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変わっていく竜来

 10月になり、竜来に見せる漫画も終盤に差し掛かろうとしていた。

 少し秋の風が涼しくなってきた放課後、いつもの校庭のベンチに座りながら竜来に漫画を見せていた。

 その日の回は、葛藤を乗り越えまた一つ成長したユウキが、大星も含めたあらゆる人間を助けるようになり人気者になっていくというものだ。

 竜来はいつものように漫画を熱心に読み、そして感想を口にした。

「すげえな、ユウキは。みんなを助けて、人気者になって…………」

 それは、数ヶ月前のひねくれた竜来では考えられないコメントだった。

 俺は、自分が描いた漫画が影響を与えているのが嬉しくて、またニヤニヤした。

「憧れちゃった?」

 俺の一言に、竜来は顔を赤くして露骨に動揺する。

「あこっ……憧れてなんかねえよ!」

 竜来は焦ったように持ってた漫画を俺に突っ返してきた。それでも俺がニヤニヤしながら見ていると、おもむろに小声で呟いた。

「でも、オレなんかでも……こいつみたいに、なれるかな?」

 なんてな〜とちょっとごまかす竜来に、俺はニッと笑って返す。

「なれるぞ、絶対に! ヒーローも、いいもんだろ?」

「ユウキみたいなやつなら…………悪くはないかな」


 その日俺はウッキウキで家に帰った。ここからは最終章………ヒーローとして大成したユウキと、道を分かち悪の組織「クリムゾン」のトップになったユウキの元親友・アキラとの全面対決である。




 それから、一ヶ月半が経った。漫画は進まなかった。

「う〜ん」

 朝、俺が唸りながら歩いていると、後ろから背中を軽く叩かれた。

「おはよ。漫画描けた?」

 声をかけてきたのは竜来だった。俺は苦虫をつぶしたような顔をする。

「毎日毎日言うなよ〜。いつかは絶対完成させるから、いつかは……」

「もう十一月の二十日だぞ。それにあとラストバトルだけなんだろ。早く読みてえなあ〜」

「うるさいなあ〜! そのラストで悩んでるんだよ‼」

 読者にネタバレするわけにはいかないので言えなかったが、俺はアキラをどうやって改心させたらいいか分からずずっと悩んでいた。

 アキラは大星の人間に利用され両親を失ったという重い設定にしてしまった。だが俺は、ユウキがただアキラを倒して終わりではなく、仲直りしてほしかったのだ。そのためには、アキラに正義の心を芽生えさせて改心させなくてはいけない。でも設定が重すぎて、どうしたらいいか全く分からなくなっていた。

 俺がうんうん唸り続けていると、見慣れない男子が二人近づいてきた。

「おはよー! りゅうきくん」

「おう」

 俺は目を見開いて立ち止まった。

「へ? りゅうきに……友達……?」

 声をかけてきた二人は、一人は眼鏡をかけた短髪の男子、もう一人はマッシュヘアのほわっとした男子だった。どちらかと言うと優等生に見える、とても竜来と関わりそうには見えない子達だった。

 立ち尽くす俺を置いてきぼりにして、三人はどんどん進んでいく。俺はそこから勢いよくスタートダッシュして追いついた。

「何でりゅうきに友達がいるの!? ゆずまだ他にいないのに‼」

「知るかよ! 失礼だな!?」

 俺たちの会話に困惑気味の二人のうち、眼鏡の方が話に入ってくる。

「君、りゅうきくんのお友達? 僕たち昨日りゅうきくんに助けてもらったんだ。それで仲良くなって」

「助ける……? りゅうきが……?」

 理解を超えた展開に、真顔の俺の頭の中ではビッグバンが起こっていた。

 眼鏡は続ける。

「昨日帰ってから学校で遊ぼうと思って二人で来たらさ、高学年っぽい人達が遊具を独り占めしてて。帰れ帰れって言われたから僕がムッとして言い返したらその人達に囲まれて困ってたんだ」

