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「最近は魔王軍が手強くなっていまして。あなた様に来て頂けるとは僥倖です」



 胡散臭い笑みを浮かべ媚諂う執事。いい加減、ため息が出る。かれこれ三十分か。

 屋敷の一室に通され領主を待っていたら、この男が部屋に入ってきて媚を売り始めたのだ。最初は面倒だと思ったが、ルイザが軽く受け答えをしてくれたお陰で考え事には集中できた。そして無事、渡辺さんに対しての考えをまとめる事ができた。

 僕が顔を上げたのに反応したディックが、わざとらしく話しかけてくる。



「おや、ご気分が優れませんか?どうやら長旅でお疲れなようですね」


「そうですね、今日は休ませて貰います」



 彼はそれを聞いて立ち上がると部屋の扉を開けた。



「それでは寝室にご案内致しましょう」





 寝室に辿り着くと軽く設備の説明を受ける。窓から見える夜空には満月が見えていた。おそらく計算されて設計されているのだろう。

 ベッドに横かけるとディックに何か要望はないかと聞かれた。丁度頼みたいことがあったので、それを頼むことにした。



「屋敷に入る前に、ここのメイドと出会ったんですが」


「今この屋敷には一人メイドがいますが、何か不敬な事でも?」



 わかりやすく顔を青くさせるディック。失態を恐れているのだろう。フォローすることもできるが、気にせず用件だけを伝えた。



「そうでは無いですが、ここに呼び出してください」

 


 渡辺さんを呼びつければ、簡単に話の場が整う。彼の死は、決して手紙の一文だけで終わらせて良い内容ではないのだ。それに、僕はここ、オクタビロ領のダンジョンを攻略しに来てもいる。決心した以上、彼女とは早めに話しておきたかった。



「かしこまりました」



 ディックは首をひねりつつも、了承した。……兎に角、あとは彼女を待つだけだ。


 手に汗が滲む。決心したつもりだったのに、身体は震えた。ちゃんと話せるだろうか。……本当は、僕の責任で彼は死んだのだのではないか。


 そっと、僕の手に手を重ねられる。ルイザの手だった。……僕はその手を弱々しく握った。



 やがて、ドアの開く音がする。目を移すと、そこにはやはり渡辺さんが立っていた。夕暮れ時に合った時には気づかなかったが、生傷の跡が至るところに見受けられる。僕はルイザから手を離して、立ち上がった。するとルイザも立ち上がり、僕に微笑んだ。



「私は席を外しますね、コタロウ様」


「ああ、ありがとう」


 彼女が部屋を出るのを見送ると、僕は渡辺さんの方に体を向けた。なんだか困惑した様子だ。



「日比谷くん、久しぶり……でいいの?正直、時間の感覚がなくて」


「ああ、久しぶりだよ」



 僕は親しげに笑い返した。これから暗い会話をするのだから、最初ぐらいは明るく接したかった。……一呼吸置いて、僕は話を切り出した。



「佐倉くんについて、話そうか」



 彼女はコクリと頷いた。



「まず、魔力暴走は知っているかな?」


「まあ、一応……メイドになるときに有る程度常識は叩き込まれたから」


「……佐倉くんは魔力暴走を起こしたんだ」


「……まさか、それで?」



 顔を青ざめる彼女。魔力暴走は治療が難しいと言われる精神病である。周りに危害を及ぼす危険な病だと言われているが、問題はその本質が魔法であり、術者が魔力を失い死ぬまで暴走が止まらないことにある。……だが、彼の死因はそれではない。



「いや、魔力暴走は収まったんだんだけど、その後佐倉くんは失踪した。……発見されたときにはもう……」


「……っ」


 顔を伏せた。渡辺さんの表情を見たくはなかったのだ。騎士団長のアルベルトさんから聞いた話だが、佐倉くんの死因は魔物に殺されたことらしい。最初は顔も分からない程グチャグチャになっていたと言う。服装と体格から判別したと言っていたので、間違いは無いのだろう。僕が聞いたときには既に火葬が終わっていたので、彼の死に顔を見ることは叶わなかった。


 僕は顔を伏せながら、その話をできるだけ正確に渡辺さんに伝えた。途中から彼女は相槌もせず、黙って僕の話に聞き入っていた。


 そして、僕の知る全てを話し終った。何だか、肩の荷が下りたように感じた。だが、まだすることは残っている。ずっと、彼女に黙っていたことを謝罪しなければいけない。


 僕はゆっくりと顔を上げた。彼女は一体どんな表情でそこに立っているのだろうか。苦しげに歪んでいるのか、それとも魂が抜け落ちた能面のような無表情なのか。



 ……果たして、彼女は顎に手を当てて思案顔をしていた。僕はそれをどうも可笑しく感じた。見たところ、辛い現実を信じたくなかったり彼の事を追憶していたりといった風には見えない。寧ろ、何か希望を引き出そうとしているように思える。


 その予想を肯定するかのように、彼女は。



「その話、絶対に何か変だわ」



 そう、力強く言い切って見せた。

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