エピローグ
私がオクタビロ領に来てから、もう1年半がたっているらしい。正直、私は時間の感覚がなくなっている。
毎日馬車馬のように働かされ、理不尽な理由で怒鳴り散らされる。最初の1ヶ月はまだ言葉だけだったが、ある日を境に手が出るようになった。
今、私がここに来てから一年半がたっているというのも、日比谷くんが送って来た手紙を読んで初めて理解したのだ。
ヒビヤくんが送って来た手紙にはこの領に来てから一年半がたったことが記されていた。
精神が壊れそうになるが、この手紙と佐倉くんの存在が私の心の支えになって留まっている。
しかし、心の支えになっていた日比谷くんからの手紙が私の心にとどめを刺すことになる。
『佐倉くんが死んだ』
そう、手紙にかかれていた。信じたくなかった。何度も、何度も読み返した。しかし、書かれていることは変わらなかった。
どうしても信じることができなかった私は、彼に直接確認することにした。
「なに?数日休暇が欲しいだと?何故だ?」
この家の執事、ディックに私はそういった。すると彼は醜悪なものを見る見下した目で私を見た。彼の顔は少し赤くなり酒臭い。朝からずっと飲んでいるのだろう。
「友人に聞きたいことがあるのです」
「聞きたいこと、か。この偉大なるオクタビロ家の仕事をそんな理由で休むことなど許されんことだ」
「そんな……お願いします」
「……刃向かうつもりか?またいたぶってやってもいいんだぞ」
そういって彼はニタニタと笑みを浮かべた。私の身体がビクッと震える。これ以上何か言えば、言葉ではなく拳が飛んでくるだろう。刃向かおうとしても、身体に染み付いた恐怖がそれを許さなかった。
「いえ、そのようなことは……申し訳誤差いませんでした」
私が必死に謝ると、彼は満足気に鼻を鳴らして、ワインを口に含んだ。
正直この男、今すぐ殴りかかって殺したいほどに憎い。だが、この弱った身体じゃすぐに押さえつけられ、仕返しとばかりに暴力をふるわれるのは目に見えている。最後に暴力をふるわれたのは、もう数日も前。出来るだけ痛いのは避けたかった。
「ああ、それより勇者殿がこのオクタビロ領に来るらしい。なんて言ったか……確かヒビヤとかいう名前の……まあいい、迎える準備をしておけ」
「はい」
どうやら、日比谷くんがこの領に来るようだ。
正直この傷だらけの身体は見せたくなかった。だから、休暇を取ってフードでも被って会いに行こうと思っていたのだが、メイドとして迎える以上、それは叶わないようだ。
まあ、彼と会えることが願ったりなことには変わりないが。
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<locked>
《必要経験値超減少》《獲得経験値超増加》
《復讐ノ使徒》《暗殺術Lv99》
《暗黒魔法Lv99》
<解除条件>
同じ種族から2000ダメージ
残り1998/2000
───
──
─
窓を開き、夜空に浮かぶ星を見つめる。この世界では星がよく見える。
僕は今まで勇者としてダンジョンで戦い続け、遂にはミナシカダンジョンを攻略した。それでも、戦いに身を置きたかった僕は次なるダンジョンを求めた。
そして次のダンジョンを攻略するとまた次のダンジョンへ。
その行為はいつの間にか有名になっていたようで、いつしか僕は勇者として祭り上げられるようになった。
確かに国公認で勇者ではあるし、魔王軍の幹部とも何度か戦い町を救った。しかし、僕は町以前に一人の友人さえ救えなかったのだ。
僕のステータスにかかれた『偽善者』の文字も納得できるようになった。なるほど確かに偽善者だ。
僕は心から彼らを助けたいと思って助けた訳じゃないのだ。勝手に彼らが祭り上げ、僕の評価が勝手に上がる。
一時期は壊れそうな精神状態に陥った。だが、それをずっとルイザが支えてくれた。今ではルイザの為に何かをしようと思えるようになった。
だから、例え僕が偽善者でも、ルイザだけは守ると決めた。
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日比谷 虎太朗
Lv352 age17 HP19008/19008
MP12672/12672
《勇者Lv72》《逆境Lv68》
《剣術Lv88》《身体強化Lv92》
《光魔法Lv65》《必要経験値減少》
《獲得経験値増加》
『勇者』『偽善者』
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自分のステータスを眺め、決意を固める。佐倉くんが死んだという知らせを聞いてからはほぼ日課になっている行動だ。
明日から、僕はオクタビロ領のダンジョンに向かう予定だ。そこには渡辺さんがいる。だから、いつも送っている手紙にずっと隠してきた事実を書いて送った。
最近は出没する魔物や魔王軍が、強くなっていってる。それについても一応書いたが、彼女は屋敷勤めだから大丈夫だろう。
今回彼女とあうことで、何か変わることを僕は願っていた。




