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 日比谷くんに呼ばれて、話されたことは佐倉くんがどうして死んでしまったのかについてだった。死因は魔物に殺されたことによる事故死のようなものだと彼は語った。死体は既に火葬されている、とも。

 しかし、私はこの話にどこか違和感を感じていた。……でも、何処で?



「どこが変なのかな?聞いた通り話したつもりだけど……」



 希望を持った眼を向ける日比谷くん。その顔に影がささない内に違和感の正体を見つけなければいけない。


 ……思い出した、ある部分が明らかに違うのだ。



「……違うのよ、火葬は」


「……火葬?」



 彼は首を捻った。まあ、私に指摘されてもわからないのはある意味当然だろう。……冷静に考えると、文化が違うのだ。



「日本では火葬が主流だけど…ここでは土葬が主流なのよ。それ以外が非常識だって言われる位には」


「えっ、そうだったのかい……!?だったらどうして火葬されただなんて言われたんだろう……」


 彼は驚きと共に腑に落ちたという態度を見せた。一度結論が出ると、しっくり来る。この国では火葬すること自体がおかしかったのだ。


 ……そうなると日比谷くんは、何故火葬だと聞かされたのか。……もしそれが故意だった場合、考えられる理由は主に二つ。本当の死因をカモフラージュする為か、あるいは死そのものを偽装する為か。


 ……発言の真意が後者だとすると、佐倉くんは生きているかもしれない。手っ取り早く答えを知るためには、あの手段が有効かな。



「……ねぇ、佐倉くんのお墓はどこにあるの?」


「……確か、王都の墓地にある筈だけど……あの、何をしに行くつもりなのかな?」



 嫌な予感がしたのか。焦った様子の彼に私は微笑んだ。



「墓荒らしよ。日比谷くんもどう?」


「……是非とも協力させてもらおう」



 溜め息混じりに彼は答えた。だが、どこか嬉しげにも思えた。

 ……佐倉くんが死んだ。そう聞かされたとき、生きる理由を失った気がした。助けてもらった恩を返す為に働いた。でも、よく考えたら彼の負債でも無い借金なんて返しても恩返しになんてならないよね。


 ……決めた。仕事辞めて、佐倉くんを探しに行こう。そして、彼の近くで恩返しをするんだ。





 早朝、葉に露がつく頃。私と対峙するディックの目の下にはくっきりと隈が浮かんでいた。寝不足気味で不機嫌なのか、先程からこちらを睨んでいる。



「仕事、辞めさせて頂きます」



 淀み無く発言した様に、呆気にとられる彼。暫くして、苛つきながら返答を返された。口調は相変わらずわざとらしく相手を小馬鹿にした様だ。



「その場合、肩代わりされている借金も戻って来るぞ?……ええと、幾らだったか……そうそう、白金貨三十二枚だったな。勿論これまで働いた分は帳消しだ。それでもいいならいつでも辞めればいい!!ほら、辞めてみろ?」


「それでは、お言葉に甘えて。今までありがとう御座いました」


 早々に私は立ち去った。本当に辞めるとは思っていなかったのだろう。唖然とするディックの姿が、やけに小さく見えて印象的だった。





 ……私に当てられた部屋から私物を回収して、屋敷の裏門を通った。

 メイドの服は脱ぎ、かつて着ていた赤いブレザーの様な服に着替えてある。街中に止められた複数の馬車に近づく。それらは乗り合いの馬車で、それぞれ行き先が違ったり、到着時間が違ったりする。



「ワタナベ様、こちらです」



 既にある馬車のひとつに乗っているルイザさんに声をかけられる。私は馬車の中に乗り、端の方に腰をかけた。丁度、並んで座った日比谷くんとルイザさんが正面に見える位置である。……改めて見ると、肩を寄せ合ってまるで恋人のような距離だ。思わず、疑問を口に出した。



「……あの、もしかして二人ってそういう関係になっていたの?」



 ……結果、好奇心は猫をも殺すということを痛感した。馬車が街をたつまでの間、惚気を延々と聞かされて、出発する前から疲れてしまった。



―――

――


 王城の一室で、一人の少女が喚き散らしていた。部屋には彼女に壊された家具が散乱している。


「ハァ?巫山戯んな!何が仕事を辞めただ!ああああ!巫山戯んな!ゴミクズがぁ!」


 拳から血が滲んてもなお壁を殴りつづける様は狂人にしか見えない。その姿を見ず知らずの人間が見つけようが、彼女が姫様だとは夢にも思わないだろう。しかし実際、彼女は文字通り姫様なのだから国の将来が不安になる。


 一見唐突に発狂したかのようだが、魔法でテレパシーのような物を受信したといったところだろう。扉の隙間から様子を覗っていると王女の急にピタリと動き止まり、地面に音を立てて倒れた。


 ……暫くすると膝立ちをして、ひび割れた鏡の前で外見を整え始めた姫。この動きは部屋を出る前にする行動である。となると、これから出かけるのか。

 ……仕方が無い、姫に見つからないうちに立ち去ろう。騎士団長であれど、王城にある姫様の部屋に近づくのは、不敬罪で罰せられるのだ。


 最近の調べで姫が国外の間諜として働いていることはほぼ確定した。あとは決定的な証拠があれば彼女を失墜させるには十分なのだが、魔法でのやり取りでは証拠が残らない。


 ……難しいものだ。

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