だぞ。どういう状態なんだ。」

 そう言って柚子が訝しげに見たので、ユーリが説明する。

「魔導具を使って、浮遊魔法を使っている」

 それを聞いた柚子は、少し驚いた。

「魔法使えたんだ……。じゃあ魔法でシャダーラは倒せないのか?」

「シャダーラは我々が使っている特別な武器……ホーリートゥールでしか倒せない。それに魔法といっても、浮遊したり、物をワープさせたり、単純なことしか出来ないんだ」

 ユーリは答え終わると、校庭の方に目配せする。

「それより校庭を見てみろ。こんな話をしてる場合じゃないぞ」

 柚子が窓の方に近づき校庭を見下ろすと、そこには見たことのない数のシャダーラの集団がいた。千……いや、二千は超えているだろう。

 柚子が窓に身を乗り出し、校庭のシャダーラ達を眺める。

「多いな」

「多いなっていうレベルではないだろう。さて、どう対応したものか……」

 ユーリが悩んでいると、校庭にいる隊員たちが叫ぶ。

「部隊長ー! この数、今までのやり方では間に合いません! 『アレ』を柚子に使ってもらいましょう!」

 ユーリはギョッとした表情で返す。

「『アレ』だと!? 『アレ』は未だかつて使えた者がいない。触れたらどうなるか分からんぞ。こんな子供に使わせる気か!」

「でもこのままじゃ我々もこの建物にいる学徒達も危ないですよ! 一か八か『アレ』を使うしかないです……!」

「くっ使うしかないのか……『アレ』を……‼」

 窓からだらんと腕を下ろしながら聞いていた柚子が、思わず口を挟む。

「いや、アレってなんだよ……」

「アレはアレだ。おーい! ではとにかく転送魔法でこちらに持ってきてくれ! 『アレ』を!」

 ユーリが下に向かって叫んでるのを聞きながら、柚子は俺が使うのに説明は無しかいと内心思ったが、同時にワクワクもした。なぜなら、この状況で持ってこられる『アレ』すごい武器に違いないからだ。未だかつて使えた者がいない……この上なくワクワクする中二ワードである。

 柚子が胸躍る気持ちを抑えながら、また校庭を見ると、なかなか地獄絵図になっていた。五十人ほどの隊員は、大量のシャダーラに攻撃を与える余裕もなく、ほとんど逃げ惑っていた。

「おい、あいつらも浮遊させてやったらどうだ。空中から攻撃した方が効率がいいだろ」

 柚子の提案をユーリはあっさり否定する。

「魔導具は希少なもので数が少ないんだ。私もこの教室のシャダーラを片付けたら下に戻る。君も下で応戦してくれ」

「色々不便なんだな……。分かった、下に行ってくる」

 柚子は校庭に向かい、ユーリは窓から教室に入ってくる。大鎌を持った男が入ってきたことにより、教室のパニックはヒートアップした。悲鳴をあげられたユーリは早めに片付けようと心底思った。


 柚子が校庭に出ると、隊員数人がホッとしたように駆け寄ってきた。

「助かった…! この石盤の上に『アレ』が転送されてくるので、来たら使ってくださいね!」

 柚子が足元を見ると、魔法陣のようなものが描かれた石盤が置いてあった。なかなか中二心をくすぐられる仕様である。

 少しすると、何かが浮かび上がってきた。これが例の『アレ』かとワクワクしながら見ていた柚子は、実体が現れると少し拍子抜けした。現れたのは、天辺に宝石のようなものが付けられ、その下には大きく羽根を広げた金色の天使の男性の彫刻が施された、30センチ弱の棒状のものだった。

