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柚子の活躍

「神聖なる月の光よ、全ての闇を葬らん!ルナシャイン・フレイル【月光の連接棍】————‼」

 そう唱えた柚子は、トゲトゲした月白の鈍器が先についた、鎖状の武器を振り回す。月光のように輝く鈍器は次々とシャダーラ達に当たり、それらを光の粒へと変化させていった。

 その場に出てきた最後の数体を倒し、振り回していた鎖の武器を回収した柚子は、右側だけ下ろしている前髪をかき上げた。

「フッ……口ほどにもないな」

 そこに、散り散りになって戦っていたユーリ率いるエクソシストの隊員達が合流する。

「柚子、今回も見事だった……しかしその前口上、毎回必要なのか?」

 ユーリの問いに、柚子は左手で右目を覆い、腕をカッコよくクロスさせたポーズで答える。

「必要に決まってるだろう。技名を唱えない攻撃など、画竜点睛を欠くに同じこと……例えるなら、彩りのないマカロンのようなものだ!」

「そうか……」

 ユーリが気力のない目で返事をしていると、ユーリより一回り上くらいの、赤い短髪に短い顎髭の男性隊員が近くに来た。副部隊長のシエルカだ。

「ユーリ、この世界の残りのシャダーラはあと何体くらいだ?」

 シエルカから尋ねられたユーリは、おもむろに左目の眼帯を取る。柚子はユーリが眼帯を取るところを初めて見た。

「ふっ、遂にあんたの能力を知るときが来たか……。俺と同じ片目に宿る力……見せてもらおう!」

 ユーリは柚子のセリフをとうとう無視し、左目に意識を集中させながらゆっくり周りを見渡した。しばらく見回した後、少し疲れたように左目を抑える。

「あと八千体弱いるな……。二千体は倒したようだ」

 それを聞いた部下達はぱあっと明るくなった。一週間で二千体というのは、第三部隊では異例の数字である。

 部下達が快活に声を上げていく。

「この調子なら、あと一ヶ月ほどあればこの世界でのシャダーラは殲滅できるのでは?」

「やりましたね! もっと長期戦になると思ってたから安心しましたよ」

「それもこれもこの柚子という少女のおかげですね……」

 部下達の喜びの声に、ユーリは「そうだな」と呟きながら、柚子が今持っている武器……ルナシャイン・フレイルをまじまじと見つめた。

「しかし、トゥルノワール・ゴッドサイスに続き、シエライン・フィズィ……そしてルナシャイン・フレイルまで使えるとは…………。複数の上級武器を使えるのなんて、エクソシストの中でも最強と謳われる第一部隊の部隊長くらいだぞ……一体なんなんだこの子は……」

 ユーリの話を聞いた柚子は、斜め上の虚空を見つめながら呟く。

「俺は神に選ばれし聖なる光……暁光の器なのだな。自分の才能が恐ろしいぜ…………」

「今日はもう解散するか」

 ユーリは柚子の呟きをスルーして帰ることを促した。まだ出会って一週間だが、ユーリは柚子への返しがもうめんどくさくなってきている。

 それにもう日が暮れかけていた。いくら柚子がシャダーラを倒す上で心強いといっても、子供を四六時中こき使うのはユーリのポリシーに反するらしい。なので柚子は主に、学校から帰って来てから日が暮れるまでの間だけ、討伐活動に参加している。

「ああその前に……」

 柚子が、自身も休憩の準備に入ろうとしていたユーリに話しかける。なんだ、と言うようにユーリが向き直った。

「さっき使っていた左目、どんな力があるんだ?」

 柚子はユーリの左目の能力がかなり気になっていた。ユーリは左目を眼帯の上から抑えて答える。

「ああこれか、俺は生まれつき左目が色々視えてしまってな。その代わり長時間使うと疲れるから普段は眼帯で覆っているが」

「色々?」

「ああ、主にシャダーラについてだが。まずその世界にいるシャダーラの数が分かる。遠くにいるものは気配を感じるだけだが、ある程度近場にいるものは場所まで感知できる。また目の前にいるシャダーラについては、特性があれば読み取れるな。」

「へえ。シャダーラを倒すにはかなり役に立ちそうだな」

 柚子は、この際色々気になってたことを聞いてしまおうと思った。

「そういえばシャダーラは、具体的に人間にどういう影響があるんだ? 出くわす度に全滅させてたからピンと来ないんだが。初めて会ったときに小春が動けなくなったのは見たが、どういう影響なのか分からないままだし」

