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カレンの一番長い日

「 開始! 」

二本目の開始だ。


『今度もきっと良い試合になるだろう。』

と、誰もがカレンの健闘に期待した。


<<  ガシャーン  >>


しかし、次の瞬間、期待は打ち砕かれた。

開始早々、カレンが剣を投げ捨ててしまったのだ。


そして、両手を広げて舞を踊り始める。


「降参したのか?」

「いや、何かを仕掛けるつもりだ」


観衆がざわつく。


葵も、何が始まるのか、と警戒を崩さない。


カレンが舞を舞いながら、くるりと回ると、

動きに合わせて剣が飛び出し、葵を襲った。


葵は天性の才能で、ギリギリで打撃を防いだが、

剣筋が全く見えない。こんなことは初めてだ。


2回転、3回転、カレンのスピードが上がってくる。


スピードを増す見えない剣。

葵のおすまし顔は真剣な顔つきに変わった。



この舞剣は、カレンが初級伝習所で学んだ飛び道具が基礎になっている。

まさか飛び道具と剣をミックスして武器にするなんて、前例がない。


それだけに葵が戸惑っているのである。


カレンの努力が生み出した奇跡が、この舞剣である。

しかし、葵もただの天才少女ではない。


カレンの舞剣を一撃もヒットさせていないのだ。

それどころか、じわじわと盛り返し始めている。


「そろそろかしら?」


「え?」


カレンの呼吸が変わった。

正確に言うと、呼吸のタイミング、長さが、プログラムされたかのように

正確なリズムで刻まれはじめた。


葵も何かを察したのか、一歩下がって待つ。


カレンが再び舞う。

今度は、剣が飛んでくる合間に、火、雷、氷の

エーテルが隙間なく葵を襲い始めた。


これはさすがに防げない。

葵なら1つ属性のエーテルに対応するのは可能だが、

連続で剣をよけながら多数の属性に対応するのは無理だ。

時間がない。



【あたし、まける】


葵の脳裏に「負け」の文字が浮かんだ。


炎、氷の属性攻撃までは上手によけられた。

しかし、風と雷が混ざり始め、対応しきれなくなった。


ついに、剣が弾き飛ばされて、葵は尻餅をつく。


「1本、それまで」


茫然と上空をながめる葵。

審判の声で、やっと我を取り戻した。



【この人は、強い】


天才といえど、心はまだ子供である。

葵は恐怖を覚え、剣を持つ手が震えた。


【怖い、でもイデア様の前では逃げられない】


葵は立ち上がり、再び剣を構える。

そして、尊敬と畏怖の念を持ちカレンを見た。


しかし、そこには誰も立っていなかった。


カレンは闘技場の隅で、まだ倒れたままなのだ。


10秒経っても立ち上げる気配がない。

審判員が集まって協議を始める。


「1本、合わせて2本、三条葵の勝ち」


審判の声を聞いて、葵は座り込んでしまった。


歓声が鳴りやまない。


しかし、この声の全ては、カレンに向けられたものだ。

葵はゆっくりと闘技場を後にした。



「葵ちゃん」


「イデア様、あたし、」


「いいのよ、貴方も良い経験になりましたね。

 貴方はもっと、強くなれるわ。

 私、そう確信しましたの。」


「ありがたき幸せにございます」


「さぁ、アトランティスへ帰りましょう」


2人は、イデアの瞬間移動でその場から消え去った。



「カレン様、がんばりましたね」


目が覚めるとそこは闘技場の保健室だった。

大勢のソウルイーターが、心配で駆けつけている。


「ありがとう、貴方たち」


「カレン様、お疲れさまでした」


ソウルイーターたちは、カレンが目を覚ましたので

喜びの声を挙げた。


「あの方が、先ほどまでここにいらっしゃって、

 これをカレン様に渡すように、おっしゃられました」


「ヴィオラ様が、ここに?」


「はい。カレン様から勇気をもらったと

 とても喜んでおられました。」


カレンの目から大粒の涙が流れ始める。

ソウルイーターの1人がハンカチを渡した。


( 自分の努力は間違えていなかった )


