中二病、目覚める
ここで一度補足を入れるが、柚子がここまで落ち着いているのには実はもう一つ理由があった。
友達二人が大ダメージを受けているので感情こそ表に出していないが、彼女は今非常にテンションが上がっていた。怖がるどころか、この状況を楽しんでいたのだ。
だってそうだろう、思い出してみてほしい。彼女は生粋の中二病である。こんな中二的状況、二度とない夢のような時間だ。
柚子はぶっちゃけ、落ちてきた鎌を触りたくて仕方なかったのだ。
この主人公のことをまともな奴だと思いかけてたであろう読者諸君を引かせたところで話を戻すが、鎌をもった柚子が気を失うことはなかった。
それどころか柚子はすぐさまシャダーラの大群に向かっていき、小柄な彼女より遥かに大きな鎌を勢いよく、水平に一振りする。
シャダーラ達は次々と上下に真っ二つに割れていった。十体はいっただろうか。なんとユーリの一振りの倍以上の数が、光の粒に変わり空に消えていった。
「なん……だと……」
鎌を取られたユーリは呆然と立ち尽くしていた。もちろん自分の鎌を勝手に取られたからではない。
「トゥルノワール・ゴッドサイスをここまで使いこなす者など、見たことがない。あの少女は一体……」
トゥルノワール・ゴッドサイスとはユーリが持っていた鎌の名前だ。
エクソシストの武器にはランクがあり、使う者の「器」によって持てる武器が変わってくる。トゥルノワール・ゴッドサイスはかなり上級者用の武器だった。
ピュリフィケーションアロー……ユーリ以外の者が使っている弓矢は、先ほどユーリが言っていた通り初心者用の武器で、エクソシストなら誰でも使える。
と……言うと、そんな武器しか使えない部隊は大丈夫かと思われるだろう。しかしエクソシストのほとんどは、実はピュリフィケーションアローしか使えないのだ。
他の上級者用武器が使えるのは幹部クラスのみ……第三部隊においてはユーリだけだった。それほどまでに器のある者は少ないのだ。
その器がなんなのか………それはセイクリッドでも解明されていない。体力説や精神力説など説はあるが、実を言うと謎が多い。その中で確実に言えることは、生まれ持って決まっているものということだ。
セイクリッドの歴史上、努力などにより使えなかった武器が使えるようになった者は存在しない。その点で言うと、柚子が訓練など無しでいきなり武器を持ててもおかしくはなかった。
だがそれにしてもだ、柚子のトゥルノワール・ゴッドサイスの使いこなしは尋常ではなかった。
最初の一振りで十体弱のシャダーラを倒した柚子だが、そのまま倒し続けて今は一振りで二十体は倒している。もうユーリの比ではない。一人で残りのシャダーラを全滅させんとする勢いである。
また柚子が振った鎌からは、ユーリの時には出ない紅蓮の閃光が走っていた。
「あの閃光はトゥルノワールの慈愛……。私がどんなに鍛錬しても、出せなかった光だ……」
ユーリの言うトゥルノワールの慈愛……それは、トゥルノワール・ゴッドサイスと親和性の高い者だけが出せる特別な光だ。攻撃力が高く、この光に触れただけでシャダーラは消滅してしまう。つまり柚子はこの力でシャダーラを一気に倒している。
ちなみに、近年のセイクリッドでトゥルノワールの慈愛を出せるものは出ていない。稀有な光景に立ち尽くすユーリに対し、柚子用にピュリフィケーションアローを持ってきた隊員が声をかけた。
「あの女の子何者なんでしょう⁉ ユーリ部隊長より遥かにすごいじゃないですかー‼ あっこれ使います?」
ユーリのプライドはこっちの世界に来てからわりとズタズタである。
ユーリは引きつった笑みで返事をしながら初心者用の武器を受け取った。
「あの少女に続けーーー!」
ユーリの掛け声と柚子の猛進により、エクソシスト達の士気は一気に上がった。
***
「協力感謝する」
ユーリが柚子に一礼する。
二百体以上いた周囲のシャダーラ達は、柚子の活躍華々しく無事討伐を完了した。
柚子は額に手をかざし、斜め上に顔を向け、虚空を見つめながら答える。
「ふっ。当然のことをしたまでだ。」
そこに千賀と、千賀に肩を貸してもらいながら少し歩けるようになった小春がやって来た。
「柚子〜! ありがとう〜! 何が何だかちっともさっぱり分かんないけど生きてて良かった〜! ほんと死ぬかと思った〜!」
大泣きしてパニック状態だったので状況をよく分かっていない千賀が、やっと元気を取り戻したようだ。
小春も柚子にお礼を言う。
「本当にありがとう柚子、私全然何も出来なくてごめんね。」
柚子は先ほどのポーズを続けながら、目線だけ小春に移す。
「何、礼には及ばない。俺の秘めたる才能……闇の底に眠りし聖なる力が長いシュラーフより目覚めただけだ……」
彼女らのやり取りを黙って聞いていたユーリが口を開く。
「あの…………そろそろその鎌、返してくれないか?」
柚子は左手にユーリの鎌を持ったままだった。
ポーズを決め、再び虚空を見つめ始めた柚子はユーリに問いかける。
「この鎌の真の名はなんという?」
「は?」
「名前だ。弓矢にはピュリフィケーションアローとか名前がついてただろう。この鎌は何ていうんだ」
ユーリが非常に困惑しながら答える。
「その鎌は……トゥルノワール・ゴッドサイス、またの名を【漆黒の神の大鎌】という」
その名を聞いた柚子は、手に持ってるその鎌を見つめながら噛み締めるように言った。
「トゥルノワール・ゴッドサイス……【漆黒の神の大鎌】…………ふっ、俺に相応しい名だ」
近くにいた千賀に、ユーリが心配そうな表情で尋ねる。
「この子、頭でも強く打ったのか? さっきから様子がおかしいぞ」
「通常運転です〜」
千賀がしょぼくれた遠い目をして答えた。
横で小春がふふっと笑う。
「きっと安心したんだね。ユーリさん、心配いりませんよ」
小春達の言葉を聞いても、若干飲み込めないユーリだったが、柚子の方を向き直し話を続ける。
「その鎌を気に入ってくれたのは良かった。いや、それは私の物なので後で返してもらうが……新しいトゥルノワール・ゴッドサイスを調達しよう」
ユーリが続ける。
「君には類まれなるエクソシストの才能がある。それでだ、今後もこの世界でのシャダーラの討伐を手伝ってほしい。可能だろうか?」
「任せろ‼」
待ってましたと言わんばかりに、柚子は食い気味に返事をした。




