遠慮しないから
―暁翔Side
まだうまく誤魔化せばよかったかな……。
でも涼子が聞いてくれたのにそんなことしたくないし、それに直接言わないとずっとこのままだっただろうし…。
にしても、なんで急にあんなこと言ったんだろ。 誰かに何か言われた?
もしかして、俺にそれを聞きたくて今日一緒に出かけた?
だからいつもと様子が違ったのか?
運転しながら隣に座る涼子を見ると、ずっと窓の外を見ていて顔が見えない。
(乗ってくれたのはいいけど…このままってのは……)
「あのさ」
窓に顔を向けながら話しかけてきた。
「…なに?(何て言うんだ?)」
急に声をかけられてビビったけど、なるべく落ち着いて穏やかに優しく声を出す。
「…この前、中学の人が来て成人式のあとのパーティーで暁翔が抜け出した話聞いて、それで…」
「ちょっ、待って! え?何?何の話聞いたの?」
「だから…」
「あー…ごめん、ちょっと待って。その話冷静に聞けないかも。適当なとこ停めてからでいい?」
「…うん」
パーティーのこと聞いて急にあんなことを? その話聞いて何て思った?
てか、誰だ?そんなこと話したのは、何て聞いたんだ?
動揺しながらも近くにあった運動公園に車を停める。
一呼吸置いて、涼子の方に体を向ける。
「えっと…それで?」
涼子は窓に向けていた顔を正面に直し、俯きながら話をした。
あの時、用事といってパーティーを抜けたこと、二次会で涼子が高校の時彼氏がいたり告られたのかを聞いたこと。その事でみんなに揶揄われたこと…
(恥ずっ…。てか、自分のいないところで揶揄われて嫌だったよな…)
「あの時、つまらなかったって言ってたけど、本当は最初から私のところに来るつもりだった? 時間と場所聞いたのもそのため?」
「時間と場所聞いたのは何となく気になったからだけど、クラス会に行ったのは好きだった人がいるからじゃないかって聞いたら、足が勝手に…」
(あの時はまだ自覚してなかったけど)
「二次会で私のこと聞いたのは?」
「好きな人いないって言ってたけど、本当かなと…」
「なるほど……」
俯いていて表情が見えないから、どう思っているのか全く読めない。それに正直戸惑う。
恥ずかしがってたり、照れてたら脈ありかなと思うし、イヤそうな顔だったら……だけど、声からも全然分からない。
少し沈黙が流れたあと、涼子の口がそっと開いた。
「その……いつから、そう思ってくれたの?」
さっきまで俯いていた顔を少し上げ、チラッと俺を見て聞く涼子の仕草に衝撃を受けた。
(わざとか…?わざとなのか……)
落ち着けるように軽く深呼吸をする。
「えっと、自覚したのはクラス会に迎えに行って一緒に帰ったとき。
でも、今考えたら中学の時も好きだったと思う」
涼子を見ると、「わからない」と言っているような顔で、やっと分かる表情が出た。
「なんで好かれたのか、全然わからない。どこにそんな要素あった?」
「変わらず普通に接してくれるし、いいのも、悪いのもちゃんと言ってくれるし、律儀だし、気遣いあるし、中学の時も、嫌な顔しないで教えてくれて、頭ごなしに否定しなかったし、無視しなかったし、できたら褒めてくれたし。
あと、一緒にいて楽しい」
―涼子Side
(中学の時?)
暁翔が優しい表情で一つ一つ言うたびに鼓動が高鳴った。嬉しいけど恥ずかしい、ムズムズする。
―ドクン、ドクン
心臓がうるさくなって体が熱い……
「タイム! 頭冷やしてくる!」
そう言って車を出た。
じっとしてると落ち着かないので、公園を適当に歩きながら、今までの暁翔の言動を思い返す。
よくご飯に誘っていたのは、辛そうな顔で謝ったのは、雰囲気が変わったのは、どんな人が好きか聞いてきたのは、バイトの時来てたのは、Haruの曲を車で流してくれていたのは、優しかったのは、私の言ったことを覚えていたのは……
私と一緒にいる時、嬉しそうだったのは、楽しそうだったのは、時々不機嫌だったのは、寂しそうだったのは、苦しそうだったのは……
(ちょっと待って…)
よく考えたら、そうかもと思い当たる節しかなくない?
相手に困らない人が、こんなことしてたらそうだって言ってるようなもんじゃん…。
いくら反面教師がいたからって、こんなに人の気持ちがわかってなかったの?
