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 渡辺を医務室に運び込んだあと、俺は城内で光魔術師を探していた。

 光魔術師とは、文字通り光魔法を使う魔術師の事だ。光魔法では人間の物理的に負ったダメージや精神的なダメージを治すことができるため、光魔術師はこの世界での医者という立場にあたる。


 普段は医務室に居るはずなのだが…タイミングの悪いことに医務室へ渡辺を運び込んだときには居なかったのだ。

 すでに一通り、光魔術師の居そうな場所は確認して来たのだが、そのどれにも光魔術師は居なかった。

 …もしかすると、すれ違いになったのかも知れない。そんなわけで俺は一旦医務室に戻ることにした。



 暫くして医務室に帰ってくると、部屋には渡辺の他にもう一人男であろう人物がいた。服装からして光魔術師で間違いないだろう。

 ベッドに横になった渡辺に光魔法をしていたようだが、終わったようで立ち上がって俺の方へ歩いてくる。


「あ、もしかして君がサクラくんですか?」


「ああ、そうですけど」


「やはりそうでしたか、先程ミオリさんからサクラくんのことを伺っていたんですよ。私は光魔術師のノアです」


 そういってノアさんは微笑んだ。なんだか不思議な雰囲気を持った人だ。

男だとあまり見ないような髪型をしている。艶の有る黒髪を後ろで一本に纏めている、ポニーテールという奴だ。それに眼鏡を掛けている異世界人を見たのは初めてた。特に、瞳は地球でも見たことのない美しい金色の瞳をしている。


「よろしくお願いします」


 と言い、俺は手を差し出した。


「ええ、此方こそよろしくお願いしますね」


 何故か、相手の握手の仕方に違和感を覚えた。まあ、気のせいだろう。


「ミオリさんには光魔法を掛けて置きました。極度の緊張によるストレスが原因でしたが、もう治したので大丈夫です」


「そうですか、それは良かった」


 もう心配はいらないようだな。そう思い、ホッと胸をなで下ろす。

 そのとき、医務室の中にカシャカシャと大きな音を立てながら鎧を着込んだ兵士が早足で入ってきた。


「国王から勇者様に召集があります!」


 …どうやら、何か話があるようだ。



──────

────

──


 玉座の間にて。渡辺を除く勇者達全員がそこに集められていた。都合のいいことに丁度ダンジョンから帰ってきた日比谷達もいる。

 国王から話があるようだが…国王の沈痛な表情から、その話が決してよい知らせなどではないことが伺えた。


「勇者達よ、今私が緊急で召集を掛けたのはこの国である事件が起こってしまったからだ。それは、魔王軍の隊長がこの城に易々と入り込んでしまったことだ。幸い怪我人は居なかったようだが、またいつ魔王軍が侵入してくるか分からない。まだ、我々には時間があると思っていたのだが…今や勇者を闘えるようにするための時間さえ危うい。最早、多少の犠牲を気にしていたら勇者全員が死んでしまう。よって、勇者達には明日から全員ダンジョンに潜って貰うことにした。反対するものは、金貨を32枚──一年間楽に暮らせるだけの金額を渡す。それでどこにでも行ってくれ。私の話はこれで以上だ」


 事件の内容は大体予想していたのだが、これは明らかに予想の範疇を上回っていた。

 全員ダンジョンに行くというと、渡辺も行くのだろうか。兎に角、もうなりふり構って居られなくなったってことだな。


 俺は、…例の魔導書を使うことにした。


──────

────

──


 ダンジョンに出発するのは明日だから、今日の内ぐらいしか本を使えないと思っておこう。

 今から使える時間は、明日のことを考えて2時間。そして、それを魔導夢の中で過ごすと…2年間の猶予がある。


 さて、と。本を開こう。相変わらず、本を開くと最初から其処にいたように魔導夢の中に入った感覚だ。

 あの少年は、まだ居ないが、早速始めよう。



 …そして、現実に置いて、本を開いてから二時間が過ぎた。簡単に言っているように見えるだろうが、実際2年の月日が流れている。まあ、魔導夢の中でだが。…本当に、考えるとあっという間だったことがわかる。


 現実で二時間だからといって、魔導夢の中で二年も集中出来る訳ではない。そのため、最初の1ヶ月は大分効率も悪く精神に負担も大きかった。

 しかし、その内馴れていき最大で720時間ぶっ通しで魔法の練習が出来るようになった。魔導夢では、睡眠欲が起こらないのも原因だったようだと思う。


 お陰でステータスがこんなに上がった。いつの間にか、瞑想をしたまま動けるようになったので、それから使いっぱなしにしていたら魔力が有り得ないくらい上がっていたのだ。


────────

佐倉 颯真

Lv01 age16 HP24/24 MP700/700(+652)

《水魔法Lv01》《氷魔法Lv01》

《雷魔法Lv56》《瞑想Lv28》

《魔力感知Lv53》《魔力操作Lv58》

《必要経験値減少》《想像と創造》

『魔導の才』

────────


 少年には、世話になった。何度も励まして貰ったし、魔法の指導もしてくれた。共に喜び、共に悲しんだ。俺達は、親友になっていたのだ。


 魔法系のスキルは、10レベルごとに上がりにくくなっていく。そこで何度挫折しそうになったことか。しかし、ここまで上げることが出来た。今では50レベルを過ぎた所から本当に上がらなくなってしまった。


 どれくらい上がらないかというと、50レベルから1上げるのに45レベルから50レベルに上がるくらいの経験値が必要になる。


 だが、50から60レベルまでの半分以上をレベルアップ出来たのは《想像と創造》スキルの影響が大きいだろう。

 このスキルは、想像力と創造力を高めてくれるスキルで魔法系ととても相性がいい。確か、手に入れたのは半年前だったか。


 まあ、そんなこんなで色々なことがあった。当然名残惜しいが俺は魔導夢から覚めることにした。


「少年、もう…二年だ。現実に戻るよ」


「もう、二年かぁ…。颯馬…また来るんだよね」


「ああ、また来るよ…きっと」


「じゃあ、待たね…待ってるから」


 少年は青年のような姿となっていた。俺がこの本を初めて開いてから7時間。…二時間前、いや、二年前に会ったときには、もう俺と同い年のような姿だった。つまり、少年は魔導夢の速度で成長していくのだ。


 今の彼の姿を17歳と仮定すると、明日には41歳、明後日には65歳、明明後日には89歳。つまり、少年とはもう4日間の間にしか会えないかも知れないのだ。


 二人とも、それは分かっていた。この城の図書館の本を、明日ダンジョンに持っていくのは禁止されている。つまり、返却しなければならない。もう、会えないのだ。きっと。


…しかし、心地良い夢から覚めたように現実へと引きずり戻された。辺りはもう暗い。ふと、目から何かが零れ出る。その液体は、いつの間にか閉じられた本の上に落下した。

 そして、本の表紙に幾つもの染みを作り上げていった。



 …明日からはダンジョンだ。

 学業の影響で「2018年/10月/14日」「2018年/10月/21日」を休載します。活動報告でも、お知らせしています。

 今回、改行の仕方を変えてみたんですが…どうでしょうか?

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