第十四話「襲撃:裏」
ラベン、この都市の粛清騎士が襲撃されている頃、
各地区を行き来する鉄道の管理を任された役所、鉄道局
そこもやはり、情報が錯綜し、混乱の極致であった。
中央政府との連絡線が爆破、市長、副市長が支庁局の爆破と共に行方不明
伝聞で様々な情報が送られ、
事実確認を急いでいた彼らに訪れたのは
黒い魔術師による襲撃だった。
「こ、こんなことをしてどうするつもりだ!」
椅子に座ったまま、両手を上げて、そう抗議する男、
そして、その前の机に座り、片足をあげて、
銃を突き付けている男がいる。
周囲には縛り上げられた職員たちに
統率の取れた動きで周りを走りまわる人々
職員たちを歩かせ、書類を整理している彼らは
ジーンズや外着用の厚着のコートを着た一般人のようにも見える。
だが、全員、突撃銃、アサルトライフルのような武器を携帯し、
決まった形の大きな黒のリュックサックを背負っている。
「それ聞いてどうしようってんです? 局長さん」
にやけ面で銃を突き付けている男がいる。
テオだ。
「あんたらに何にも説明する義理はねえよ」
「貴様ら!」
憎らしそうにそうつぶやく局長と呼ばれた初老の細身の男性
に良く見えるよう、テオは机に銃を放った。
机に火の玉が貫通する。
局長は一瞬目をつぶって体をこわばらせた。
「ここを無血開城しなかった時点で、
あんたらと取引も何もする必要がねえ」
「総督」
一人の男がテオに話しかける。
テオと歳は同じくらいか、それ以下の若い利発でおとなしそうな人間の男
眼鏡をかけていて、まっすぐとした綺麗な黒髪をしている。
テオよりも身長は高いが、線の細い体形の青年
テオと同じような黒コートを着ているが彼には少し大きいらしい
「なんだ?」
「第二地区、各地方、都市から通達がありました。
あらかたが降伏、もしくはこちらのハンター、兵士によって
占拠が完了したようです。」
直立不動でそう報告する男の報告を聞くと、
「わかった」
するとテオは机から降り、伸びをした。
「あ~、案外うまくいったな
寄せ集めでもなんとかなるらしい」
「そうですね
ですが、やはり総督のおじいさまの協力もあってこそかと」
「まあ、そうだわな
ホント、先祖には感謝だな
ここまででかい財産を築いてくれたし、
それを俺一人で食いつぶせる」
「ははは、この調子だと、ご子息には何も残らないのでは?」
「確かになあ」
そんな二人の雑談を聞いていた局長が突然、
何かを思い出し、驚愕する。
「あ、あんた、テオっていったか!?
テオ・クラーク!?」
「なんだ?
・・・そうだぜ
クラーク家、唯一の直系子息、
嫡子なのをいいことに先祖の遺産食いつぶして
革命で無駄遣いしてる次期当主
まあ、ジジイが好きにしろって言うから好きにやってるだけだが」
「あんたみたいな人がなぜ・・」
「それこそ話す義理はないね」
段々と周りの動きが止まり、何人かの兵士が彼の下へと集まってくる。
彼らが利発そうな男と話し、
「・・・・・完了したようです」
その合図とともにテオが全員に語り掛け始めた。
「ご苦労、諸君
事前の通達の通り、第五班以外は撤収、五班はここの管理だ。
そしたら後」
その時、兵士の一人が
テオの元まで走ってきた。
「すいません。テオさん、ちょっとトラブルが」
そう耳元でささやく兵士の声を聴きながら、
「明日の出立に向けて準備せよ」
とだけ言い、兵士に連れられて歩き出した。
「で、トラブルってのは?」
「それが、ここに子供がいたんです。」
「子供? それで?」
「物置部屋の隅っこにうずくまってたんですが
そこから何言っても動かなくて」
二人が、資材置き場に行くと、
そこでは兵士一人がその子供に話しかけていた。
「なあ、嬢ちゃん」
かがんで話しかけるが
その少女は震えてうずくまったままだ。
「おい、どうした?」
テオがそう言うと、