いや、その前に自分でブレーキかけてたのかも。気付いちゃったら自分がどうなるかわからないし、苦しみたくない、傷つきたくないから。
要するに、自覚してしまうのが怖くて…
だけど…
「あんなに真剣に言われたらな…」
公園内には、学校終わりなのか制服姿のカップルが手を繋いでいたり、ピッタリとくっついてスマホを見たりしていた。
(好きな人と一緒にいるって、どんな感じなんだろ)
「…よし」
考えを伝えるために車に戻ると、暁翔が車の外で待っていた。
「おかえり。寒かったでしょ」
「…なんで外で待ってたの?」
「俺だけ車にいるのは、何か違うなって…」
「いや、私が自分で出て行っただけだで、暁翔まで出る必要は…」
「ある」
私の言葉に被せるように言ってくる暁翔に、思わず笑えてきた。
普通にやりとりしていると緊張もほぐれてくる。
「あのさ。俺は別に今すぐ答えがほしいとかじゃないから」
「うん。それで、暁翔に言われたこととか、今までのこと思い返して思ったんだけど、私―」
その時、目の前に暁翔の手がパッと出された。
「ちょ、待って!今すぐじゃなくていいって言ったよね?」
「うん。だから…」
「あ! お試しとかどう? よく言うじゃん?」
「まあ、聞くけど…」
「とりあえず一ヶ月! いや、二週間でも…」
「いや、だから…」
「わかった一週間でいいから!」
「落ち着け」
「…はい」
「だから、そうじゃなくて、よく考えたら鈍感どころの話じゃなかったって言うか……逆に失礼だったなって」
「………え?今さら?」
「…まあ、今さらなんだけど、それは…」
「お姉さんが原因なんでしょ?」
「知ってたの?」
「ご飯の時に教えてもらった」
(そっか…それであの時…。ん?ということは、二人は話しただけで分かったってこと? さらに申し訳ない…)
自分がよりヤバいということを再確認して、軽く落ち込んだ。
「聞いたけど、あの時は言っても無理ってわかってたから言わなかった」
「…」
「それで?涼子は俺の気持ち知ってどうしたいの?
すぐに答えがほしい訳じゃないけど、もし……もし涼子の中で何かが決まってるんだったら、俺は受け止める」
さっきより少し真剣な顔の暁翔に、一呼吸置いて考えたことを話す。
「気持ちは十分伝わってきました。ありがとうございます。
恥ずかしかったけど嬉しかったし、暁翔のこと嫌いでもない。でも、好きってのも分かんなくて、
とりあえず付き合えばって思うかもしれないけど、それは何か違う気もするし…
だから、そうなりたいのか考えて向き合いたい。…な、と」
「まじめ」
(うん。自分でも考えながら、こいつ頭堅いなぁと思った。
でも、真剣な思いに対して勢いとか、とりあえずってのは性格的にできないし…)
「自分でも思う。でも、それで嫌だなと思われたら、それは仕方ない。気持ちに絶対はないから」
―暁翔Side
やっと向き合ってくれる気になったのに、今さらそんなことで嫌になるわけがない。ていうか、そういうところも好きだし。
ホント、まじめというか…何ていうか…
それに一言も「冗談でしょ」とか「無理だから」とは言わなかった。ちゃんと考えてくれてる。
「それで…期限(?)ってのも、あれだけど、決めた方がいいよね?」
「(期限か……それなら)バレンタイン! それまでに絶対オトす。今まで以上に遠慮しないから」
「…了解。覚悟しておきます」
恥ずかしかったのか、目を隠して下を向く涼子の耳は真っ赤だった。
「…じゃ、そろそろ乗ろうか」
車に乗るタイミングが掴めず、ついそのまま外で話をしてしまった。
正直、全身に熱を感じていたから寒さなんて気にならなかった。
「だね。自分が熱くて気付かなかった」
そう言って笑う顔を見ると、またじんわり温かくなり自然と笑顔になれた。
「そうだ。寒くなったらこれ使って」
「ありがと。ブランケット持ってるって意外」
その通り。今まで持ってなかった。
でも今日は、もしかしたら涼子とドライブ出来るかもしれないと思って、買っておいた。
「それは涼子のために買ったから。ポイント上がった?」
「…ありがとうございます」
顔を隠すようにブランケットを頭から被った涼子は、めっちゃ可愛かった。
―俺が自分から人に何かを買うなんて初めてだよ。




