昼休みの雑談
翌日の昼休み、柚子は弁当を広げながら、千賀と小春と一緒に談笑していた。教室はゴールデンウィーク前とあって、どこに出かけよう、家で何をしようと、少し浮き足立った雰囲気だ。そんな中、柚子は異質な話をしていた。それはエクソシストとしての活躍の自慢である。
「そこで俺は第二の上級武器であるシエライン・フィズィ……【天雨の散弾銃】を使った。雨の神レイニューズが、俺に力を貸したのだ……。幾十といたシャダーラは一瞬で光の粒に変わり、空へと散っていった……」
柚子は箸を蛍光灯の方に向け、おもむろに天を仰いだ。とはいえ教室の中である。天井がまぶしかったのかすぐ左目を腕で覆う。
千賀は柚子の話に「へえ〜」と言いながら黙々と食べ続けている。ちなみにこの「へえ〜」は日に日に棒読みになってきている。柚子の討伐自慢は毎日続いているのだ。
そんな中、小春が少し話を盛り上げようと試みた。
「その『雨の神レイニューズ』って柚子の考えた設定? ……あ、設定って言っちゃった」
柚子が体勢を戻して答える。
「いや、これはユーリから聞いた情報だ。セイクリッドの武器にはひとつひとつ由来があるらしい。ちなみにユーリも持っているトゥルノワール・ゴッドサイス…………千賀や小春も見た真っ黒い大鎌は、漆黒の神と呼ばれるトゥルノワールが使っていた鎌だと言われている。」
なるほど、と小春が頷く。
「トゥルノワールって神様の名前だったんだね」
「そうだ。神の名がそのままついている武器も多いらしい。トゥルノワールは女神でありながら心に暗黒を抱えていた。謎も多く、気安くこの鎌に触れると闇に飲まれてしまうという……しかし俺は使いこなした。俺はトゥルノワールに選ばれたのだ」
柚子はまた天を仰ぎ、眩しいので今度は目をつぶった。
小春が話題を続ける。
「そういえばシャダーラの話、学校でも何人か出会した人がいて噂になってるよね。SNSでも話題になってたよ。都市伝説扱いだったけど」
小春の話に、柚子はスタイリッシュに額に手を当てクールな表情を決めた。
「俺に取材が来るのも時間の問題だな。まあ、いつも通りシャダーラを倒す……それだけだ」
少しの沈黙が生まれた後、弁当を食べ終わった千賀が口を開いた。
「そういや柚子ー、漫画の方はどうなってんの?」
千賀は強引に話を変えてきた。もうシャダーラの話はうんざりらしい。
「あ〜……今はエクソシストの仕事が立て込んでるからな。俺は忙しいんだ……」
フッとポーズを決める柚子を、千賀はつまらなさそうに見る。
「じゃあそのエクソシストの活動記でも描けば〜?」
「……なるほど、悪くないな。神に選ばれし女子高生の、エクソシストとしての奇跡的な華々しい活躍……考えておこう」
得意気な表情で新たなポーズを取ろうとする柚子に、また話を戻される気配を感じた千賀はさらに別の話題に移った。
「漫画と言えばさあ〜! 柚子の中二病の元凶のりゅうきくん、気になったからあれから小学校ん時の友達30人くらいに聞きまくったんだよね!」
それを聞いた柚子は、少し呆れた表情になり千賀の方を見る。
「お前そんなことしてたのか……何か言ってたか?」
千賀は少し身を乗り出しながら、りゅうきという少年の調査結果を語り始めた。
「なんかその子、めちゃくちゃ評判悪かったよ! ツインテールの子しか友達いなかったって……それって柚子の話だよね? 癇に障るとすぐ手が出たらしくて、怖いし暗いし誰も近づかなかったって! ……ほとんどそんな意見だったよ」
「ああ……確かに手はすぐ出たな」
何でもないように答える柚子に、千賀は驚いて声を上げる。
「なにそれ大丈夫だったの!?」
「俺もあの時友達いなかったからなあ……。今から考えるとかなり変わった奴だったけど、人のこと言えるか分からないし……まあなんというか、悪い奴じゃなかったよ」
そう言った柚子を、千賀は目を丸くして見つめた。
「柚子ってたまに器バカでかいって思う時あるわ……」
千賀の言葉に少し首を傾げながら、柚子が話を続ける。
「でも、漫画も楽しみに読んでくれてたしな。今から考えると多少押しつけた感あったけど」
「ああ、言ってたヒーロー布教漫画? 確かにそこに関してはいい子だよね。だってその子ヴィラン派だったんでしょ? 私なら絶対読まないわ」
「千賀はいつも俺の漫画流し読みしてるもんな」
やや愚痴を挟みつつ柚子が続ける。
「でも漫画を描き終わる前に転校したから、完成するまで読んでもらえなかったんだよな……。てか、なんの挨拶もなく急に転校したから、描きそびれたというか。結構仲が良かったとこっちは思ってたんだが……やっぱあいつ性格悪かったのかな」
千賀と話しながら柚子はふと小春の方を見た。話題が変わってから、急に話に入ってこなくなっていたからだ。俯いて、箸も止まっている。
「小春どうした? 気分でも悪いのか?」
柚子に呼びかけられた小春は、ハッとした表情で顔を上げた。
「だ、大丈夫」
小春が何故か言いにくそうに、もごもごと続ける。
「その、竜来って子って…………」
「きゃああああああー‼」
「なんだ! なんか出てきた‼」
突然教室に悲鳴が響き渡った。教室の真ん中に、シャダーラが出現したのだ。