 眼鏡が説明していると、マッシュヘアが興奮気味に会話に参加してきた。

「そしたらさ! りゅうきくんがやめろー!って入ってきて。なんだゴラって言うお兄さん達に第三の目を見せ始めた時はどうしようかと思ったけど、その後恐ろしくしつこく言い返したり僕達も引くくらい駄々をこねたりしたから、疲れたお兄さん達が帰っていったんだ! すごかったんだよ!」

 褒められてるのか貶されてるのかは分かりかねるが、とにかく竜来が助けに入ったことだけは分かった。聞いてる限り人を殴った様子もなさそうだ。

「どうしたんだよりゅうき? 新型の風邪でも引いたの……?」

「一生失礼だなお前。オレもさ、ユウキみたいにやろうと思って」

「えっ?」

 竜来は俺から目を逸らして、前を向いて少し顔を上げた。そしてちょっと照れくさそうに続ける。

「ユウキならこうするなと思って。それにオレ、ユウキの真似をしてたらオレを好きになれるんだ」

 竜来の言葉の意味は、俺には半分分からなかった。でも、きっとユウキを、ヒーローを大好きになったんだと嬉しくなった。

 それと同時に俺は、漫画の展開を考えるためにヴィランについて深く考えるようになったことを思い出した。

「ゆずはさあ、逆に最近ヴィランの気持ちをいっぱい考えるようになったよ。今まではもっと良いことすればいいのにって思ってたけど、そんな簡単じゃなかったんだな……」

 竜来は俺の言葉に心底嬉しそうな顔をした。

「お前やっと、ヴィランの良さも分かったのか。記念に第三の目を描いてやる。これでお前も闇の力が……」

「え〜、やだよ〜」

 俺達が笑いあっていると、後ろに付いてきていた二人が話に戻ってくる。

「ヒロヴィラの話? 二人も観てるんだ!」

「面白いよねえー‼」

「お前らも観てるのか! よし、じゃあ今度四人でヒロヴィラごっこやろうぜ! ゆずがヴィランな!」

「なんでだよ‼」

 新しく友達になった二人は別のクラスだったので、また改めてみんなで集まろうという話になって、俺達はそれぞれの教室に向かった。


 竜来が転校したと先生に言われたのは、その数日後のことだった。


 竜来がいなくなって、漫画を描くモチベーションも落ちた俺は、休み時間に下剋上ヒーローのらくがきだけを描いていた。すると、クラスメイトの一人の女子が話しかけてきた。

「すごーい! それなんの絵?」

「えっと……オリキャラみたいな」

「オリキャラとかすごっ! ねえみんなー! この子めっちゃ絵上手いよ」

 クラスメイトがわらわら集まってきて、俺はアワアワした。

「ゆずちゃんだっけ? すごいね。友達になろうよ!」

「え? え? うん」

 戸惑いながら、俺は返事をした。おおーっと盛り上がるクラスメイト達の中、ふとこんな声が聞こえた。

「今までずっとりゅうきと一緒にいたから近づきにくかったよねー」

「そうそう。どんな子かと思ったけど普通の子じゃん」

 俺は俯いて、小さい声でつぶやいた。

「りゅうきは、良いやつだったよ……」


 それから俺は友達が増え、そこそこ充実した小学校生活を送った。


   ***


 下剋上ヒーローの原稿を見ながら思い出に浸っていた柚子は、雨風が叩きつけるような音で外が嵐になっていることに気がついた。

 時計を見ると、小一時間は考えていたようだ。もう夕方の五時半だった。外は雨風が強まっているようで、すごい音がしている。

「天気予報では雨は止むって言ってたけど、外れたな」

 そう言いながら柚子はまた、未完成に終わった原稿に目をやった。

 竜来の話題が出なければ、ずっと埋もれたままだったかもしれない原稿……ここで読み返すことになったのも、何か意味を感じた。

「続き、考えてみようかな」

 もう読んでくれる人はいないけど————そう思いながらも、下剋上ヒーローの最後に思いを馳せてみる。


 残るシーンは、ユウキとアキラによる最後の戦い。あの頃は、バトルの中でユウキがアキラを説得し、二人が仲直りする流れを考えていた。しかしアキラをどうやったら説得できるかが思いつかないままだった。

