誰それ
―涼子Side
「おはよ。どうしたの?朝からスマホ睨んで」
「おはよ。あのさ、好きな人がいるのに、他の女子を誘うってどう思う?」
「ないね」
「…だよね」
凜と話しながら、一昨日から続く暁翔とのやりとりを見る。
〈俺、土曜日休みなんだ。 大学休みでしょ? 一緒出かけよ〉
〈土曜日は用事ある。ってか、好きな子いるんだから私を誘うのはよくないと思う〉
〈それは大丈夫。 用事ってバイト?〉
(大丈夫ってなんだ?)〈バイトじゃない。とにかく外せない用事〉
一昨日のやりとりはここまで。そして……
〈用事ってどこで?何時まで?〉
前の日で終わったと思ったやりとりを、また繰り返してきたので返信しないで放置していると、連続でスタンプやら呼びかけるメッセージが送られて来た。
あまりにもしつこいので、念押しので〈出かけられない〉と返信すると……
ピロン
〈じゃあ、用事なくなったら教えて〉
(…なんのために? というか、誠実はどこへ行った…)
スマホを机に伏せて、私も一緒に机に伏せる。
「あ!好きな子いるのに他の女の子誘うのは基本ありえないけど、一つ考えられることがある」
「それは?」
伏せていた顔を少し上げて凜の顔を見ると、
「実は、その誘っている子が本命!」
ニコッとした凜が私の頬をちょんと突いてきた。
「……それはどうでしょう」
「なんで!? 恋愛ものの定番じゃん」
「あのね、作品はいいよ。でも、現実でそんな勘違いした時には、目も当てられないよ……」
そう。私の姉がまさにそのタイプ。
姉は学生時代から20代前半まで、恋愛面においてかなり残念だった。
少しでもいいなと思ってる人から優しくされたり、ボディタッチされると、もしかして私に気がある?
仲がよかった人から、恋愛相談されていた時は、もしかして私のこと?
よくご飯に誘われたり、家まで送ってもらったり、どこかに出かけようって言われたら、もう確実でしょ?と……
まあ、少し考えたら「この人、私に気がある!」と、そんなすぐには思わないと思うけど、恋愛もの大好きで、恋愛脳の姉は恥ずかしながら、そんな考えに直結させてしまうタイプだった。
その結果……
ただの親切心。そんなつもりじゃなかった。シンプルな恋愛相談や、相談というか世間話の延長での話題。
ご飯に誘っていたのは姉の友人目当てだったこともある。
こうして、勝手に盛り上がった姉の恋はことごとく散っていった……
それを小学生から聞いたり見ていたらどうなるか。
「…ということで、直接言われない限り“もしかして”なんて思わない方がいいの」
姉の話をすると、凜はぽかんと口を開けていた。
言いたいことは分かる…。当時のことを思い出すと、こっちが恥ずかしくなるくらい、あの時の姉は残念過ぎた……。
「なるほど…(まあ、分からないではないけど、これは大変そう…)」
ピロン。伏せていたスマホが鳴って、何となくイヤな予感はしたけど一応確認する……
〈用事なくなった?〉
〈明日一日用事があります。以上〉
―暁翔Side
土曜日、結局涼子に断られ一人で買い物しながらショッピングモールへ。
(はぁ~…涼子の用事って何かなぁ まさか、男と会ってる…ってことはないかぁ…)
頭の中は涼子のことばっか。正直、こんなに誰かのことを考えているのなんて、人生初めて。
(次は服でも見てみようかな~。涼子どんなのが好きかな)
ほらまた考えている。そうして、服を見ていると、
「………あ?」
人混みの中に男と笑いながら歩く涼子の姿が見えた。
(は?嘘だろ?)
もしかしたら見間違いかもしれない。確かめるためにも二人に近づいて行った。
男は真面目で優しそうな感じ。年は俺たちより確実に年上で、歩いている二人は一定の距離感。
(年も離れてるし、この感じはそういうのじゃないな。あ~よかっ―)
「―…涼子ちゃんは…」
(涼子ちゃん!?)
親しげに名前を呼んでいて、俺の中でピキッとなるのが聞こえた。
そしてその二秒後、それが完全にキレた。
「大貴さん―」
(だいきさん!?)
