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 馬車を乗り継ぎ、王都にたどり着いたのは日が落ちる直前だった。無事城下町に入れた私達は、宿にチェックインするとすぐさま墓地に向かって移動し始めた。途中でルイザさんから貰った外套を皆で羽織っている。……勇者が墓荒らしなんて見られたら不味いから。


 墓地が近づくに連れて、動悸が速くなっていく。佐倉くんが生きているかも知れないというのは、日比谷くんの情報だけで考えた言わば机上論なのだ。

 佐倉くんの死を裏付ける要素がそこにあったら。……そう思うと、不安でたまらない。今更ながら、怖気づいてきているのだろう。


 夜が更けた王都の墓地は、なんとも言えない不気味な雰囲気を醸し出していた。このような場所で肝試しをする人の気が知れない。……肝試しよりずっと罰当たりなことをしに来た私がそれを言うのは説得力が無いか。



「着いたよ、ここだ」



 先導をしていた日比谷くんが歩みを止めた。この当たりには死んだクラスメイト達の墓があるらしい。彼は手に持ったランプの淡い光でひとつの墓を照らした。その墓にはサクラソウマという名前が刻まれている。佐倉くんの墓で間違い無いだろう。



「じゃあ、中を調べようか」



 彼はランプをルイザさんに渡すと、墓の上に載せられた石板をずらし始めた。……だんだんと開かれた隙間から、墓の中がランプに照らされていく様子に、私達は固唾を呑んだ。



「えっ……」



 やがて全面が開き、中が伺い知れるようになったその墓を見て、ルイザさんは驚きの声を漏らした。私と日比谷くんは声を出さなかったが、きっと彼女以上に驚いていた。


 ……何も入って無かったのだ。骨や土すら無かった。日比谷くんが墓の中に指を滑らせて、遺灰もホコリも無いことを確認してから、石板を嵌め直した。



「……墓は使われてすらいなかった。到頭、佐倉くんが死んだとは言えなくなって来たね」


「ええ」



 私達は静かに笑みを深めた。


 ……そのとき。視界の端の遠くの方から赤い光が入った。目を向けると、それがランプを持った人影だとわかった。ゆらゆらと光はこちらへ近づいてくる。



「……誰か来るっ!」



 そう言って警戒を強めるも気が付くのが遅かったのか、隠れたり逃げる隙はない。日比谷が前に出て、腰に携えた剣に手を触れた。じりじりと詰まる距離。そして、人影の姿が現れた。



「……騎士団長?」



 どこか憂いを帯びた顔をした騎士団長、アルベルトさんがそこには立っていた。花束を腕に抱えている。……知り合いが現れたことによって私の警戒が緩んだ。


 しかし、日比谷くんの手は剣から離れなかった。鋭くアルベルトさんのことを睨みつけている。



「お前たちは、ヒビヤとワタナベか。久し振りだ。……随分と怖がられているみたいだな?」


「佐倉くんの墓の中、見させて貰いました。どういうことか分かりますよね、騎士団長」



 そこまで言って、何故彼が警戒を解かないのかが分かった。佐倉くんの死を偽ったのは、彼ら騎士なのだ。つまり、彼は黒幕。……知り合いだからといって、簡単に気を緩めてしまった自分を恥じた。



「遂に見てしまったのか。……いや、ここまで持ったのが幸運だったというべきか。お前らの察しの通り、サクラが死んだというのは嘘だ。……だが、生きているかは分からない。行方不明のままだ」



 それを聞いた日比谷くんは剣を抜き、切っ先を彼に向けた。その剣圧は恐ろしく鋭く、周囲を威圧しているように思えた。……そして、日比谷くんは怒気を含んだ声で彼に問いかけた。



「……なぜ佐倉くんを死んだ事にしたのか答えろ」



 感情的な彼とは相反したように、淡々とアルベルトさんは続けた。



「命令だったからだ。騎士団の上部、つまり国王から圧力がかかった。……それは全て、姫の思惑だった。姫は何処かの間諜だったんだ。何が目的で動いているのかは分からないが……この国は既に彼女が牛耳っている。すぐに国は首謀者の手に渡る。……そうしたら、国民が何百、何千人と死ぬだろうな」



 私は耳を疑った。自分だけ可笑しくなったのかと思った。


 ……だけど、皆の表情を見る限りそうではないのだろう。アルベルトさんは、姫様が佐倉くんの死を偽った黒幕だと……そして、その裏にはもっと大きな首謀者がいると言っているのだ。 



「……にわかには信じがたいですね」


「別に信じなくとも構わない。……そこを通らせてくれ。彼らに手向けの花を置いてやりたい」



 彼はそういうと、私達の後ろにある墓石の方へ向かった。



「……この国を救うために、君たちはここへ連れてこられた。しかし、今となっては俺はこの国が救う価値のあるものだとは思えない」



 彼は語りかけるように呟くと、目を瞑った。私達は顔を見合わせた。日比谷くんは剣を柄におさめて、アルベルトさんの背中に声を掛けた。

 


「僕はあなたを信じます。……もし本当だとしたら、僕は……その首謀者を止めたい」

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