 ユーリは顎に手を当てて少し考えるような仕草をした。

「そういえば戦ってる相手の情報を詳しく話していなかったな。攻撃を受ける気配が微塵も無かったから倒し方のコツしか教えてなかったが、危険な戦いに巻き込んでいたのに説明が不十分だった。……面目ない」

 ユーリが続ける。

「シャダーラが与える影響……それはこちらの世界でいう災害、いや伝染病に近いのかもしれない。君の友達にかかった靄は、シャダーラの出す瘴気だ。あの瘴気は人間に絡みつき、その人間の生命力を奪って己の源にする。少し当てられたくらいならしばらく力が入らない程度だが、大きく被害を受けると病気になったり、長期間原因不明の体調不良に臥す事になる」

「え……? ヤバいな…………?」

「そう、ヤバいのだ。わが国セイクリッドでは定期的に災害のようにシャダーラが大発生する。それを大半が戦闘能力の低いエクソシスト達で片付けている。シャダーラとの戦いは、我々の世界で最も問題になってると言っても過言ではないだろう……」

「………………そうか、大変だな」

 ちなみに柚子の「ヤバいな」はそんな大事な話を一切されてなかったことを指していたが、言い返すのは面倒くさくなったのでやめた。

「じゃあそろそろ帰るか……」

 柚子はエクソシストが預かってる荷物を待つ間、少し周りを見渡した。すると少し遠くの方に、単体のシャダーラと一人の隊員がいた。

 ユーリが少しうんざりした顔をする。

「まだいたのか」

 そう言いながら向かうユーリに、柚子も暇なのでついて行く。走りながら、柚子はまた疑問を口にした。

「シャダーラっていつも突然湧くよな。出てくる条件やタイミングって分かってるのか?」

 柚子をチラッと見たユーリが、同じく走りながら答える。

「それも分からないので困っている。ただやつらは気まぐれだからなあ…………案外何の意味もないのかもしれない」

 ユーリの意見を、柚子は否定はしきれなかった。気まぐれ……その言葉に心当たりがあったからだ。

 シャダーラは集団で現れることもあるが、単体や数体でうろうろしていることも多い。また集団で現れてもそのうちの何割かはすぐに姿を消すこともあり、団結して何かしようという意思は感じられない。各々好きに動いている感じだ。言うほど攻撃的でもなく、瘴気さえ発しなければ害はないのではと思うレベルだ。

 しかし一点だけ難がある。それは…………。

「わああ! 返せ! 返してくれ‼」

 ユーリと柚子が駆けつけると、シャダーラが若い男の隊員の武器を持っていた。シャダーラは腕を大きく伸ばしてピュリフィケーションアローを高々と上げ、隊員は返せ返せとぴょんぴょん跳びはねている。

「わああ、部隊長! すいません、武器を片付けようとしてたら急にシャダーラが現れて! 今っ、取り返し…っ!」

 隊員がぴょんぴょんを続けていると、シャダーラは高々と上げた武器を揺らし始めた。目のような光の部分を細め、笑ってるようにも見える。しかし奪った武器を使って攻撃してくる気配はない。

「おい、あまり近づくと瘴気に当たるぞ。そのシャダーラは私達が何とかしておくから、君は下がっていろ」

 そう言ってユーリがいつもの大鎌を準備していると、柚子が横から口を挟んだ。

「なあ、シャダーラってなんというか……イタズラ好きなのか? この前は女の隊員の後ろをただひたすらつけ回していたが。足を引っ掛けられて転けてた隊員もいたな」

 ユーリはシャダーラに鎌を振り下ろしながら答える。

「そうだな。そうとも捉えられる。正直突然出てくるのも、驚かそうという意図があるんじゃないかと思っている」

 光の粒に変わっていくシャダーラを見つめながら、柚子は言葉を返す。

「なんか、なんだろう、小学生……小さい子の意地悪みたいだな」

「それはそうかもしれんな。なんせ奴らは————」

 ユーリが何か言おうとした時、向こうから数人の隊員達が慌ててやって来た。

「部隊長! また30体ほど現れました、応援願います!」

「やれやれ、休憩する時間もないな」

 そう言いながら向かうユーリが、ついて行こうとする柚子の方を振り返った。

「もう夜だ。君はもう帰れ。30体くらいなら我々でどうにかなる」

 柚子は「そうか……」と露骨に残念そうな顔で返事をして、その日は家路に着くことにした。

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