―涼子Side
「涼子!」
今年入って何回この声で呼ばれた?そもそも私のことを呼ぶ男の人なんて限られている。
振り向くと、眉間にしわを寄せ、口をへの字に曲げている暁翔が立っていた。
「(何か不機嫌?)偶然だね」
ずんずんと私たちに近づいて前に立つと、「誰それ?」と横目で大貴さんを見て低い声で尋ねてきた。
「? お姉ちゃんの旦那さんだけど」
「………え?」
「こんにちは」
眉間に寄せていたしわがパッと消え、目を見開いた暁翔は大貴さんを見ると、ペコッと頭を下げた。
「そして、甥っ子の夏貴くん!」
大貴さんが押しているベビーカーに乗っている夏貴くんも紹介すると、暁翔は口元を腕で隠した。
「涼ちゃん、大貴さん何してるの?」
前を歩いていた姉の來夏と妹の瑠璃が、私達が付いてきていないことに気付いて戻ってきた。
「あ、ごめん」
二人は暁翔をチラッと見る。
「友だち?」
「同級生。たまたま会った」
「どうも~。涼子の姉です」
「どうも」
声をかけてきた姉にペコッと頭を下げる暁翔。
久しぶりに生で暁翔を見た妹は静かに興奮していて声も出せないらしく、ペコペコと頭を下げていた。
「じゃ、そういうことで」
私が歩き出そうとすると……パシッ。姉と妹に腕を掴まれた。
「??」
((恋の予感がする!!))
今まで男の影がゼロだった涼子に、初めての男の子でテンションが姉妹は、
「ねぇ、お腹空いてない?」「もしよかったら、一緒に食べません?」
と暁翔を誘う。
「行きます」
二人の誘いに笑顔で即答の暁翔。
「いや、無理しなくても…」
そう言っても「行きます」と食い気味で、もう一度二人に返事をした。
「…」
(マジで何?)
結局、乗り気な三人に何も言えず、大貴さんも「いいよ」と言ってくれたので、六人でモール内のパスタ屋さん入ることに。
それぞれ注文を済ませると、
「二人はいつから仲いいの?」「彼女は?」「好きな子は?」
など姉と妹は暁翔に質問攻め。
その間私は夏貴くんと遊んで癒やされる。
隣では姉と妹からの質問に暁翔がスラスラ答えていた。
(さすが美容師。トークなれてるんだなぁ)
みんなの食事も終わりかけた頃、夏貴くんがグズり始めたので食べ終わっていた私が外であやすことに。
暁翔に質問していく中で、その答えから涼子に気があること、そして暁翔の気持ちに涼子がまったく気が付いていないことを察した。
「暁翔くん、妹がごめんね」
「それは、お姉ちゃんのせいでもあるんじゃない?」
「それって…」
どういう意味なのか気になった暁翔が妹に尋ねる。
「実は…」
妹は、來夏のせいで涼子がそういう考えをしないようにしていることを話した。
◇
「ただいま。…って、何?」
機嫌が戻った夏貴くんと戻ると、何やら言いたそうな目線をみんなから向けられた。
(私がいない間に何かあった?)
姉と妹は、暁翔の顔を見てニコッと笑い「私は応援してるよ」「私もです」と何やら暁翔を応援しているよう。
(好きな人の話でもしたか?)
暁翔も二人の言葉に頷きながら、
「ありがとうございます。頑張ります」
と言うと、ニコッと笑って私を見た。
(よく分かんないけど、何か聞きたくないし黙っとこ)
―暁翔Side
涼子の妹の話を聞いて納得はしたけど、それでも大人になったんだから少しは察しろよと思った。
(俺が言えばいいだけの話だけど、それはまだ自信ないし…)
チラッと後ろを歩く涼子と妹ちゃんを見る。
妹ちゃんが涼子の家に泊まるっていうのを聞いて、俺が二人を送ることに。
涼子は遠慮していたけど、お姉さんが「せっかくだから、送ってもらいなよ」と言ってくれて、妹ちゃんも俺の車に乗りたいと二人のアシストのおかげで、涼子もしぶしぶ頷いた。
(ってか、周りに俺のこと話したりしてないのかな。お姉さんと妹ちゃんは俺のこと全然知らなさそうだったし。
「最近よく誘ってくる男子がいるんだよね」とか誰かに言って、そいつが「涼子に気があるんじゃない?」とか言ってくれないかな。
そしたら、少しは意識してくれそうだけど…)
そんなことを考えながら車に向かって歩いていると、後ろを付いてくる涼子と妹の会話が聞こえた。
「瑠璃、助手席座らせてもらえば?(前に暁翔のこといいって言ってたし)」
「いや、緊張で無理。それに荷物もあるし」
どうやら涼子は、妹ちゃんを助手席に座らせて、自分は後ろに行こうとしているらしい。
「それもそうか」
妹ちゃんの言葉に納得したのか、俺がキーを開けると、涼子は助手席……側の後部座席を開けた。
「二人で後ろ乗ろ。お願いします」
