6
家から飛び出し、あまり変わり映えのない通学路を疾走する。
暫く走っていると前方に学生がちらほら見えてくる。
校舎にある時計を確認して、俺は足を緩めた。
「間に合ったか…」
俺は遅刻することなく学校へとたどり着けたことにホッとし、息をついた。
靴箱に靴をしまい、教室へと向かう。
教室の扉を開き、中に入ると床に幾何学的な模様の魔法陣が浮かび上がった。
「はっ?」
どこか見慣れたその魔法陣は光を増していき、やがて教室を包み込んだ。
「…あれ」
窓から差し込む光に、俺は目を覚ました。
「可笑しいな…学校へ行ったはずじゃ…」
疑問が頭の中を右往左往する。…が、魔法陣が教室に浮かび上がったことを思い出し、夢なのだと悟った。
「学校、行くか…」
用意を済ませ、鞄を持ち家の扉を開ける。
ぐにゃぐにゃに曲がった地面を歩きながら、俺は学校に向かった。
───
──
─
「ここが、サクラくんがいる部屋ですね」
ノアが、サクラの部屋を視界にいれ俺に確認を取る。
「そうです。では、早速治療を…」
「分かっています。ヒビヤくん、先ほども説明しましたが…治療の副作用として記憶喪失をする場合があります。覚悟は出来ていますか?」
「…彼の友人として、覚悟は出来ています」
ノアが、ヒビヤにも確認を入れる。ヒビヤの言葉を聞いたノアは優しく微笑み、扉へと入っていった。
ヒビヤは勇者一の実力者だが、残念ながらまだ魔王軍と戦えるレベルにはなっていない。
いつの間にサクラと、交流をしていたのか…。
いや、それはどうでもいいことか。重要なのは交流があった事自体だからな。
そうこう考えている内に部屋からノアが帰ってきた。
「終わりましたよ。1日もすれば目を覚ますでしょう。部屋の前で外へ出ないよう見張って置いて下さい」
「はい、わかりました」
二つ返事で俺は了承した。どうせ、俺の担当ではないのだ。
見習いの兵士にでも、言い付けて置けばいい。
「…それでは、私はこれで」
そう言って、ノアは後ろを振り返ることなく去っていった。
───
──
─
俺は少し緊張しながら、教室の前に立った。魔法陣の夢と現実を少し重ねてしまっているのだ。
そして、扉を開き中に入る。すると、頭に思い浮かべた通りに魔法陣が部屋に浮かび上がった。
魔法陣は再び光りだし、教室を包み込んだ。
…しかし、いつまでたっても意識はあるままだ。
やがて、光が収まると俺は暗い何もないようなところに立っていた。
「どう言うことだ…」
俺はその何もないその場所に立ち尽くしていた。…ひとりの青年がやってくるまでは。
「久し振りだね、颯馬!…来るのが遅いから、僕から遊びに来たよ」
「少年…!」
俺の言葉を聞いて、少年はムッとした顔をする。
「ねぇ…いい加減僕のこと少年って呼ぶのやめない?よく二年以上も少年って呼び続けられるよね…?」
少年の何処か外れたその指摘に俺は笑いながら、言葉を返した。
「ああ、そうだな…会えないかと思ってた」
「僕も」
「本物なのか…?」
「本物だよ。颯馬は今ちょっと特殊な状況でさあ…魔導夢と同じような状態なんだよね」
そう言うと、少年は得意気に腕を組んだ。
「魔導夢と?だから少年がいるのか…」
「そういうこと。何にせよまた会えて嬉しいよ」
その少年の言葉に目尻が熱くなり、涙が零れる。
「会ってなかったあいだの話、聞かせて?」
「ああ」
───
──
─
「…よし、そろそろ…僕の話をするね」
俺がこれまでの話を大体話し終えた後。少年が真剣な目をしてそう切り出してきた。
「…話?」
「僕の正体の話。また会った時に話そうと思ってたんだ」
「また会った時って…会えなかったらどうしたんだよ」
「颯馬を信じてたからね、それで僕の正体だけど…精霊っていう種族なんだ。魔導書に封印された」
少年は悲しそうな声で、そう言った。
「本来精霊という種族は夢の中に出入りできる特殊な能力を持った種族なんだ。精霊が入っている夢を魔法使いが本に封印して出来るのが魔導書ってわけ」
「…ああ」
「本の中で育ち、本の中で死ぬ。それが封印された僕の定め。死んだらまた身体と記憶が巻き戻って、僕という存在が初めから」
「……」
淡々と語る少年に、俺は何も言うことが出来なくなっていた。
「だからさ、颯馬が来てくれたときは嬉しかったよ。今回の人生は意味のあるものになるかも知れないなって」
「…そうか」
「正直、どうして今回颯馬と会えたのか僕にも分からないんだ。でも、この機会を絶対に無駄にはしたくない…だから…」
そういうと、少年は俺の頭に触れた。
すると、少年の身体は光の粉になって少しずつ消え始めた。
「なっ!?少年、その身体…」
「大丈夫、君の夢に住み着くだけだから…夢の中でいつでも会える」
そういって、少年は消えていく。
「…っ?!」
…少年が触れたところから、自分の髪の色が少年の髪の色と同じ色に変わっていくことに気がついた。
俺は少年の方に顔を向け、問い掛けた。
「本当に、会えるんだな…?」
「ああ、会えるよ。絶対に」
やがて、この場所から少年は消えた。いや、きっと俺の夢の中に移動したのだろう。
…それと同時に俺の髪の色は完全に少年のものとなった。
そして、急に俺の意識がガクンと薄くなって、消えていった。




