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エミシィの店での買い物を終えた俺たちは、帰路についていた。
今回の買い物で買うものは全てエミシィの店に揃っていたようだ。
買い物自体に時間はあまり掛からなかったのだが、流石にもう空は暗くなり、星が輝いている。
もう遠くなった村の中ではもう照明を灯しているようで、村全体が光っているように見える。
何故だか俺はその光景によって憂鬱な気分になった。そして、溜め息をついた。
そんな俺の行動に何か思ったのか、前を歩いていたチェルが足を止め、俺のことをジッと見つめ始めた。
「サクラ、大丈夫?さっきからずっとその調子だけど」
「その調子って…何時も通りだ。大丈夫」
「…そうか。行こう」
チェルは、そう言って俺から視線をそらすと、また前に進んでいった。
俺はそれに、何をするわけでもなくただただ前を進むチェルを追いかけた。
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「…サクラはまだ見つかっていないのか?」
「はい、国内から隣国のラグジースまで手配書を回したのですが、成果は上がらないままで…」
その言葉に騎士団長が頭を抱える。
「…はぁ、もういい。これでマトモに使える勇者はヒビヤだけ…後一年育てたら適当に仲間をつけて魔王を討伐させるか…まあ、どちらにせよサクラは見つかったが死んでいたことにする」
「はっ、分かりました」
「それでは」
そういって、俺は会議室を出た。
城の上層部では今回の勇者召喚はほぼほぼ失敗だったという声が多い。勇者の半数以上が戦えない状態なのだ。
その中で戦える勇者というのは重要なのだが、今いる勇者の中ではヒビヤ様しか戦える勇者はいないだろう。
そう考えながら廊下を歩いていると驚くことにヒビヤ様が俺に話しかけてきた。
「あの、騎士の人ですよね?」
「ええ、そうですが…どうかしましたか」
「サクラくんはどうなったんですか?」
一体何を聞いてくるのかと思った彼の質問は、一番聞かれて欲しくない類いの質問だった。
彼がサクラ様の友人だというのは聞いていたのだ。
今から話す内容にどんな顔をするか…それを考えると胸が痛んだ。
しかし、だからと言って本当のことをいうわけにもいかない。俺は命令を果たすことを選んだ。
「サクラ様は発見されたようです…」
「本当ですかっ!?それじゃあどこに?」
「……大変申しにくいのですが…彼は」
「何かあったん、ですか…?」
「発見されたときには、もう亡くなっていました…」
「……はっ、嘘だろ…?」
「それでは…私は」
案の定見せた彼の反応に、俺は居たたまれなくなりその場を去った。
それから暫くたつと、ヒビヤ様がずっとダンジョンに籠もっているという噂がされるようになった。
───
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「そろそろ慣れてきたな」
一足先に基礎トレーニングが終わったサムさんが、そう話しかけてきた。
俺もトレーニングが終わり、立ち上がるとサムさんに返事を返した。
「まあ、基礎トレーニングまでなら…」
鍛錬を始めたころは、鍛錬を始める前にダウンしていた。
だが4ヶ月たった今では、ランニングの後の身体全体を使うトレーニングまでこなせるようになった。
このトレーニングは、魔力を使って身体に負荷をかけることによって通常じゃあ有り得ない体を作るトレーニングなのだ。
最初魔力を使って負荷をかけたときは死ぬ思いをしたが、今では楽にこなせる。
そんな俺を見て、サムさんがこんな提案をしてきた。
「どうだ?この後の格闘術の練習もやってみるか?」
「…嫌な予感しかしないけど…まあ、やってみるよ」
「よし、じゃあ始める前に今からやる格闘術の説明だ。簡単に言うと…徒手空拳の状態で相手に向かっていき、攻撃すると同時に圧縮した魔力をぶつけることで破壊力を生み出す術だ。だから必要なのは洗練された動きと相手に向かうスピード、それに魔力だけだ。正式には魔闘術っていうんだがな。じゃあ早速魔力を身体に纏ってくれ」
「わかった」
サムさんの指示通りに俺は魔力を身体に纏った。基礎トレーニングの時にもすることなのでこれは簡単だ。
最初やったときは身体から魔力が全て出て行って死にそうになったが、今はもう慣れた。
すると、サムさんはいくつかの動きを俺に見せるとそれを真似するように言ってきた。
鍛錬中に何度か見た動きだったので、見様見真似ではあるが同じ動きをすることができる。
「まずは一の型。身体の重心を深く下げて魔力を放出する準備をする」
「こう?」
「そうだ、そして二の型で魔力を全て素手に集めて圧縮する」
そういってサムさんは魔力を素手に込めた。すると大気が震え、とんでもない魔力の塊がサムさんから右手に集まった。
その魔力が空間を歪ませサムさんの右手は消えたように見える。
「そして…三の型で攻撃!」
サムさんがポンと地面に手をのせ、魔力を一部放出すると地面が3メートル程消滅して暴風が吹き荒れた。
「…嘘だろ?」
俺のつぶやきも風と共に飛ばされ、サムさんは平然とした顔で三メートルを這い上がりそういった。
「さて、あとは派生で四の型から九の型まであるが、三の型までが基本の型だ。人間に使うには少々強すぎるが、加減したら人間相手にも使えるようになるぞ」
「…これをやれと?」
「最初は無理だと思うかもしれないがすぐ慣れる」
「…えぇ」
次々と出される難題に、俺は鍛錬に参加したいといってしまった自分の行動に何度目か分からない後悔をしていた。