 アキラの両親は、大星の人間に低賃金で危ない仕事をさせられていて命を落とした。大星の悪い人間にだまされていたのだ。そんな経験のあるアキラが、大星の人間を許すのは容易ではないだろう。ユウキですら何話もかけて大星にも色々な人間がいることを理解していった。それをユウキより重い経験をしているアキラが短いバトルの間で説得されるだろうか。

 今の柚子は、中二病が進行したのもあり、悪役側の気持ちに感情移入できるようになっていた。なので余計に説得されるというのに現実味が湧かない。

 思い悩む中で柚子は、ふとあることに気づいた。

「そもそも許す必要はあるのか……?」

 ユウキとアキラにはお互いの信念がある。なら、その信念を持って思いっきりぶつかり、勝敗をつければいいのではないか。

 しかし、アキラがただ死んでいくのは嫌だ……柚子はそう思った。

「アキラにも生きた意味を遺したいな」

 そう思ったのはきっと………………。


 ドンッドンッドンッ!


 嵐の音の中に、窓ガラスが大きく叩かれる音が混じった。

 柚子がカーテンを開けると、窓から二階なのに人影が見えた。既視感を感じた柚子が窓を開けると、びしょ濡れのユーリが浮遊魔法で立っていた。

「……傘させよ」

「それどころではない! シャダーラが出たのだ!」

 ユーリは真剣な表情で、かつ少し焦っている様子だった。柚子は落ち着いたまま、普通に言葉を返す。

「おお、シャダーラか。久しぶりだな。その慌てぶりだと、四千体が一気に出たとかか? なあに、こないだの大剣を用意してくれれば一気に……」

「四千体が合体している」

「は?」

 今までシャダーラは、集団発生してもそれぞれ気まぐれに好きに動き、協力して何かすることさえなかった。それが合体……いや、合体とはそもそもどういう状態なのか。

 困惑した表情をした柚子に、ユーリが続ける。

「シャダーラが合体していて、一つの生命体になっているのだ! 来れば分かる、早く準備しろ‼」

 柚子は階段を駆け下り、合羽だけ着てすぐさま家の外に出た。家の前にいたユーリの足元には、魔法陣が描かれた鳥に近い形の乗り物のようなものが、二台置かれていた。

「今回は特別に高速移動出来る魔導具を用意した。君も乗ってこい」

 新しい魔道具にちょっとテンションが上がるのを抑えつつ、柚子は空飛ぶ乗り物に跨った。

 ユーリと向かった先は、藤影市内にある「影山」という地元の山だった。二人は麓付近の山道のところに着陸した。ユーリが少し気味悪そうに、あたりを見回す。

「さっきいた時も思ったのだが、少し寂しいというか、暗い雰囲気の山だな」

 その言葉を聞いて、柚子は少し暗い表情になる。

「影山は曰く付きだからな……。普通に登山してる人も多いけど、気味悪がって近づかない人も結構いるんだ。もっとちゃんと整備すれば、そういう場所にされないと思うんだが…………」

「そういう場所…………」

 ユーリは何かこれ以上聞かないほうがいい気がして、本題に切り替えた。

「ここからは狭いので、シャダーラが出た地点まで歩いてついてきてもらおう」

「分かった」

 ユーリに付いて歩いていく柚子は、歩いた先には何があるか知っていた。それはこの山で特に曰く付きとされる、古い大きな吊り橋だ。吊り橋の百メートルほど下には川が流れており、下を見ると多くの人が恐怖を感じる高さである。

 三十分ほど歩くと、霧の中うっすらと吊り橋の入り口が見えてきた。これからここを渡ればいいんだな————そう思いながら進み、視界がひらけた瞬間、柚子は目の前の光景に驚愕した。

 吊り橋の中央にいたのは、今まで見たシャダーラからは到底想像出来ない、桁外れに巨大な、おどろおどろしい存在だった。


 何メートルあるかも分からない高さ……その漆黒の巨体は、もちろん吊り橋からは大きくはみ出していた。上部には角のようなもの、下部には長い尾のようなもの、後ろには翼のようなものが生え、それを雄大に広げている。そして大きな紫の光を放つ瞳で、こちらを鋭く睨みつけていた。


 その姿はまるで——————


「ドラゴンだ……………………」

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