成長した姿を見せたい
―暁翔Side
中三の時、給食時間はいつも適当なクラスに入って、自由に食べて遊んでを繰り返していた。
自分の教室で食べるのなんて、数えるほど。
涼子の隣の席だった時、いつものようにみんなが食べている中、教室に入り自分で好きなものだけ入れて席で食べていた。
「ごちそうさん」
いつものように、そのまま遊びに行こうとすると、
「ちょっと、待った」
また涼子に止められた。
「? なに?」
「食器、片づけて行って」
「えぇ~涼子が片づけといてよ。お願い」(こう言っとけば、やってくれるだろ)
「あのねぇ 前に教室で食べた後、誰が片づけたと思ってんの?
暁翔が食べ終わったあと、そのままにしてたやつを誰も片づけてなくて、私が片づけたんですけど。 隣でもないのに。
しかも、それが二回! 暁翔に言おうにも、教室にいないし。誰も片づけないし。
ということで、食器片づけてから行って」
初めて涼子に怒られた。
正直、隣の人が片づけてくれるだろう。誰かがやってくれると思って甘えてたけど、それを涼子がやってくれていたとは思ってなかった。
「わかった」
食器を片づけて、涼子の方を見て「これでいい?」と言うと
「オッケー」俺の方を見て、グッドサインを出してくれたので、教室を出た。
―涼子Side
「涼子、給食終わるまで出さないほうがよかったんじゃない? 掃除の時、机下げないと…」
「……しまった! …てか、それは私じゃなくて担任の仕事だと思うんだけど…」
(やる気ない担任め…)
先生は興味なさそうな顔で給食を食べ、出て行く暁翔を止めもしなかった……
ー暁翔Side
それから、授業の時より給食時間の方が涼子がうるさいことを知った。
「次は、こぼさないように気を付けて入れてよ」
「おにぎりにするのはいいけど、ご飯粒が付いた手で触らない」
「ご飯粒を残さない」「食器持った方が食べやすいと思うけど」…などなど
まあ、今考えたら中三で注意される内容じゃない。
この時は、早く食べられればいい。綺麗に食べるなんてどうでもいい。なんて、マジでガキの考えで、涼子が俺のために言ってくれていたことに、まったく気が付かなかった。
ある日、いつも通り急いで食べていると、涼子からいつもみたいな注意をされなかった。
「? 今日は何も言わないの?」
俺が聞いても、涼子は黙って食べていた。
(あれ… 今まで無視したことなんて一回もないのに…。聞こえなかったのか?)
「涼子?」
名前を呼ぶと、持っていた食器と箸を置き、俺の顔は見ず俯いたまま、小さく口を開いた。
「うるさいおばさんだと思われたくないから」
「? どういう意味…」
「私がいちいち言ってるのウザいでしょ? 子どもに言うみたいにしちゃって、暁翔も嫌だったでしょ。
余計なお世話だった。ごめんね。もう口出ししないから…」
周りにも声が聞こえたのか、静かに。
そうして涼子は、また静かに食べ始めた。
確かに、うるさいと思った時もあったけど、それは俺のことをちゃんと見てくれているからで…
そういえば、今日の給食時間は一度も俺の方を見ていなかった。
(ガキが食べたあとじゃん…)
自分の食べ終わった後を見て、何て言えばいいのか分からない気持ちになった…。
それから、涼子に対して初めて気まずいと思ってしまい、教室に行かなくなった。
その間に席替えをしていて、席は離れていた―
久しぶりに教室で食べたのは、また涼子の隣になった時。
嫌がられるかもしれないと思ったけど、最後に一回くらい正面に座って食べてみようと思った。
いつもの様に、遅れて入ったので自分で給食を取る。
(こぼさないように入れる)
この日のメニューはご飯とカレーと副菜、ゼリー、牛乳だった。
「いただきます」
(ご飯粒は残さない。慌てて食べない。肘をつかない、食器を持つ)
まるで小学生以下のような注意点を思い浮かべながら食べて、チラッと正面に座る涼子を見ると、俺の食べる様子を見ていた。
グループも、周りに座っているクラスメイトも俺の食べる様子を伺っていた。
「……なに?(なんか間違ってたか?)」
「その…食べるの上手(?)になったね。ごめん、上から言ってるみたいだね…。だから、その…」
涼子が話してくれてめっちゃ安心した。そして嬉しかった。
いや、今までが最低過ぎたんだけど…。
食べ方がヤバくても、誰も言わなかった。いや、言えなかったのかも。
というか、周りも似たような奴らばっかだったし―
「顔いいんだから、食べる姿もある程度かっこよくしないと。食べ方が汚いと嫌われるらしいよ」
(妹もみんなも暁翔はかっこいいって言うし。というか、また余計な一言を…)
「ごめん、また余計なこと言った…」
( “顔いいんだから”!? 俺の顔いいと思ってたの? 今までそんなこと言わなかったじゃん。なんだこれ…)
嬉しい?恥ずかしい?胸がムズムズした。
「涼子も綺麗に食べる奴がいい?」
「あたり前じゃん。みんなそうでしょ」
「ね?」と涼子がグループに同意を求めると、「うん」「もちろん」と急に話しかけられたことに驚きながらもみんなが俺の顔を見て答えた。
(そっか、綺麗に食べないと嫌われるのか)
自分の食べ終わった後を見て、何だか気持ちがよかった。
「ごちそうさん」
(よし、今日は本当に何も言われず食べれたし、片づければ完璧だな)
食器を片づけようと、席を立つと
「あっ、待って。食器片づけてそのまま出るなら、机を後ろに下げてから行ってね。机二つも下げるの大変だから」
(………完璧じゃなかった)
机を後ろに下げて、食器を片づけ涼子にオッケーをもらって教室を出た。
◆
「ってことがあって、俺は最低限、食事のマナーを身につけたというわけ。まあ、今考えたら最低過ぎるなぁ~」
「へぇそんなことが……涼子すごいね」
「言われてみたら、そんなこともあった気がする。 あんま覚えてないけど…」
(覚えてないかぁ…。 俺にとっては結構なことだったんだけどな~
でも、それくらい涼子にとっては自然とやってたってことか)
「暁翔って、そんなにヤバかったの? それにしても中学時代の私、恐ろしく上から目線。口うるさいプラス余計なお世話じゃん……なんかごめん」
「俺は感謝してるよ」
そういうと、恥ずかしそうに顔を隠していた手を少し開けた。
(なにそれ。可愛いな)
「涼子は、いい保育士になれるね。だって普通、中学生の時に同級生にこんなこと出来ないよ!」
「…そう?」
「うんうん」
友だちに自信をもらった涼子は、完全に手を下ろして、俺を見て微笑んだ。
「ありがと! でも、それは暁翔だからかもね」
(それは、俺のことが気になってたとかそういう…)
「暁翔は言いやすいし、男子の割には小さくて可愛かったから世話焼きたくなったのかも。
ウザかったかもしれないけど怒らなかったし。だから、つい調子乗って言い過ぎたかもね」
(完全にガキ扱いじゃん……)
「「「ごちそうさまでした」」」
「俺の食べ方どうだった? 成長した?」
「完璧! …って、いくつだからよ!」
涼子の一言に三人で笑う。
本当に最低限の食事マナーだけど、それさえ身につければ一緒に食べる人を不快にさせず、楽しく食べることが出来る。
あの時、涼子が教えてくれなかったら、こんな風に笑って一緒に食べることもなかったかも。
「また、ご飯行こうね?」
「……それは、考えさせてください」




