まさかね…
―涼子Side
「いらっしゃいませ。 あれ?」
「青井じゃん。バイト?」
一人だけいたお客さんが帰ったタイミングで、中学の時の同級生が来店した。用事をした帰りで何となく入ったらしい。
カウンター内で片付けをしながら前に座る彼と話をする。
「まさか、青井に会うとは思わなかったな」
「こっちもびっくり」
「他に誰か来たりした?」
「昨日、暁翔来たよ」
暁翔は週に一、二回。休みのたびにお店に来るようになった。
「へぇ、意外……暁翔ってこういうとこ来るんだ…。
そういえば、成人式のパーティー参加してなかったよな?」
「うん。高校のクラス会行ったからね」
「暁翔さ、そのパーティー途中で抜けたんだよ」
(あぁ……そういえば、つまらなかったって言ってたな)
「用事あるのに無理して参加してくれたみたいで、パーティー中も時間気にして走って出て行ってさ」
「そうだったんだ…(用事?)」
「まあ、二次会も来てくれたんだけど、それもちょこっと顔出しただけですぐ帰ったし。
でも来たときめっちゃ嬉しそうで、パーティー抜け出して彼女と会ってたんじゃないかってみんなで揶揄ったんだよ。ライン来たときも嬉しそうでさ」
「へぇー」
「そうだ。用事したとき青井と会ったって行ってたけど」
「あ、うん。 クラス会してた所で会ったよ」
「彼女といた?」
「……一人だったけど」
「なんだ。でも、それでか」
? 「なにが?」
「いや、青井と同じ高校だった女子に暁翔が聞いてたんだよ。高校の時、青井に彼氏がいたか告白されたことあるかとか。
だからみんなで、好きなのか?って揶揄ってさ」
(なんでそんなこと聞いたんだろ……もしかして……いや、ないない)
「まっ、ホントにたまたま見かけて気になっただけかもな。二人タイプ違うし。それはないよな~」
「そうだよ(まさかね……そんなわけ)」
注文していたナポリタンを食べ、笑いながら話をする同級生の話に何かが引っかかった。
成人式パーティーの話。二次会の話。今までの暁翔の言動……ってもしかして……
(まさか…いや、ただの勘違いだよね。好きな人いるって言ってたし―)
『実は誘っているその子のことが気になってる』
ドクン。前に凜が言ったことを思い出して心臓が大きな音をたてた。
いや、もしかしてなんて考えたらダメだ。勘違い女になってしまう……。
でも…でも、もしそうなら……?
(次、もしお店に来たら思い切って確かめてみよう…かな……)
―暁翔Side
〈明日バイト?〉
休みの日は涼子がバイトか確認して喫茶店に行くことにしている。
〈明日は休み〉
(おっ、聞いててよかった)
〈それなら、学校終わったあとご飯行こ〉
断るだろうな。とは思いながらも、チャンスを作って行かないと万が一もないので、行けそうな時は誘うことに決めた。ダメでもともと。断られただけでは、俺は折れない。
既読が付いて、少しして返信が来た。
今度はなんて言って断られるかな~。そりゃあ、いい返事は欲しいけど、期待して違ったらやっぱりガッカリはするから、期待はしない。マジで矛盾してるよな~…
自分に呆れながら、涼子からの返事を確認した。
〈いいよ。明日は午前中で学校が終わるから〉
「………え!?」
一瞬、見間違いかと思って、目を閉じて深呼吸をしてもう一度確認する。それでも、画面に表示されているのは同じメッセージだった。読み返しても同じ……
(マジでいいの?いつも断るのに)
〈本当にいいの?〉
〈うん〉
今度はすぐに返事が来た。
(何があったか知らないけど、よっしゃー)
〈じゃ、お昼一緒食べよ。 学校まで迎えに行くから〉
〈ありがとう。12時には終わるから〉
〈了解!〉
涼子とのラインを終えて、SNSを見てお店を探す。
(めっちゃ楽しみなんだけど! どこ行こうかな~。こんなことなら、涼子の好きな食べ物聞いとくんだったな)
―涼子Side
「ふぅ…」
暁翔とのラインを終えると、自然とため息が出た。
暁翔の気持ちを確かめてみようって決めて、約束したのはいいけど…
どのタイミング切り出す?
