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 普段の二倍ほどの文字数になってしまったのですが、上手く分けることも出来ないのでそのままです。

 俺は、身体に当たる冷たい風に目を覚ました。


「…寒い」


 固い地面で眠っていたせいか、俺の背中全体が鈍く痛んでいる。

 辺りを見渡す限り、俺は恐らくどこか森の中にいるらしい。

 残念ながら、何故こんなところで眠っていたのかはわからなかった。意識がはっきりとしない。

 それどころか、どうやら自分が誰なのかすらはっきりしないように思う。


 とりあえず、ここにいてもらちがあかない。森の中に進んでみよう。

 そう考えて、俺はゆっくりと腰を上げ、森の方へと歩き始めた。


 そうして、そのまま暫く歩いていたのだが、何かに見られているような気配をいくつか感じはじめ、思わず足を止めた。


「グルルルルルル…」


 すると、俺を囲みこむような位置から七匹のオオカミたちが月の明かりに照らされ浮かび上がってきた。


「な、嘘だろ!?」


 俺の動揺に気にしたようすも見せず、オオカミたちはジリジリと俺との距離を詰めていく。


「まっ、待て、話し合おう、な?」


 混乱した俺はオオカミに説得を試みた。…しかし、それが上手く行くはずがなかった。

 オオカミたちは一斉に俺に噛みつき、服が破かれる。


「た、助けて!」


 そう叫ぶと同時に俺はバランスを崩して、地面に倒れ込んでしまう。

 すると、オオカミたちは俺の上着を無理矢理剥ぎ取り、さらに噛みついてくる。

 増していく痛みに思わずうずくまり顔を伏せてしまう。どうしようもなく、助けを願っていると風切り音が何回かなり、いきなりオオカミたちの噛みつきがなくなった。

 何か起こったのかと疑問に思い顔を上げると、七匹全てのオオカミたちの首に矢が刺さって絶命していた。

 誰かがやったのだろうと思い、辺りを見渡す。すると、


「大丈夫か…?」


 そう言って、森の中から弓を持った短髪の幼げな男が姿を現した。


「あ、ああ。ありがとう」


 その男に助けてもらったのだと分かり、俺は礼を口にした。

 すると、彼が無言で手を俺の方へ出してきた。その手を掴むと、ぐいっと引っ張られ立ち上がらせられた。


「なぜこんな夜の森に入ってきたんだ…貴様は…?ボクが居なければ死んでたところだぞ…」


 彼が、そう言って俺の胸倉を掴む。


「分からない…何故だろう」


 俺の煮え切らない態度に、彼が怒りを露わにした。


「おい…!ふざけるなよ…」


 そして、彼が胸倉に力を入れ、シャツをグイッと引っ張った。

 すると、俺の着ていたシャツはビリッと破れて上半身に着ていたものが全てなくなってしまった。


「キャッ」


 彼がちいさく叫ぶと、顔を赤らめながらサッと目を背けた。


「どうして破くんだ…?」


「わざとじゃない!…っもう、どうしてここにいるのかはいい…!名前を教えろ!名前くらいは分かるだろ?」


 そう言って、彼は名前を会話に持ち出した。確かに普通なら分かるのかも知れないが…


「名前か…思い出せない」


 残念ながら俺には思い出せなかった。


「はぁ?貴様、どこまで人を…!…いや、まさか…記憶が無いのか?」


「記憶が無い?そうかもしれない」


 口では曖昧に答えてしまったが、彼に言われて、俺に記憶がないことは間違えないと確信した。


「そうか…怒ってしまって悪かった」


 彼はそういって俺に謝ると、正面から俺を見つめた。しかし、すぐ目を逸らしてから、肩にかけていた鞄から外套を取り出すと俺にバッと投げつけた。


「と、とりあえずこれを着て!」


 何も着ていないと寒いからな。気を使ってくれたのだろう。


「ああ」


「ついて来て、寝れる場所に案内するよ」


 そういいながら、彼は一足先に歩き出した。俺も、外套を羽織り、後ろを追いかけた。


「なぁ」


「なに?」


「ありがとな」


「……」


 そう礼を言ったのだが、前から返事が帰って来ない。


「おーい、なあ」


「…チェルって呼んで」


