表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/19

蘇る思い出

 なんの光も感じられない暗闇の中、竜来はゆっくりと姿を現した。

「またお前か…………」

 竜来が鋭い目で柚子を睨みつける。それはこの世界に対する全ての憎しみが込められたような、そんな視線だった。

「いらない、いらない、もう全部いらない……‼ みんな消えればいい、お前も、消えろ‼」

 竜来から紫の光が燃え上がるように発せられる。柚子はビニール袋からそっと下剋上ヒーローの原稿を出し、激昂する竜来に見せた。

「これ、覚えてるか?」

「それは…………! 下剋上ヒーロー…………⁉」

 竜来の怒りの炎は少し落ち着き、柚子の元に近づいて来た。下剋上ヒーローの表紙をまじまじと見た竜来は、柚子と少し距離をとって再び睨みつける。

「何でお前がこれを持ってんだ? これはゆずのものだ! ゆずに何かしたのか⁉」

 竜来はやはり今の柚子を認識出来ないようだった。柚子は少し間を置いて答える。

「俺は……あれだ……柚子の親戚…………親戚のお姉さんだ! これは柚子に借りてきた」

 それを聞いた竜来はまきまじと柚子の顔を見つめる。しばらく見つめられた柚子が、なんとなくニッと笑った。

「確かにそっくり……笑った顔が一緒だ。親戚だったんだ」

 竜来はそう納得すると、少し落ち着いたようだった。でもすぐにまた、疑問を口にする。

「何でゆずは来ないの? オレのこと、嫌いになったの……? 何で漫画だけ持ってきたの?」

 柚子は屈んで、目線を竜来の頭の高さに合わせた。そして安心させるように笑いながら答える。

「柚子は熱がちょっと四十度くらい出て来られなかったんだ。でも、漫画を竜来に見せてほしいって頼まれた。出来たんだよ、下剋上ヒーローの最終回」

「え⁉」

 竜来は戸惑って、目を丸くした。柚子を見つめるその瞳は、だんだん潤んできたようにも見えた。

「ほんとか……?」

「本当だよ! 一緒に読もうぜ、下剋上ヒーロー‼」





 柚子と竜来は、おさらいも兼ねて一話の冒頭から読むことにした。漫画を下に広げ、一緒にのぞき込む。

「宇宙を股にかけヒーロー達が活躍するコスモワールド————なんか懐かしいな!」

 漫画を読み始めた竜来は、ワクワクした瞳をしていた。柚子は昔の竜来に戻ったみたいで少し嬉しくなりながら、一緒に読み進める。

 貧乏な星プアラから、みんなで金持ちの星々の大星に行って泥棒をするユウキ。プアラの子供達に盗んだお金で手に入れた食べ物を配っていると、ヒーロー募集の広告を目にする————

 竜来は一話に目を通すと、一度顔を上げた。

「やっぱヒーローがドロボーって変なの! ゆずって何でこんなこと思いつくんだろう」

 ニカニカ笑う竜来に柚子が答える。

「竜来が悪い奴にしか感情移入しないから、必死に悪い設定を考えたらこうなったんだ。ある意味竜来のおかげだな」

「ん? 何で分かんのそんなこと?」

「……って、柚子が言ってた」

 その言葉を聞いた竜来は、ぱあっと嬉しそうに微笑んだ。

「そうなんだ! じゃあオレのおかげだな!」

「……そうとも言えるかな」

 手柄を取られそうになったので若干言葉を濁したゆずは、大人気ないような、でも同級生だしなという複雑な気分になった。

 竜来を見ると、得意気になって体を揺らしている。しかしそれでも、この暗闇が浄化されるような気配はない。笑っていても心に闇を抱えている——それは、生きている時も同じだったのかもしれない。

「続き読もうぜ! 次はバディラとの出会いの話か!」

 二話はユウキの初仕事、宇宙怪獣バディラとの戦いだ。バディラはプアラ星から出てくる骨のような鉱物「ボーノ」が大好物だ。そのためプアラ周辺でよく暴れるので、駆除の依頼が来た。ユウキはバディラに「あっ! あそこにボーノが!」という古典的な嘘で騙し討ちをする。

「このユウキの『ダマシウチパンチ!』が、その後に必殺技になるとはな!」

「いい必殺技だろ」

「ああ! 最強の必殺技だ!」

 その後ユウキがバディラを仲間にする展開を迎え、二人は二話を読み終えた。

 久しぶりに読み返した竜来は、ユウキの初バトルを思い出して興奮した様子だった。ユウキの真似をして柚子にダマシウチパンチをしようとしたが、柚子は大人気なく引っかからなかった。

