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今回、若干短めです。

 いきなり歩みを止めた俺を、渡辺は不思議そうに見つめてきた。


「どうしたの?」


 ボスがいる階段の前には、ダンジョンの入り口へワープ出来る石碑がある。

 俺は渡辺をダンジョンから出すことにした。


「ねぇ…大丈夫?」


 渡辺の手を取り、石碑の前に歩いていく。


「ちょ、いきなりどうしたのよ?!」


「これに触れたらダンジョンの入り口に飛ばされる。先に帰っていてくれ」


 俺は渡辺の手に魔石を詰めた袋を握らせ、石碑に触れさせた。

 その瞬間、渡辺の姿が掻き消える。

 これで、渡辺を危険に曝すことは無くなった。

 俺は、一息着くと第十層への階段を下って行った。



 俺が階段を降り終わった直後、前方から叫び声と共に酷く弾んだ声が聞こえてきた。


「ナイス!」


 目の前にいるのは、真っ赤なマントを身にまとったマジシャンのような男と高良と高田の3人。

 高崎はどこにも居ず、高良と高田の顔は悲痛な風に歪んでいた。


「よぉシ!次は君ダ!」


 マジシャン風の男が高良を指差し、指でパチンと音を立てる。

 その瞬間、高良の右半身全てが、まるで最初からその場所に存在していなかったかのように消えていた。


「ぃ、嫌だ、死n…」


 高良がそう声を出している途中、もう一度指がパチンと鳴り、高良は完全に消えた。


 余りに現実味の無いその光景に呆然となる。

 だが、俺の全身から途轍もない速さで汗が流れていくことは理解出来た。


「あはハ!いゃぁユカイだネぇ?!」


 壊れたレコードのような雑音の混じった不気味な声に、俺の身体はピクリとも動かなくなった。


「おャ?あタラしぃお客様カぃ!さっキノ子ミタぃに遊んであゲヨゥ!僕ハ魔王軍第十三部隊隊長、マリアって言うんダ!」


 絶対に信じたくない事。

 だが、それは見ただけで分かるような圧倒的な実力差がこの男が魔王軍だということの裏付けとなってしまう。


 …もう、死ぬしか道は無いのかもしれない。高良、高崎と同じように。

 そう考えた瞬間、俺の中身が恐怖で支配された。

 怖い、怖い、怖い。死にたくない。


「ンん~、でモ君結構不思議な能力みたいダ…ジャあ前の三人トは違ウ方法で遊ボゥっ!」


 マリアはそう言うと、指を二回鳴らした。

 遂に高田までが消えてしまったのだ。


「君、僕ノ部下一人と戦っテ勝ッたラ生かしてぁゲルヨ!」


 …目の前に一筋の光が刺した気がした。

 今俺は、何を思えばいいのか。

 魔王軍の隊長の部下を倒さなければ死ぬことになったことを恨めばいいのか、それとも生きる道が出来たことを喜ぶべきなのか。

 高田達を助けようなんて考えなければ良かったとすら思ってしまう。


 そんなことはどうでもいいのかも知れない。俺は、ただひたすらに生きたいと願った。


「ジャあ、僕は高ミの見物ヲさせて貰オうかナ?」


 マリアがそう言うと、地面が黒く染まり、其処から、巨大なナタを手の役割を果たしていると思われる蔦に巻きつけたカボチャの化け物が這い上がってくる。


「キチチチチチチチチッ」


 そのカボチャは、何かが千切れるような不気味な音を出して笑った。


「コの子の名前ハ、《ジャック・オー・ランタン》。かワイいデしョ?」


「…随時とな」


 モブだった筈なんだけど、なぁ…


───

──


 俺がダンジョンへ潜る前、石碑で飛んできたのかそこへ一人女が現れた。

 余りにも困惑している様子だったので、俺は放って置けずに彼女へ声を掛けた。


「どうしたんだ?」


「え、あの、私の仲間がいきなり変になってしまって、十層の前にある石碑へ私に魔石を持たせて触れさせたんです」


「なるほど、その仲間は死ぬ。諦めろ」


「は?」


 その言葉に、彼女は受け入れ難かったのか動きが止まる。


「状況からして、一人で十層に進むつもりだ。お前の仲間というのなら実力もさほど変わらない程度。まあまず十層のボスに殺されるだろう」


 …状況を飲み込んだ、いや、飲み込んでしまった彼女の顔が絶望に染まった。


「…どうにか、ならないんですか…」


「ならないな、今から十分持てばいい方だろう」


「嘘…」


 ダンジョンに来たのは最近なのだろう、時々見る、その惨たらしく悲痛な声を、俺はあの彼女と重ね合わせてしまった。


「…俺なら、運が良ければ助けられる」


「本当、ですか…?」


「ああ、俺に依頼するか?勿論報酬は安くないが、実力はこのダンジョンで一番だと自負している」


「…お願いします、助けて下さい!」


「分かった、任せろ」


 俺は彼女の頭に手を置いた。

彼女の為に、そして、《彼女》の為に。

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