「へ?」


「ボクのこと!名前!」


「あ、ああ。分かった…」


───

──


「ほら、ついたぞ…ボクらの小屋だ」


 そういってチェルは、灯りのついた小屋の扉を開け、その小屋に入っていった。


「ただいまー、サムおじさん」


 チェルがそういうと、小屋の中にいた大柄でがたいのいい無性髭をはやした男が返事をした。


「おう、ただいま。チェル。俺はまだおじさんじゃねぇぞ、四十代はまだお兄さんだ」


 サムおじさんとやらは、とても四十代とは思えないほど若々しく、逞しかった。


「煩い。四十はもうおじさんだよ。キミもそう思うだろ?」


 チェルが、そう俺に振ってきた。なので、俺は思ったことを口にすることにした。


「確かに四十はおじさんだが、四十代とは思えないほど若々しく見えるなこのおじさんは」


「なんだ、嬉しいこと言ってくれるじゃねえか、兄ちゃん。って…おいチェル、この兄ちゃんはなんだ?」


 サムおじさんは、そう言うと俺を片手でひょいと持ち上げた。そして、チェルの前に突き出す。


「ああ…バレた?サムおじさんならバレないかなって思ったんだけど」


「バレるに決まってるだろ!?どんだけ鈍感なんだ俺は?」


 そう言って、サムさんはため息をつく。


「で、何者なんだ?」


「ええと、なんといえばいいかな。名前が分からないんだよね」


「あのなぁお前、名前も知らない他人を連れてきたのか?」


「いや、記憶が無いらしくて」


「記憶がない?本当なのか、兄ちゃん?」


 チェルがそう説明すると、サムさんが俺にも聞いてきた。


「ああ、そうみたいだ。森で起きた以前の記憶は無い」


 因みに何処まで記憶があるかはここに来るまででチェルに全て話している。


「森で起きたぁ?怪しいな…お前。俺たちを騙して俺の命を奪おうって魂胆じゃねえよな、ガキが」


 サムさんが顔を近づけて、ドスの利いた声で肩を掴む。


「それはないと思うよ。この人、オオカミに襲われてうずくまってたんだし」


「オオカミ如きに?じゃあ俺様を殺せるはずねぇな、毒殺するとしてももう少しマシなやつ送ってくるか」


「…毒殺って、サムさんは何かに狙われてるのか?」


「まあな。逸れより疑って悪かったな、兄ちゃん。暫くここに泊まってけ。記憶がないと大変だろ?」


「…いいのか?俺なんかが?」


「ああ、もちろんだ。…ってか、暫く住むのなら、名前は決めて置かないと不便だよな」


 そういって、サムさんは座り込んで胡座をくんだ。


「そうだね、ってサムおじさんが決めるの?」


 チェルが不満そうな表情でサムさんに尋ねた。


「俺以外に誰がいる?…そうだな、トム、マイケル、ボブ…なにがいいか…」


 一方、サムさんの方は自信満々なようだ。少々自信過剰な気もするが。


「そういえば、兄ちゃんは奇抜な髪の色してるよな。白に…毛の先は薄いピンクか」


「ん?白、薄いピンク…どこかで」


 サムさんが俺の髪について話すと、チェルが色を呟きながら何かを考え始めた。


「そうなのか?自分ではよくわからないんだが」


「まあ、記憶がねぇもんな」


「ああ」


「…そんな兄ちゃんの為にもいい名前を考えてやらねぇとな」


 そう言ってサムさんは笑顔を見せ、考えていることに集中し始めた。やがて候補を考えついたようで俺に話してくる。


「ゲイリスランプなんてどうだ?それじゃなかったらセルヒオーシャンでも」


「しっくりこないな…」


「そうか…」


 俺がその案を拒否すると、サムさんはまた懲りずに考え始める。そのすぐ後、


「ああー!!思い出した!」


 そう声を上げたチェルに、俺たちの目線が集まった。


「あ?どうしたチェル。そんな大きい声だして」


「その髪の色、どこかで見たことあると思ってたんだけど…思い出したんだ!」


 チェルはそれを思い出して心底嬉しいのが目に見える。あまりにはしゃいだ様子なので、さすがにそれが何か気になってしまう。


「なんだったんだ、それ」


「サクラっていう東洋の花に似てるんだその髪の色。昔、お父さんの描いた絵を見たことがあったんだ。確かチェリーの一種だったと思うんだけど」


