13
日も昇らない程早く、不気味なほどすんなりと俺は目を覚ました。
この国──アルキセルド──から支給された服に着替えて、顔を洗いに外へ出る。
…鋭く冷えた水を井戸から引き上げ、顔に掛ける。異世界に来て始めの頃は井戸と桶に驚いたが、もう慣れたものだ。
ふと、水を水魔法で代用出来ないかと考えつく。俺は試しに水魔法を桶の中に入れてみることにした。
中に入れた水を手に取り、再び顔に掛ける。よし、問題なく使えるようだ。
別に今まで通りでももう苦ではないが、やはり人間楽をしたい生き物だ。
しばらく使えなかった水魔法の練習になるっていう利点もあるから、これからは使っていこう。
そんなこんなで頭をシャキッとさせている内に、朝日が登って来ていた。
つまり、今の時間が大体日の出の時間だということになるから、今は…6時くらいか。
確か、ダンジョンに出発する時間は9時から、訓練所に集合する時間は8時30分までだったと思い出す。
この城の城内から出発するときでは、人を集められる場所が訓練所しか無いため、訓練所に集合することになっている。
そういえば、ダンジョンか独り立ちかの選択肢があったが、俺は勿論ダンジョンに行くつもりでいる。
しかし、参ったな…。時間を潰せるものが無い。
どうにかこうにか、何か時間潰しでも探すか。
…と意気込んだものの、結局時間潰し探しに使える時間を全て使ってしまい何もしないまま訓練所に集合をすることとなった。
「さて、と。全員集まったな?それでは今から、ダンジョンに出発する」
静かな訓練所に騎士団長の声が響く。
「あー、勿論ダンジョンに行かないで金貰って出て行くってことも出来るが…そうしたい奴は手を上げてくれ」
その声に、何人かは反応して手を上げる。俺としては渡辺が手を上げてないなら、上げる必要は無い。
「一、二、三、四人か、分かった。じゃあお前らは城門の方へ行ってくれ。予め言って置くが、出て行く以上お前らはもう勇者ではなく只の異世界人だ。その辺り、気をつけろ」
離脱する四人は騎士団長の忠告を深く気にしていないようだが、勇者ではなくなるということは身分が無くなるということだ。
下手したら犯罪者として即捕らえられるってことも有り得るのだが…俺に取ってはあまり気にとめることでもないな。
騎士団長は四人が訓練所から出て行くのを確認すると、再び話し始めた。
「よし、行ったな。では残った勇者達には、今からダンジョンに移動してもらう。交通手段は馬車で、3時間程だ。まあ、正確に言えばダンジョンではなく手前にある街に行くんだが…」
───
──
─
長いことガタガタと揺られて、身体の彼方此方が痛くなってきたころ。遂に、街が見えて来た。
もうすぐ到着するあの街は、ミナシカの街というらしい。ちなみにルイザさん情報だ。
驚くことにミナシカの街に勇者達に付いていた召使いも一緒に付いて来るらしく、今は同じ馬車で揺られている。
約30人もの召使いが城から居なくなってもいいのかと疑問に思ったが、ルイザさんによると元々有り余っていた召使いの全体の3割すら抜けていないので問題ないとのこと。
その後も馬車で街の中へ入っていき、整備された路上を進んだ。一目見ての街の印象はなかなかに活気のある街で、良く賑わっていた。
やがて馬車は、前いた城程では無いが巨大な屋敷を囲んでいる背の高い柵を越えたあたりで足を止める。
その屋敷には繊細ながらも華美な装飾がなされており、堂々とした佇まいを感じさせた。
屋敷のロビーに入ると、後続の勇者達が詰まってはいけないとルイザさんが俺の部屋に案内してくれた。
そんなこんなで、丁度只今目的地に到着した訳だ。
俺が新しく住むことになる部屋に特徴的なものは無いのだが、どことなく落ち着いた雰囲気があり、俺はこの部屋を気にいった。
気を抜くと、直ぐに長い間馬車に揺られていた疲れがドッと押し寄せてきた。
思わず俺はベッドに倒れ込むと、はふっと柔らかな感触がして、疲れが少しだけ薄まっていったように思える。
ルイザさんは微笑みながらお疲れ様ですとだけ口から紡ぎ出し、部屋を出て行った。優しい子ですわぁ…
ベッドの上での休息を終えた後。
タイミングよく、部屋がノックされルイザさんが入ってきた。
「サクラ様。これから、探索者業界第十三支部に向かいます」
…ということで、俺は探索者業界支部とやらに向かうことになった。
探索者業界とは、主にダンジョンを管理する役員と、ダンジョンを探索するために外部からやってきた探索者によって成り立っている企業で、探索者はダンジョン内で手に入れたアイテムを業界に売り生計を立てている。
探索者業界でダンジョンをほぼ全て仕切っていると言っても間違いではないので、ダンジョンに入りたいなら必然的に探索者になる必要があるのだ。
そのため、俺はその手続きをしにこの街の支部へ行くという訳なのだが、どうやら俺が勇者達のなかで一番最後らしい。
ルイザさんは、本当はもう少し先になる予定でしたが、お疲れのようでしたのでと話していた。
…そういう風にルイザさんと会話をしていると、いつの間にか探索者業界支部にたどり着いていたようだ。