ドアを開けて二人で固まる。
「…なんか、すみません」
「(いや、悪いのはこの鈍感女だから)ううん、ありがと」
まあ、こうなるなとは何となく思ってたけど……心の中でため息を吐いた。
「「よろしくお願いします」」
改めて二人にお願いされて車を出す。
涼子が前に好きと言っていたHaruを流すと、すぐに反応していた。
「暁翔Haru聴いてるの?」
「前に涼子が好きって言ってたから、聴くようになった」
「えっ、ホント?嬉しい」
(流してよかった~)
いつもの所に着くと涼子が、
「送ってくれてありがとう。あっ、ごめん、ちょっと二人で待ってて」
と言って、走ってコンビニへ入っていった。
何しに行ったんだろうと妹ちゃんと不思議に思って待っていると、買ったものを抱えて、俺に窓を開けるように言った。
「今日もだけど、いつもありがと。これ、少ないけど送ってくれたお礼。明日の朝ごはんにでもして」
そう言って渡してきたのはコーヒーとパン。
(そういう所だよな…)
「サンキュ。明日食べるわ」
「「ありがとうございました」」
二人はまた俺に礼を言って、コンビニへ入っていった。
◆
昨日涼子からもらったコーヒーとパンで朝食を済ませる。
誘いは断られたけど、偶然会って涼子の家族とご飯食べれてよかったな。涼子の姉さんと妹さんも応援してくれるみたいだし。
昨日のことを思い出しながら、スマホを操作する。
〈おはよ。昨日はコーヒーとパンありがと。今食べたよ〉
〈おはよう。よかった。どういたしまして〉
(朝からめっちゃ気分いいわ)
いつもはダルいけど、涼子からもらったものを食べたからか、気分良く仕事へ行けた。
本日最初のお客さんは、定期的に来てくれる男子高校生。鏡越しに見る顔はめっちゃ整っている。クールな印象で、接客中の世間話はない。
いつも通りセットしていると、その子が見ていたスマホの画面がチラッと見えてしまい、思わず声をかけてしまった。
「あれ、そのキャラ…」
(しまった。涼子が好きなキャラだったから、つい声が…)
「あっ、すみません。勝手に見ちゃって」
「…知ってるんですか?」
鏡越しに俺の顔を見ながら尋ねてきた。
「詳しくはないけど、俺の好きな子が好きって言ってて……」
そう言うと、さっきまで無表情だった顔が、ほんの少しだけ緩んだ。嬉しそうにも、寂しそうにも見える、少し複雑そうな顔。
「…実は、俺の好きな子も推してるって聞いたから、どんな感じなのか気になって…」
(へぇ~ こんなイケメンでも片想いか。 この顔だったらすぐオッケーされそうだけど)
「そっか。じゃお互い、この男がライバルってことっすね」
「…ですね」
聞くと、片想いの相手の子は家が隣でずっと同じ学校だけど、11年間同じクラスになったことはないらしい。
(俺と涼子は小中一緒で、三回くらい同じクラスになったけど、それってめっちゃラッキーなんだな)
中学までは全く話もしなかったけど、高校に入ってからは色々あって会話をするくらいには近づいたらしいけど、この子の気持ちには全く気付いていない様子みたい。
(その子も鈍感系か?)
初めて話したけど、何だか人ごとには思えなくて、それに…
その子の話をしている間、クールだけどめっちゃ嬉しそうで、その顔を見ると心から応援したい思った。
「できました。どうですか?」
「ありがとうございます。
…あと…色々聞いてくれてありがとうございました。」
「応援するよ。お互い頑張ろうね。ありがとうございました。」
―涼子Side
「ねえ、昨日暁翔さんの働いてるお店の名前聞いたから、行ってみようよ」
「行って何するの?」
「ん~…ちょっと覗いてみたい!
バレないようにちょっと遠くから覗くだけだから!ね!お願い~」
私の腕を振りながら「お願い~」とずっと繰り返している。
(ん~……瑠璃はしつこいからなぁ……。まあ、一回見れたら満足するでしょ)
「わかった。迷惑にならないように、そしてバレないように遠くからね。見れたらすぐ帰るから」
しぶしぶ了承すると、瑠璃は満足そうに「オッケー」と元気よく返事をして私を引っ張っていった。
「イケメンがイケメンの髪切ってる」
にこやかな表情で接客をする暁翔。
いつものニコニコとは少し違う初めて見る顔に少しドキッとした。
「かっこいいね」
見られて満足しているのか、緩みきった顔で暁翔を見ている瑠璃。
「…そうだね。ほら、もう満足したね!行くよ」
前を歩く涼ちゃんの後ろ姿を見ると、なんだかワクワクしてきた。
(涼ちゃん照れてる? これは…いい感じじゃない?)