 これが武器か?————柚子は初めそう思ったが、すぐに気がついた。

「これは剣の柄の部分か? 本体はどこだ……?」

 そう、これは柚子の読み通り、剣の柄だった。柚子が謎の柄を観察していると、後ろから声がした。

「剣先は、奇跡の天使ゼリオティアネスに選ばれし者が手に取った時のみ出現すると伝えられている」

「ユーリ……もう来たのか」

 教室のシャダーラをさっさと片付けたユーリが、下に降りてきていた。

「その剣はゼリオティアネス・オブ・セイント・ファルシオン…………【堕天使の聖片手剣】という。一度堕天した上級天使ゼリオティアネスが、改心して地上を救った際に使用した剣だと伝えられ、大量のシャダーラを倒せると言われている。だがセイクリッドの有史以来、誰も使ったという記録は残っていない」

 ユーリの説明を聞いた柚子が、得意気にポーズを決めた。

「伝説の武器的なやつってわけか……フッ俺が使うに相応しいな…………」

 なんの迷いもなく手に取ろうとする柚子に、ユーリは釘を差した。

「ふざけてる場合ではないぞ。誰も使ったことがないということは何が起こるか分からないということだ。これまでの上級武器…………君は何ともなかったかもしれないが、失神したり、火傷を負ったり、しばらく目覚めなかった者もいる。正直命の保証は出来ない……本当にいいのか?」

 ユーリの言葉に柚子は真っ直ぐな瞳でユーリを見返して答える。

「ふざけてなどいないが……。この状況じゃ、どう転んだってタダじゃ済まないだろう。俺はみんなを置いて逃げる気はないよ。どうせなら試させてくれ、俺が伝説の器か…………!」

 柚子がゼリオティアネス・オブ・セイント・ファルシオンの柄を手に取った瞬間、そこを起点に大きな突風が起こった。

 何も見えない状況でユーリ達が心配する中、風が次第に収まっていく。そして姿を現したのは————五メートルは優に超える、炎のように揺らめく光の柱だった。

「大丈夫か、柚子! 何事もないか?」

 ユーリが慌てて駆け寄ると、柚子は空いてる手の親指と人差し指でLの字を作って顎に当てていた。

「う〜ん、なんか、意外と軽いな。」

「……大丈夫そうだな」

 柚子のいつも通りの様子に、ユーリはホッと肩を撫で下ろす。

 しかしそうこうしている間に、柚子とエクソシスト達は大量のシャダーラに囲まれていた。

「とりあえず、これ振り回せばいいんだよな」

 柚子が剣を振るう準備をする。

「多分。任せたぞ」

 ユーリの言葉に了解、と目配せして、柚子はシャダーラ達に剣を振り落とした。

 一閃、光の筋が現れたと思えば、振り落とされた刃の周りを嵐のように大きく風が舞う。その風に触れたシャダーラ達は、次々に光の粒に変わっていった。その数、百はいっただろうか。

 柚子は、そこからさらに水平方向に剣を振るう。するとさっきよりも多くのシャダーラが、神々しい風に飲まれて消えていった。この一時の攻撃で、三百以上のシャダーラが討伐されたのだ。

「信じられない光景だ……」

 思わず声を漏らしたユーリと同様、その場にいたエクソシストの全てが立ち尽くし、その神々しく、恐ろしささえ覚える光景に見惚れていた。

 二千はいたシャダーラ達は、柚子の剣によってあっという間に殲滅され、校庭にはエクソシスト達の歓喜の声が響き渡った。

「よくやった柚子……!本当に感謝してもしきれないところだ」

 駆け寄ってくるユーリ達に柚子は明らかにドヤ顔でポーズを取っていたが、もう誰も気にしていなかった。そんなことが気にならなくなるほどの、大きな、大きな偉業を成し遂げたのだ。

 柚子の周りにエクソシスト達が集まった。柚子は数種類のポーズを次々決めた後、しばらくの沈黙を置いて口を開いた。

「で……この剣、どうしたらいいんだ?」

 五メートル以上ある光の刃をまじまじと眺めながら、ユーリが答えた。

「分からん」

 こうして、シャダーラ大量出現の騒動は、無事幕を閉じたのであった。

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