「マカロンで引っかかると思ったのに。お前はマカロン好きじゃないの?」

「大好きではあるが引っかかるほど単純じゃない。俺はバディラみたいにアホじゃないからな」

「ひでえな…………」

 竜来はつまらなさそうに座り直すと、今度はしみじみ落ち着いた様子で語り始めた。

「でも最初読んだときはさ、卑怯なユウキカッケーってだけだったんだけどさ、今読んだら違うんだ」

 柚子も竜来の横に座り直し「何が?」と尋ねる。竜来は少し見上げながら答える。

「ユウキがバディラを仲間にした意味が分かった気がする。この後バディラはユウキの最高の相棒になっていくだろ。それは、大金もらうより大事なことだったんだ。あの時ゆずが言ってた意味がちょっと分かったよ」

「…………やっとわかってくれたか」

「何でお前にそんなこと言われなきゃなんないんだ……」


 その後も、二人は一緒に読み進める。ユウキに初めてヒーローの友達が出来る話に入った。

「隣の星のヒーローの、ネイバーとケンカする話だ! ここわりと好きだったんだ! ヒーロー同士でくだらないことでケンカが始まったから、面白くて」

 ユウキはネイバーとのケンカでも容赦なくダマシウチパンチを使う。伸び切ったネイバーに、ユウキが放つ決めゼリフ。そのシーンを竜来が指さした。

「「何と言われようと、勝っちゃったもん勝ち! それが俺のヒーロー道だ!」」

 二人は声を揃えると、顔を見合わせて笑い合った。そこにいたのは紛れもなく————あの頃の小学一年生の二人だった。


 そして物語はアキラ…………ユウキのかつての泥棒仲間であり親友のアキラと、完全に道を分かつ話に入っていく。

 ユウキが一緒にヒーローをやろうと誘い続けて来たアキラが、ヒーロー協会の最大の敵組織クリムゾンに入る……アキラはヒーローになれなかった、両親を死に追いやった大星の人間達を、世界を、許す事が出来なかったのだ。

「アキラ…………」

 竜来は最初読んだ時よりも、ずっと感情移入している様子だった。没頭して読んでいる竜来を柚子が見守る。一通り読み終えた竜来が、おもむろに口を開いた。

「今は、前よりアキラの気持ちが分かるよ。オレも世界を、家族を許せない。オレは、どのみちヒーローにはなれなかったのかもな…………」

 そう呟く竜来に、柚子は掛ける言葉が見つからなかった。


 話は竜来を心変わりさせた、心に闇を抱える大星の少年ウィリーと出会ったユウキが、大星の人間も自分達と同じなんだと葛藤する回へと進む。

「オレはここで、恵まれたやつにも悩みがあるのが分かった。ウィリーは辛かったって、また思った。でもやっぱり…………羨ましいな」

「羨ましい?」

 柚子が尋ねると、竜来が少し間を置いて答える。

「だってウィリーは、それでも大人になっていくから。生きていけるから」

「竜来…………」


 その後ユウキは、分け隔てなく人を助けるようになっていく。そして二人は、柚子が小学一年生の時描いた分を読み終わった。


「とうとう最終回だな……ここからは新作だぞ」

 柚子の言葉に、竜来はドキドキしてきたのか急に正座になった。そして、柚子がゆっくりと小学一年生の時描いた最後の紙をめくり、新しいページがお目見えする————しかしそれを見た竜来は、かなり驚きのけぞった。それから何度も原稿に顔を近づけ観察する。

「おかしい! おかしい! これゆずが描いたんじゃないだろ‼」

「は?」

「絵が上手すぎる!!!」

 最終回は、高校生の柚子が描いた。言うまでもなく、この十年漫画を描き続けた柚子の画力は飛躍的に上がっている。時間がないので雑に描いたとは言えど、デッサンの正確さは雲泥の差だった。

 ここで疑われるというまずい状況だったが、柚子は嬉しさが勝ったのか少し得意げになった。鼻に指を当てる柚子に対して、混乱中の竜来が尋ねる。

「ゆずが描いたってウソだったのか⁉ これプロじゃん!」

「そんなにほめても何も出ないぞ」

「何言ってんだ⁉ どういうことなんだよ」

 喚く竜来に、柚子は窘めるように言葉を返す。

「あのなあ、柚子はあれだよ、頑張ったんだよ。竜来がいなくなってから、すごく頑張ったんだ」

 柚子の話を聞いた竜来は、一瞬納得しかけた。しかしすぐに、いやいやいやいや……と否定する。

「いやいや絵って上手くなるのにいっぱい時間かかるんじゃねえの⁉ それこそ大人になるくらい……」

 竜来は柚子の顔を見つめたまま、急に静かになった。

 そして、真顔になって呟く。

「そっか…………そうだったんだ」

「ん? どうした?」

 竜来は柚子の言葉には返さず、原稿の前に戻っていった。そして正座して原稿を見つめる。

「読むよ。頑張って描いてきたんだろ? あんなに悩んでたのにな……」

「おお! 読んでくれる気になったか!」

 そうして竜来は、下剋上ヒーローの最終回を読み始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