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evil tale  作者: 明間アキラ
第二章 「変身」 ー第二地区襲撃編ー
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第十四話「襲撃:後編」

世界に穴をあけたような

手の形の暗闇を動かし、

手をひらひらと移動させ、動かす。


手を握り、指で触る。


「オレの、腕か?」


それに肌の感触はなく

岩のような硬さを感じる。


体に新たな感覚が増え、後ろを動かすと触手が伸び縮みし、動き回る。


そして、


「体ン中から溢れてくる。」


彼の口角が吊り上がり、恍惚とした表情を浮かべる。


自分の体内に力があふれ、新しい魔力の感覚がある。

欲したものがやっと手に入った満足感

新しいものを手に入れた高揚感

全てを思い通りにできるような万能感

全てが一気に流れ込んできて、

彼から笑みがこぼれる。


「ハハハハハ」


自分の姿が変わり果てたことへの違和感も恐怖もなく

すべて受け入れるどころか

それらすべてを心から祝福している。



「な、なにあれ・・」


エミリーはその姿を見て愕然とし、

立ち尽くしていた。


そんなエミリーに彼の視線が向いた。

エミリーの背筋が凍りつき、冷や汗が流がれる。

その異質さに驚き、人とは似て非なるものに恐怖してしまう。


(コイツ、どうなっ)


そう思ったのも束の間、

ソイツは消えた。



彼女の視界から消え、代わりに、

彼女の目には鉱物のように固い拳が迫っていた。


「あ」


それが彼女の顔を殴り飛ばした。

彼にとって初めての感覚、

顔を覆っていた固い膜のようなものを突き破り、

エミリーの顔に拳がめり込む。

そして、そのまま振りぬき、

彼女は後方へと吹き飛んでいった。


施設内を吹き飛び部屋を突き抜け、壁を壊していく。


ルーカスは施設内に転がる誰かの体を

踏み越えてゆっくりと彼女に近づいていった。


瓦礫の向こう、

剣を支えにして、フラフラと立つエミリーの

鼻は若干曲がり、鼻血が噴出している。


「ああ、クソ」


鼻を手で戻し、鼻血を鼻をつまみ、かんで出す。


「油断した」


剣を両手で構えて待ち構えるエミリーの下へ

吹き抜けになった一階を歩いて

ルーカスが歩いてくる。


石や建材を踏み砕いて、ゆっくりと余裕のある足取りで

彼女の方へと近づいていく。


「あんた・・・あの時、あいつの後ろにいた」


「アア、さっきぶりだナ」


両手を広げて、話すルーカス

先に向かって細くなり、尖っていく触手の先がエミリーの方を向き、

ゆらゆらと揺れている。



そして、その先から

赤い雷が帯電し始めた。


「なっ!?」


そして、一気に放出された。


一つ一つ、雷が宙にほとばしるが

エミリーはすべてを軽やかに避ける。


そして、横に走り出した。


ルーカスを中心にして円を描くように走る。


(どうする・・・)


後ろに回ってもそこへ雷は掃射される。

次々と打たれる雷、

一瞬で彼女がいた場所へと放たれるが

もうそこに彼女はいない



一度撃ち、避けた先を予測して撃っても、

剣で弾かれたり、避けられたり、など

簡単に対処される。


そして、彼女の剣に赤い光が浮き出始める

避けながらそれが濃くなり、雷が集まっていく。

構えて、


「はあ!」


撃った。


後ろからの電撃

それにルーカスは、後ろを向いて手をだした。


「なに!?」


黒い手は電気をはじく。


「まだまだあ!」


エミリーの放つ赤い電撃がさらに太くなる。


確かにそれは電撃が当たった彼の手の一部を溶かした。

指が溶け、手のひらが焼けていく。

だが、溶けた側からその部分は再生し、

溶けては治り、溶けては治り、を繰り返していた。


(効いてるけど・・効いてない)


