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ドン・グルーの秘策

ドンは、人一倍に欲深い男だ。

彼は今回の功績を独り占めしたいと考えていた。


というのも彼にとって、このイベントには思い入れがある。


仲の良かった先輩のユーリが『英雄』イベントMVPに選ばれ、

ヒト世界の支部長に大抜擢されたのだ。


これまで机を並べていた中級のユーリが、雲の上の存在になった

シンデレラストーリーは彼を大いに触発した。


ドンは先輩が出世してから500年間、

ひたすらチャンスが来くる事だけを考え、

神界が盛り上がる作戦を練り続けた。


そして、ある1つの秘策にたどりついたのである。



かつて眷族が生まれる遥か前、ヒトがアトランティスに足を踏み入れ、

全能の神ゼノンの怒りに触れたことがある。


ドンは、神様が当時を懐かしそうに話しているのを何度となく耳にした。


彼ら神様は、この時の話が好きなのだろうか、

いずれの神も笑顔で話すのである。


「神聖なる神の世界がヒトに汚されたのに、何が嬉しいのだろう?」


ドンは不思議に思った。


しかし、神様達が楽しそうに語るのには訳があったのである。


永遠の命と絶対的な力を持つ神は、自分の存在が脅かされることはない。

彼らにとって恐怖や緊張感は不思議な魅力を持っているのだ。


そこで、ドンはひらめいた。


「これは英雄イベントに使える!」



しかし、ヒトに神界を攻めるのは恐れ多い。

少なくとも立案者の自分が神に処罰される。


「それなら、アールブヘイムを攻めさせたらどうか?