というか会う約束しないで、そのまま聞いた方がよかったんじゃ…
「どうしよ…」
◇
「おつかれ」
門を出ると、暁翔が車から顔を出して手を振り合図してきた。
「……ありがと」
(何か緊張する……)
「前乗って~……え?」
私が言われたとおり助手席のドアを開けると、暁翔は驚いていた。
(いつも後ろに座りたがるし、今日もそうだと思ったんだろうな。やっぱそっちの方がいいか)
「ごめん、やっぱり後ろに…」
そう言ってドアを閉めようとすると、暁翔は慌てていた。
「違う、違う!いつも後ろ行くから珍しくて。そのまま座って…」
「あっ、うん。よろしくお願いします」
暁翔の隣に座ると、いつものニコニコ顔に戻った。
「何か食べたいのある? もしなかったら、モール内のレストランから一緒に選ぶのがいいかなって思ったんだけど、どう?」
「うん。思いつかないから見て決めたいかも」
「オッケー。じゃ、向かうね」
「お願いします」
(お店決めてるのかなと思ったけど、私のこと考えてくれたんだ…)
そう思うと、胸のあたりがムズムズした。
(聞くのは、ご飯が終わってからにしようかな)
―暁翔Side
(勝手に決めなくてよかったぁ…)
行く場所を色々見ていたけど、それが食べたい気分じゃなかったら? 候補の中に行きたいと思うところがなかったら?場所とか雰囲気がいやだったら?昨日、今日で気分が変わるかも…
いろいろ考えた結果、前に涼子の家族と会ったモールが安全なんじゃないかという結論にたどり着いた。
(俺は涼子とだったら何でもいいし)
涼子の好きなHaruを流してモールへ向かう。
(まさか、素直に隣に座るとは思わなかったな)
信号待ち、チラッと涼子の顔を見る。さっきから俯いて、手を落ち着かなさそうに動かしていて、いつもと様子が違う。
「そうだ。これ、運転してくれてるお礼。ワンパターンだけど…」
ハッとしたようにカバンから出したのはコーヒーだった。
「(わざわざいいのに)ありがと」
受け取ったコーヒーをドリンクホルダーに入れる。
(なんかソワソワしてたのは、これを渡すタイミング考えてたのかな)
―涼子Side
二人で相談して洋食レストランに入ることに。
料理を頼んで待っている間、話をするけど何となく落ち着かない。
「学校でなんかあった?」
私の様子に違和感を感じたのか、暁翔が心配そうに聞いてきた。
「別になにもないよ」
「そっか。なんかいつもと違う気がしたから」
(普通にしてたつもりだけど、やっぱ変だったかな…)
「…もしかして、やっぱり俺と二人は嫌だった?」
冗談っぽく笑って言っていたけど、どこか苦しそうな顔に胸がズキッと痛んだ。
「違う!そうじゃなくて……
なんかいつも誰かいたから。いざ二人になると変に緊張しちゃって…」
(嘘は言ってない…)
「そっかぁ。よかった」
(何その、安心した顔。 そんな顔されたら、もしかしてって余計に思う…)
料理が来て、食べながら話している間も、頭の中には「いつ聞こう、何て切り出そう」それしかなかった。
「「ごちそうさまでした」」
気持ちを落ち着けるためお手洗いへ向かう。
パウダールームの鏡を見ながら自分に相談。
(聞きたいけど、何て言われるかちょっと怖いかも…)
(大丈夫。どっちにしても、はっきりさせた方が今後どうするか決めれるんじゃない?)
(確かに。それもそうか…。だとしても、どのタイミングで何て聞く?)
(車に乗ってから聞いたら、結果次第では気まずくなるからその前かな。大丈夫。ここなら電車で帰れるし。
さりげなく、「前に言ってた好きな人とはどうなった」って聞いたら?)
(だね!よし)
頭の中でどういう流れで聞くかシミュレーションして、鏡の自分に覚悟を決めて立ち上がった。