ルーカスは何食わぬ顔ですぐさま触手をエミリーに向けて、

また電撃を発射した。


「ふん!」


電撃をやめてそれを避けるエミリー

戦いは並行線になりかけていた。


彼女は相手を見据える、

落ち着き、基本的な中段の構えを取り、思考を巡らせる。

ルーカスの方からは近づかず、触手で遠距離攻撃を仕掛けるだけ

致命傷にはなりえないが、エミリーも彼に対して決定打が欠けていた。



(こんなイタチごっこ続けても

剣が消耗するだけ。替えはない。

あいつの再生能力を上回るには・・・)



本当に見たことのない生物

魔獣ならああ動くだろう

人間なら、エルフなら、獣人なら

こう動くだろうという常識が通じない相手


しかも、こともあろうにルーカスは動かないのだ。

さっきまで触手で攻撃していのもやめて、

ニヤニヤして、触手を向けるだけ


(あれで・・・・・いくしかない)


エミリーは呼吸を整え、相手を見据え、

踏み込むぞと圧をかける。



だが、

ルーカスは反応しない。

下がったり、防御したり、避けようとする

そんな当たり前の反応を示さない。


(そこまでの達人か? いや、そんなわけない

今までのを見ればわかる。

筋はいいけど技術があるようには思えない。

基本的には魔獣と同じ、本能的な強さ)


エミリーがじりじりと近寄る

すり足で少しずつ距離を詰める。


剣の赤い光が青く変わり、

刃の全体をほんのり包む。

一部の青い光の線が彼女の前腕へ食い込む。


(取れる・・・・今!)


瞬間、エミリーはルーカスの元まで一気に接近し、


(取った!)


剣を心臓付近に突き刺した。


「食らえ!」

ルーカスの手が動く前に

魔力をこめ、剣を動かした。


縦に、横に、斜めに

彼女の動きが倍速近くにまで速くなる。

高速で動き、細切れになるよう刻んだ。


(固い! 消耗が激しい!

だけど・・・・

ここで終わらせるわけにはいかない!)


彼の顔だったもの、体だったものが

バラバラになり、地面に落ちていく。


一瞬、一秒にも満たない間の出来事


それは完全にルーカスの原型が

わからなくなるほど刻んだ。


「はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ」


切り終わり、肩で息をするエミリー

目の前には肉塊だけ


大量の汗が吹き出し、

外にその心臓の鼓動が聞こえそうなほど動機も激しい。


「おわ、、、、った?」


(もう一歩も動けない・・・)


座れない。

もし、座ったら今日は立てない。

この状態からやることは大量にある。

それをしないといけない。


どうにか剣を支えにして立ち、

歩き出そうとした時、


肉塊が黒い液体のようなものに変わり、

彼女の周りを動きだした。


(ま、まさか)


エミリーの顔が青ざめる。

荒い呼吸のまま、ただ立ち尽くしいているが


「ごはぁ」


突然何かが彼女の腹を殴打した。


彼女の体はおもちゃのように簡単に浮くが

黒いモノに腕を掴まれているせいで吹き飛んでくれない。

衝撃が逃げて行かない。


体がくの字に曲がる。


段々とその黒いモノが変形し、腕に変わり

突き立てられたのが誰かの黒い拳だとわかる。


黒いモノが巻き上がり、

体が形成されていく。


そして、彼女に二度三度と殴打が襲う。


「お゛へえ」


口から赤色の混じった透明な液体を吐き出し、

剣を握る力が緩んでいく。


そして、もう一発、鎧に拳上のくぼみがくっきりと浮かび上がり、

体が浮き上がる。


「アア、」

体が現れ、顔が現れる。

目の前に現れたのは

ルーカスだった。


「すげえなア」


元通りに戻ったルーカスは左手でエミリーの腕を掴み上げる。


「あああああああ!!!!!」


腕がきしむ。

鎧がへこみ、筋肉と骨が押しつぶされる。


(魔力抵抗が・・・)