 ヒトがアールブヘイムに攻め込んだことなど、歴史上一度もない。

 これは確実にヒットするぞ。」


ドンはこともあろうか、英雄に自分の世界を攻めさせるという

禁断の秘策を作り出したのだ。



ただ、今回この秘策を実行するとして、

今の英雄ロトではアールブヘイムの軍とまともに戦えない。


力をつけさせなければ、3つの眷族が絶妙なチームワークで

作り上げてきた英雄物語も一瞬で終わってしまう。



そこで、ドンはアーティファクトの1つ、

『炎のリング』をドロップアイテムに紛れ込ませ

自然の流れでロトが手に入れるようにした。


さらに仕上げとして、彼は英雄側に予言者を潜り込ませ、

このような予言を繰り返させた。


『全ての争いの原因は、「悪の権化」アーベルヘイムにある。

 彼らを潰さなければ真なる平和は来ないだろう。』


この噂はヒト世界で瞬く間に広がった。



結果、ヒト族で起こっていた戦争は全て終息し、

悪の権化を倒すため、ロトを旗頭に連合軍が結成された。


そして100万人の兵がアーベルヘイムを目指して侵攻を始めたのである。



『ドン・グルーは狂ったのか?』


眷族達は、ドンの狂気を一斉に非難した。


この時、ドンは3つの禁足を破っている。

1つは、アーベルヘイムの存在をヒトに教えた事。

2つ目は、そのアーベルヘイムにヒトを攻めさせた事。

そして最後は、人口の調整をすべき担当眷族が、

ヒト同士の争いを止めさせてしまった事だ。



しかし、意外なことにドンの作戦は、

当初から一部の神々から支持を集め、

徐々に神界で人気が高まり始めたのである。


まさにドンが狙った通りのシナリオ通りだ。



「ねぇ、クレアどう思う?」


「ドンくんでしょ。今回はやりすぎよ。


 確かに一部の神様たちの間では受けているけど、

 ゼノン様は、相当お怒りと聞いているわ。


 このままではインスペクターの神、エマ様にもお叱りがあるかもね」


「そうなったらドンの奴、生きてないな」


「知らないわよ、あんな奴。伝習所の時代から、

 ズルばかりして来たんだから、そろそろ天罰が下るべきよ」


ここはイングラシアのガーディアン支部。

支部長マリーと死神支部長クレアが、

ドンの勝手な裏切りの行動に対する対策会議をおこなっていた。


彼女たちの執事がティーカップをテーブルに運ぶと、

クレアがカップをつまみながら、口を尖らせた。


「インスペクターは人材不足だからな。あんな奴でも使うしかないんだよ」


マリーも執事に会釈をしてカップに手を伸ばす。

表情は神妙な顔つきだ。


「もしフレッダ様がいたら、ドンの奴、タダじゃ済まされないわね」


「曲ったことが大嫌いらしいからな。

 そのフレッダ様は、噂ではミア様の家に引きこもっているらしいぜ」


「私も聞いたことがあるわ。

 それにしてもミア様が引きこもって、もう10,000年以上ね。

 2人は、部屋の中でいったい何をしているのかしら?」



俺はここで本を置いた。


江良の奴、10,000年もヒッキーしていたのか。

どうせ部屋の中では、お菓子を食べてゲームか何かをやっていたに違いない。


フレッダも、ダラダラするのが好きそうだし、

2人が部屋でゴロゴロしている姿が容易に想像できる。


奴らのマイペースぶりは、今も変わっていない。


おっと、いかん。

あいつらのことは、どうでも良い。


今は、ヒントを探さなければ。

俺は、ユラのクッキーを口に入れると再び本に視線を移した。




ガーディアン支部のモニターには、

ヒトの連合軍がアーベルヘイムの入口に差し掛かっているところが

映し出されていた。


「いよいよだな。ここでヒトの数を効率的に減らせるように、

 念のため、うちのソウルイーターをスタンバイさせている。


 ドンのせいで、ヒト世界にいたソウルイーターを移動させたんで

 こっちは大迷惑だよ」


「本当ならヒト同士を戦わせるのが一番効率的ですものね。

 うちの場合は、ヒトのサポートをしながら戦火を広げる役目だから

 ドンのせいで仕事がなくなったわ」


「今回は、マリーのところのガーディアンが一番迷惑を被ったよな」


「そうね。だから、ちょっと悪戯をしかけたやったわ。」


「何をやったんだ?お前、悪い顔をしているぞ」


「あら、そうかしら? うふふふ」



アーベルヘイムの入口は、氷の大陸に作られた巨大な門である。


かつては神界とヒト世界をつないでいたが、今はアーベルヘイムと

つながっている。


当初100万人で出発した連合軍だったが、

長い船旅と、マイナス20度の中で、既に1割を失っていた。


それでもまだ90万人の大軍隊である。

先頭が、巨大な門の前にたどりつくと、

そこには1000人の戦士と2体の巨人が待ち構えていた。


「なんてデカい巨人だ、あれじゃ槍が届かない。弓だって無理だ。

 あんな奴と戦えるわけがない」

「後ろの奴らも見ろよ、あれはヒトじゃない化け物だ」


連合軍の兵士たちは誰もが恐怖のため後ずさりした。


それでも、ロトが幹部と共に前線を馬で駆け回り、

鼓舞していくと、震えが止まり、不思議と勇気が湧いてきた。


皆、死ぬ覚悟ができたようだ。



ドンの作戦では、まずここで9割の兵士を削る予定だった。

相手はゴーレムと初級眷族達だ。


まず、ヒトでは敵わない。

簡単に勝ちすぎると、ドラマがなさすぎる。

そこで9割の兵士を削ったら自然と自滅する形で退却するように命令しておいた。



しかし、ここで誤算が生じた。

ゴーレムが2体とも壊され、1000人の戦士が敗れてしまったのだ。


ヒト連合軍は、20万人しか削れず、まだ70万人残っている。


「初級眷族1000人の戦士が敗れたのか?

 何かの間違いではないのか?」


インスペクター司令部で、ドン・グルーが叫んだ。

刺激的なストーリーを演出するとしても、70万人は多すぎる。


ドンの想定はあくまでも10万人以下の兵士が、

アーベルヘイムへ攻め込んでくる計画だ。


それ以上が攻めてくると、想定外の田畑や住居が壊され、

眷族達からのクレームがインスペクターに殺到してしまう。



ドンは急いで、中級眷族の部下たちを集めた。


「作戦は変更です。ヒトの連合軍を1万人まで減らしなさい。

 そして、ここアーベルヘイムのインスペクター支部を

 最後の舞台としてドラマを作り上げるのです。」


「かしこまりました。

 ただ、我々中級が相手をすると、一瞬で終わってしまいますが…」


「初級が敗れたので仕方ありません。

 ロトが出てきたら、適当に負けてあげて、場を盛り上げるように。

 一番盛り上げてくれた眷族には、次の人事査定で500点を加算しましょう」


「「「 おーーーー! 」」」


 人事査定の話が出ると、眷族達は一気に盛り上がった。

 出世したいと考えているのは、ドンだけだはないのだ。


「それで、どれくらい奴らを削れば良いのですか?」


「そうですね。貴方たちならたやすいと思いますが

 ヒト族の連合軍を1万人まで減らしてください」


そういうと、ドンは支部長室へ入っていった。


「何が戦場で起こっているというのだ。

 ヒトが初級眷族の部隊を全滅させたなんて聞いたことがないぞ」


ドンはコーヒーを飲み干すと、独り言をつぶやきながら

ベッドに倒れ込み、いつの間にか熟睡していた。


気が付くと日が暮れていた。

午前中に中級部隊が出発しているので、もう結果が出ているだろう。


中級部隊が功を焦って、全滅させていないか?だけが心配だった。


しかしその夜、意外な報告がもたらされた。



「な、なにーーー。中級眷族の部隊が敗走しただと?」

「何かの間違いではないのか?」


ドンは食事中で、持っていたナイフを落としてしまった。

報告者の詳しい話を聞くと、中級部隊は連合軍とぶつかる前に、

奇襲を受けたのだそうだ。


しかも、味方が倒れていく中で相手の姿は見えなかったという。


「エーテル感知はできなかったのか?」


「ヒトがエーテルを使う訳がないと思いましたが、

 侵入者を防ぐためにエーテル感知は張り巡らせていたようです」


(エーテル感知にかからない。

 まさか、時間を止めるスキルを持った者が敵にいるのではないか?)


ドンは、その仮説を考えたが、ヒトがそんなスキルを持っているはずがない。

では、いったい何故、敵がいない中で兵士たちは倒されたのか?


次はここに攻めてくる。

ドンは何かにとりつかれたかのように、フラフラと部屋をさまよった。



今回、英雄の連合軍が、ことごとくドンの奇策の裏をつき、

初級、中級の眷族を破ってきた裏には、1人の軍師の存在があった。


軍師の名前は真田といった。

゜*。,。*゜*。,。*゜*。,。*゜*。,


今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。


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