話しかけていた兵士は立ち上がり、
「それが、何言っても反応してくれないんですよ
別にここ使う予定ないんで、いてくれてもいいんですが、万が一ってことも」
テオもその子供を見る。
すると、下を向いていた子供の顔がゆっくりと
上の向き、テオと目が合った。
そして、指を刺した。
「い、いた、いた、いた」
「あ? どうしたんだ? 俺がいたから」
テオは咄嗟に兵士二人を手でつかんだ。
瞬間、その子供から黒い剣のようなものが出た。
腕と胸、それぞれが変化し、三人を貫こうと伸びる。
だが、テオは三人同時に一瞬消えて、
物置部屋の外に現れた。
「あ、あれは一体!?」
驚く兵士にテオは整然と
「お前らは他の兵士と副官に報告しろ
ここに敵が出たってな」
二人は廊下を走りだす。
テオはドアから一定の距離をとり、通路をふさぐように
立った。
すると、ドアが破られ、中から化け物が体を出した。
180cmほどの体長、
光沢のない黒色をしたやせ細った体
人のような体をしているが、腕や足先だけが大きい。
あばら骨らしきものが浮き出て、胸のあたりの二つのふくらみの先と
その真ん中に剣のような突起が生えている。
顔らしきところには何もなく、切り株のような黒い円があるだけで、
腰からは尻尾が生えており、ズルズルと床に引きずられている。
「あんたに話は通じないっぽいな」
テオは懐から拳銃のようなものを取り出し、
それを右手で持ち、化け物の方へと向けた。
そして、左の手の指をくいくいとまげる
口角を上げ、にやりと笑うと引き金を引いた。
青い薄い光が化け物へと飛んでいく。
薄い蜘蛛の糸にもにた軌跡を描き、
化け物に当たると、そこに爆発が起きた。
小さな爆発は胸の肉を少し飛ばしたが
また化け物の体は再生していく。
更に間髪入れず何度も引き金を引くが、
化け物は少し爆炎に仰け反る程度で、
その中から小さな剣を伸ばして反撃した。
しかし、テオが手を前にかざすとそれは何か固い壁がそこにあるかのように
勢いよくぶつかり、力なくその場に落ちた。
「あ~あ、どっちも決定打にかけるなあ」
するとそこへ
「総督!」
5人の兵士が通路の先から声をかけてきた。
「敵とは・・・あれなんだ」
口々に驚きの声を上げる兵士たち
テオは消え、兵士たちの横に現れた。
「さあて、その魔導銃の性能も見ないとな
総員構え」
テオが兵士の後ろに立ち、号令をかける。
それを受けて兵士たちは銃を構えて、
「撃て」
一気に発射した。
銃から連続して
オレンジ色の火の玉が化け物めがけて飛ぶ。
それが化け物の体に焦げ跡を残し、
仰け反らせる。
余りの手数に化け物は立っているのが精一杯なのか
反撃に出てこない。
だが、それも次第に止んでいく。
そして、一斉に止まってしまった。
「交代で撃った方がいいのかね」
その後に残った化け物の体は数か所の穴が開き、
片方の腕が落ち、もう片方も落ちそうになっていた。
しかし、それも少しづつ繋がっていく。
煙が噴き出し、徐々に体が再構成され、
胸に残った剣をまた発射しようとした。
その時、テオが兵士たちをどけて、手をかざす。
その中に、明るく光る赤い球体があったかと思うと
それが破裂し、化け物めがけて、赤白い光線が発射された。
廊下を突き抜け、化け物を溶かす。
部屋のドアや壁、向こう側にも伸びていった光は
壁を突き抜けた。
光がやんだ後、残っていたのは焦げて、所々がどろどろになった廊下
とぽっかりと壁に空いた穴だけだった。
(周りに敵は・・・)
テオが目を閉じ、周りの気配を感じる。
(居ないな)
「よし、お前らもういいぞ、俺から副官には話しとくから
休憩しとけ」
「はい」
そう言って兵士たちは散っていった。
「これどうしよ・・・・」
そんな中、テオは一人残り、少し立ち尽くした後、
あの利発そうな男に事の顛末を話に行ったのだった。