「はぁ、なるほど。あいつの絵に描いてあったのか」


「ねぇ、おじさん。彼をサクラっていう名前にしたらどう?」


「サクラぁ?不思議な名前だなそりゃあ。なあ、兄ちゃん」


 サムさんはそう言ったが、俺にとってはそんなことはなく、サクラという名前に意識の殆どが持って行かれていた。


「なんだか、しっくりくる」


「えぇ?サクラがか?俺のセルヒオーシャンの方がイケてると思うんだけどなぁ」


「サムおじさん…其れ本気?」


「そりゃあ本気に決まってるだろ?…まあ、兄ちゃんがしっくりくるってんなら仕方がない。今日から兄ちゃんはサクラって名前だな!」


「ああ、ありがとうな。チェル」


「俺にお礼はないのか?サクラ?」


「セルヒオーシャンとかいってた人が何言ってんの?」


「くふっ、あははっあはははは!」


 その光景に思わず、俺は声を出して笑ってしまった。すると、二人の注目が集まってしまった。


「どうしたんだ、サクラ?いきなり笑い出して」


「いや、楽しいなって思って…そう思ったら、なんでか笑えてきて」


「そうか、そりゃ良かった。ここに来てから一回も笑ってなかったからな」


「そうだったっけ?」


「そうだよ…ずっと何処か悲しそうにして」


 チェルがそういって悲しそうな顔をする。

 すると、サムさんがチェルと俺の頭に手をのせていった。


「記憶が戻らない間は俺とチェルのところにいていいからな。記憶が無いからって心配はいらない。楽にしろ」


「…ありがとう」


「だから、二人とも若いのに辛気くさい顔するんじゃねぇよ」


 何処か記憶がないことに不安があったことを二人とも見抜いていたのだ。そして、それをチェルが心配していることもサムさんには分かっていた。


 この二人の暖かさに、俺は涙を流した。


「おいおい、泣くところじゃねぇだろ?」


「ごめんなさい…」


「謝るところでもねぇ」


「…はい」


「辛いことはねぇよ」


「はい、嬉しいんです…」


「そうか…ところで」


「はい」


「どうして上半身が外套だけなんだ?」


「……」


 俺は思わず、顔をポカンとさせて固まってしまった。すると、チェルが呆れながらサムさんに言った。


「この空気でその質問って、空気読もうよ」


「ありゃ、駄目だったか?」


「そりゃ駄目だって…はぁ、ふは…ははははっ!」


「「ははははっ!」」


「いやぁ、それは悪かった!」


「いいんですよ、ははは!」


 俺はこの二人の明るさに惹かれた。そして、記憶がないってことは一旦忘れて、過ごしてみたいと考えてしまっていた。


 だが、それもいいだろう。記憶が戻るまでは。



───

──


「おい、見張り交代の時間だぜ」


「おっそうか。悪いな」


 何時間かずっと勇者のサクラ様とやらの部屋の見張りをしていたのだが、どうやらもう交代の時間になったようだ。


「これも仕事だしなぁ…それにしても、団長もこんな仕事押し付けるなんて酷いよな」


「だよなぁ、いつまでだっけ。この仕事」


「サクラ様が起きるまで、らしいぞ」


「はぁ、一体いつになったら終わるんだ」


 そう言って、二人でため息をつく。


「ひょっとしたらもう起きてるかもな?」


 同僚はそう言って扉をあける。そんなことがないとはわかっていても、すこし確認したい気持ちがなくなるわけではないのだ。


「…おい?サクラ様ってのは…どこだ?」


「はぁ?おい、まさか、いないってのか!」


「ああ、どこにもいねぇ」


 俺たちは部屋に入り、全体を探すがサクラ様はどこにもいない。


「報告しにいかないと!」


「ああ!」


 そう言って、俺たちは団長のところへと向かった。

 遂に、二章に本格的な佐倉パートが入りました。そして、新キャラ二人の登場。

 ミーモ・ダンシングを聞きながら執筆しました。普段の文字数の二倍になってしまったのはそのせいか…?

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