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起死回生の一手

 ————なんでオレだけこんな目に……なんでオレには明日がないんだ…………許さない……許さない!許さない……!!!————

 押し寄せる竜来の壮絶な体験と感情に、柚子は立っていられなかった。竜来の強い感情が、柚子に流れ込み続ける。

 それでも、柚子は立ち上がった。

「竜……来……っ。俺はお前を……救いたい…………!」

 柚子の言葉に、竜来はさらに険しい表情になる。

「綺麗事ごと言うな‼ 誰も助けてくれなかったじゃないか……大人は! 誰も助けてくれなかった‼ みんなも酷い目に遭えばいいんだ、みんな、みんな……‼」

 子供のまま時間が止まっている竜来には、大きくなった柚子を認識することができなかった。竜来の強い拒絶とともに、柚子は再び外界へと押し戻されてしまった。

 ダメージを受けたまま夜の空に弾き出された柚子は、浮遊魔法を使いこなす余裕もなくバランスを崩す。

 そこに一人の男性がやって来て、柚子をキャッチした。

「シエルカ……」

 柚子を助けたのはシエルカだった。そういえば、左目でサポートすると言っていたユーリの姿がない。

「ユーリは……?」

「ユーリは先に回収した。かなりダメージを負った様子だったからな。助けた時に左目を押さえていたが、何に使ったんだ? 麓に降りたら説明してもらうぞ」

 精神暴露術を使った結果、竜来を本体としたドラゴンシャダーラは落ち着くどころかさらに暴れ出していた。隊員達は少しも近づく事ができず山の麓まで追いやられていた。

 シエルカは、柚子を隊員達がいる麓の方まで運んだ。雨のかかりにくい大木の根元で降ろされると、そこにはぐったり横たわるユーリがいた。柚子は自分もヨロヨロの状態だったが、心配そうにユーリの方に近づく。

「ユーリは…………大丈夫か?」

「ああ、意識はある。しかし二人ともダメージが大きそうだな。何があった?」

 シエルカが尋ねると、ユーリが仰向けのまま口を開いた。

「私は……左目で……おそらく柚子と同じものが……視えた…………あの少年の、重々しい記憶、憎悪が…………」

「視えてしまったのか……」

 ユーリと柚子の会話を聞いたシエルカは、なんとなく状況を察したようだった。

「まさか、精神暴露術を左目で視たのか……。無謀なことを。今はローディカルテがいるからいいが、指揮官がダメージを食らってどうする……まあ、お前らしいと言えばお前らしいが」

 シエルカが山の方を見上げる。山の上にはドラゴンシャダーラの紫の瞳が禍々しく浮かび、それは徐々に麓の方に近づいてきていた。

 シエルカは眉を寄せ、柚子達の方に向き直した。

「しかし、精神暴露術をもってしてもやはり難しかったか……。この様子じゃ何度も使うのは危険なのは承知の上だが………倒せる見込みは見つかったか?」

 シエルカの言葉に柚子は考え込み、ユーリが先に口を開いた。

「無理だ…………。浄化出来るような……そんなレベルの闇ではなかった。幼い子供があんな目に遭うなんて、セイクリッドでは考えられない————いや、シャダーラになった子供達はそうだったのかもしれない、イニュティルの子供達は……私は、何も見えてはいなかった」

「そうか…………」

 解決策が見当たらない……重々しい空気が流れる。シエルカは藤影市街の方に目をやった。

「あのシャダーラが街に降りるのも時間の問題だな……。とにかく、この世界の住人の避難が急がれる。柚子、協力頼めるか?」

 シエルカの言葉に、柚子から返事はなかった。柚子がまだ考え込んでいたので、その様子を見たユーリは「無理もない……」と溢し同情した。しかし柚子は、落ち込んでいるわけではなかった。

 柚子は希望を見失ってはいなかったのだ。

 竜来は、柚子の下剋上ヒーローに強く影響を受けていた。そして、ユウキを道標にしていた。竜来にとって柚子の漫画は希望だったのだ————そこに竜来を救う方法があると、柚子は考えた。

 柚子がおもむろに立ち上がる。

「ユーリ、シエルカ。俺に三時間、時間をくれないか?」

 ユーリは驚いた表情をしながらも起き上がり、そして少し晴れやかな表情に変わった。

「算段はあるんだな?」

「ああ、必ず竜来を……あの少年を救う作品を描きあげる……‼」

 その後高速移動の魔導具を用意してもらった柚子は、すぐさま自宅へ向かった。

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