「アンタァ、ガス欠かなァ?」


(がす? 何言って)


「次はオレの番だな」



そこへ、ルーカスは掴んだ腕を持ち手にして、

エミリーを振り回し、投げた。


「オモチャみたいに軽いナ!」


地面に叩きつけられ、一度バウンドして地面を転がる。



「くああ・・あぁ」


打ち付けられ、満身創痍の体をどうにか起こそうとするエミリーだが、

その手足は震え、すぐにも崩れ落ちてしまいそうだ



ぐしゃりと内側にへこんだ右手と腹部の鎧

全身を回り、内臓に響き渡る衝撃にむせて、

咳をすると、一緒に口から血が溢れ出てくる。


「ごほ、ごほ」


さっきでの消耗に、今のダメージで

頭の中がぐらぐらと揺れて、まともに前も見れない。


(痛い、痛い、痛い

どこが痛い? わかんない

全部痛い)


それを眺めていたルーカスは

ついに動き、彼女の下へ近寄った。



その頃、また睨みあい、剣と拳で打ち合っていた二人に

声が届く。


「あああああああ!!!!!」


女性の悲鳴、苦悶の叫び

それと同時に先ほどの轟音と同じ

建材を砕く音が響き渡り、

クラウンは反射的にそちらを見てしまう。


(え、エミリーさん!!?)


それをリリーは見逃さなかった。

足の周りの空間が歪み、その足で

剣を蹴り飛ばし、体を回転させて、

後ろ回し蹴りを彼のあごに浴びせた。


「あがっ!」


ぐらつくクラウンの懐に

近寄ったかと思うとすぐさま後ろを取り、首を絞めた。


「あああ」


必死にその腕を外そうとするが、抵抗むなしく

意識を断たれた。


周りの気配を感じるリリー、


(よかった、生きてる

だけど・・・・・)


彼女が倒した人たちは

ほとんどが意識がないだけで、重体だが死んではいない。


最初の爆破で

死者と生存者は五分五分と言ったところだろう


だが、


(あっちは・・・)


ルーカスが入った方向からは

生存者の気配がほとんどしなかった。



懐から黒い長方形をだし、

それに向かって話しかけようとするリリー


「えっと、確かここを・・・」


少しいじり、


「こちらリリー」


と話しかける。

音の割れた音声がリリーの耳をつんざいてしまい、


リリーのところには

「う、うるさ~い」

とサラの声が帰ってきた・


「音量高すぎっす! ちょっと絞ってください!

で、どうしたんすか?」


「ごめん、大体終わったと思う。」


「んあ!・・もう、わかりました。ルーカスさんと一緒に

合流ポイントまで来てください」




そう言われ、リリーは音のする方へと歩いていった。


そこにいたのは

ルーカスと思わしき怪物と

その触手で釣り上げられ、叩きつけられ、

ぐしゃぐしゃになった鎧を着た誰かだった。


「ねえ」


リリーが無表情のまま声をかける。

無邪気に残酷に虫を殺して遊ぶ子供のように笑うソレ

を前にして眉一つ動かさず呼びかける。


「アア?」


そう声を返すルーカスに、リリーは間髪入れず言う。


「それ、もう死んでる」


そう言われた彼は

知らなかったのか、よくよくと近づけて、確認する。


「ああ? ああ! そうか悪い悪い

もう死んでたのか」


触手が肉を投げた。

まだにやけたままのルーカスは高揚が抑えきれないのか

噴き出したかのように笑いだす。


「ぷっ ハハハハハ

なあ、アンタ最初からクラス4だったんだろ?

こんな気分だったのか?

いいなあ

強いってのはいいなあ

こんなの、確かに青臭い善悪で邪魔されたくなくなっちまうよなあ」


食らったようにケタケタと笑い、リリーを見る。


リリーは怒るでも、呆れるでも、恐れるでもなく

遠い目で、悲しそうに


「そう・・・かもね」


とつぶやいた。



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