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 食堂の前についた俺は、まず辺りを見渡した。クラスメイトが二十数人ほどいる。しかし、渡辺はいない。渡辺が無事かどうか不安だ。

 俺は次に、食堂の扉を開ける。丁度そのとき、照明がつき、明かりが戻った。食堂の中には、呆然とした様子で立ち尽くしているクラスメイトと、床に倒れ込んでいる渡辺がいた。

 …今すぐ渡辺に駆け寄りたい衝動に駆られる。渡辺が、大丈夫なのか、すぐさま確認したい。だが、今動いてしまうとこれまでクラスメイトに掛けてきた脅しが全て無駄になってしまう可能性すらある。俺は今、慎重に行動しなくてはいけない。

 今どう行動するべきかを考える。…よし、これで行こう。俺は、部屋の中のクラスメイト全員に聞こえるように言った。


「おい、なんだこの状況は?」


 何人かは俺に気付き、顔が青ざめる。だが、まだ呆然としたまま、俺に気がついていないクラスメイトもいる。ひとりでも、俺の行動を見ているなら問題はないので、そのまま続ける。俺は、偶然近くにいた男子の肩を掴んだ。

 俺自身曖昧だからよく分からないが、今恐らくこの状況では傍観者効果という集団心理が働いている。これは確か、自分以外にも傍観者がいる場合、自分から行動することが少なくなるという心理で、他の誰かがやってくれるだろうというあれだ。

 なので、いち早く情報を引き出すために、適当に一人を決めてそいつに答えざるをえない状況にしたわけだ。まあ、本当に効果があるのかどうかは分からないが。

 そのクラスメイトはビクビクしながら、一応質問に答えてくれた。


「わ、分かりません、いきなり魔王軍隊長とかいう人が来て、それで、まず渡辺が殺されるってなって、それで、よく分からないけど、気が変わったとかで生かされたみたいです。それで魔王軍の人が居なくなった瞬間、渡辺が倒れたんです」


 まあ大体何が起こったかは分かった。


「そうか、くくっ、くははははは」


 俺は全力で高笑いをして、思いっきり何か裏があるような顔をした。勿論演技だ、勿論演技だ。大事なことなので二回言いました。そして、含んだ笑みを浮かべ囁いた。


「…良いこと思いついた」


「えっ」


 クラスメイトの男子にはしっかりと聞こえたようで顔が引きつっている。


「よし!渡辺は俺が医務室に運ぼう!()()()()()()()()()()()()()()()、いいよな?」


「あ、え、えっと、え」


「い、い、よ、な?」


「はい!だ、大丈夫です!」


 さて、これで渡辺を医務室に運ぶ大義名分(?)が手に入った。この男子の反応を見るに、明らかになにか裏があると思いこんでいることだろう。上手くいってよかった。渡辺は大丈夫だろうか…。

 渡辺に近づく。これは…完全に気を失っているな。俺は、渡辺を持ち上げ…、持ち上げ…、…おんぶするにも抱っこするにも難しい体制で倒れているな。テーブルがとてつもなく邪魔だ。

 …えっと、まずは…渡辺を仰向けにして、っと、脚を持って、上半身を支える、と。よし、持てた!俺は、医務室に運ぶために渡辺を抱えながら食堂を出た。それにしても、なんとなく視線が痛い気がするな。

 

──────

────

──


 私の目が覚めたとき、まず始めに感じたことは、温もりだった。一定の規則で揺れていて、まるで揺りかごに入っているみたいで、また眠ってしまいそう。そう、思った。思えば、長らく感じていなかった、優しさ。

 最近は仲の悪かった両親のことを思い出す。くだらない意地を張って、喧嘩して…もう、会えないかもしれないと考えると思い残ることが沢山あることに気がついた。ふと、目から涙が零れ落ちた。この異世界に来てから、毎日が辛くて、不安なのだ。


「…もう大丈夫だからな」


 その一言を聞いて、私は自分の胸が温かくなるのを感じた。とても、安心した。

 私は惚けながら、目を開けた。…私とかなり近い距離に佐倉くんがいる。さっきの言葉は佐倉くんが掛けてくれたのかな、と考えた。そして、酷く安心をして目を瞑った。………え?佐倉くん?

 眠気が一気にさめた。私は再び目を開ける。やはり、佐倉くんがいる。私は、寝起きの頭で必死に自分の身に何が起こったか考察した。クラスメイトの中で日比谷を除いて、たった一人普通に接してくれた佐倉くん。佐倉くんなら、何も心配することはない。そういう結論にたどり着き、再び目を閉じようとする。

 …いやちょっと待て!佐倉くんは危険人物だ!未遂だったとはいえ、高良を殺そうとしたんだ!そう思い出し、考え直す。思考回路がごちゃ混ぜになった。でも、私を助けてくれたんだ。…さっきの言葉も、思えば佐倉くんの声だった気がする。佐倉くん、もしかしたらいい人なのかな?でも、やっぱり危ない人なのかな?分からない。けど、多分いい人だ…。よく見ると、格好いいかもしれない。身長も高いし、王子様みたいだと思えてしまう。

 …ん?そういえば、何でこんなに近くに顔があるんだろう。…あ、もしかして…。状況を理解し顔が赤くなる。


「ちょ、ちょっと!これってお姫様抱っこじゃない!」


 そう、佐倉くんに私は、所謂お姫様抱っこというものをされていた。佐倉くんがハッとしたような顔をした。そして綽々といった様子で言った。


「そうだな、気がつかなかった」


 気がついていなかったの!?でも、これでお姫様抱っこは止めて貰えるだろう。……暫くしても、佐倉くんは歩くのを止めない。あ、これ止める気ない人の動きだ。察しました。でも、これでもいいかもしれない。…ってよくない!


「ちょっと!離して!恥ずかしい!」


 そういって、精一杯抵抗し暴れる。しかし、佐倉くんは私を離さない。


「医務室まで待ってね」


 そういって、佐倉くんは笑った。あ、格好いい。…って違う!

 その後も抵抗したが、私は結局医務室までずっと同じ体制で運ばれた。

 私は確信した。佐倉くんは絶対にSだと…!

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