カレンは生まれて初めて、充実した幸せな気持ちに包まれていた。

そして、ヴィオラから渡された手紙を読み始める。



カレンちゃん、おめでとう。

あなたを上級眷族伝習所への入所を認めます。


これまで以上の努力に期待していますね。



カレンから嗚咽が聞こえ、更に大粒の涙がこぼれる。

ソウルイーターたちが、どうすれば良いのか分からず、

うろうろしている。


ページには、その時の集合写真が掲載されていた。

カレンはソウルイーターに囲まれて、真っ赤な眼、しかし顔は笑顔だった。



カレン、なんて健気で、良い奴なんだ。

俺は感動して、少しだけもらい泣きをしている。


「あら、やっぱりヒカルくんも感動しちゃった?」


「はい。感動しました。」


「そうよね。そのシーンを読んでケタケタ笑うのはミアだけよ。」


「どこに笑う要素があるのですか?」


「たぶんヴィオラが感動的な手紙を書いたところがウケたのね。

 彼女、そういうキャラじゃないから。でも大声で笑うほどじゃないわよね。」


「神ですら、江良の感性についていけないのでしょうか?」


「まあね。こればかりは神もヒトも関係ないわ。」



俺は、第二部を読み始めた。

ここからはカレンのエーテル技術論だ。


彼女の技術論は、他の眷族と根本的に基礎が違う。


眷族は、生まれつきエーテルが使えるので感覚でコツを知っている。

しかし、カレンはそれができなかった。


そのため彼女は、

1つ1つの詠唱を数式やプログラム法則に当てはめた。


他の眷族が炎のエーテルを語る時、

『こんな感じで、ばーっと炎を出す』というところを、


カレンの場合は、

『酸素を20平方センチの立方体に凝縮し、300度の熱を送る。』

『ファイアーボールにするには、軌道空間に直線を描き、

 そこにヘリウムを並べ、炎を通す』となる。


全てが具体的、科学的、数学的なのだ。

以下、カレンの書物から引用する。



エーテルとは、魂から放たれるエネルギー。


通常はそれだけでも使えるが、精神力、気象状況、

アーティファクトを用いると威力が数倍にも膨れ上がる。


私カレン手島は、さらに呼吸法を使うことによって

技にキレが増すことを突き止めた。


眷族は強力な技を使う時、決まって詠唱を用いる。

これは詠唱時の呼吸が技に影響し、技を生み、切れを作っている。


ただし、極大魔法を打ち出す時には、声の音色も影響するため

詠唱が必要だが、通常の必殺技レベルならば、呼吸法だけで充分らしい。


つまり、詠唱はいらないのだ。

葵とのバトルでカレンが使ったのは、これだ。



「ふっふっふー、ふっふ」


俺はカレンの本を読みながら呼吸法を真似してみた。


<<<  シャッキーン  >>>


「ふっふー、ふっふ」


<<<  ボッ  >>>


「こりゃ便利だ」


氷のエーテル魔術と炎のエーテル魔術が

詠唱なく簡単に作り出された。


俺は、これまで適当ではあるが、なんらかの詠唱をしていた。

それが呼吸詠唱法を使うと、連続で打ち出せるほか、技にキレまでついてくる。



「ヒカルくん、それは呼吸詠唱法ね」


「はい。ちょっと実験中です」


「すごいわね。キミは簡単にできちゃうのね」


「いえいえ、誰でもできるんじゃないですか?」


「そうかもしれない。ただし、それは神の話です。

 ヒカルくんのエーテル量、どれだけあるの?」


「図ったことがないので、知りません」


「そう。わかったわ」


ユラはニコリと笑い、エーテル通信機の方へ走って行った。


「ちょっとーミア―、聞いてよ」



ユラがいると何かと実験がしにくい。

今のうちに本を読み進めよう。



カレンの本の最終章に【 まだ見ぬ未知のエーテル 】として、

”再生”能力を秘めたエーテル技が記されていた。


これは、『タイムリープとエーテルを組み合わせることで、

再生能力が作れるはずだ』という研究結果だ。


しかし、カレンはタイムリープができない。

仮説は作れても実験できない悔しさが文面からにじみ出ている。


”再生”と治癒の違いは、治癒が身体を治すことに対して、

”再生”は、全ての現象を元通りにしてしまう。


例えば、腕を切り落とされた兵士がいたとする。

治癒魔術では腕の治癒まで行えるが、

トラウマになった心、敗れた服までは直せない。


しかし、”再生”は「全てがなかったこと」にしてしまう。


魔術が作動すると、まず、24時間以内の兵士の身体や服、

心の状態がデータとして読み取られる。


その語、ベストコンディション状態を自動で探し出し、

その状態を傷ついた兵士に上書きする。


これにより戦闘前の身体、服、鎧が再現されるのだ。

それはあたかも治癒されたかのようにも見える。


再生対象は、身体だけでなく、建物、自然、何でもだ。

まさに神の技。


この技はゼノンのみが使う幻の魔術らしい。

タイムリープ能力が必要なので、ユラの前では実験ができない。


しかし、今、ユラは江良に通信中だ。

実験のチャンスなのだ。



俺は鉛筆を2つに折って、それにエーテルを降り注いだ。

本に書いてあるようにタイムリープの力も込めてみた。


ジワジワと鉛筆が再生し始める。

これは、すごい。


今までで一番すごい技じゃないか?


「ちょっと、ヒカルくん、それって?」


ユラがいつのまにか後ろに立っていた。



( やばい、見られた。 )


「いや、ちょっと実験を」


「実験って、それ”再生”じゃないの!」

「本当にキミって子は」


このままではタイムリープ能力がバレるのは時間の問題だ。


「そう。ますます面白いわね。

 今から、キミの能力を調べさせてもらうわ。」

「大丈夫、今、ミアからのOKもらってるから。」


そういうと、研究者の顔になったユラが

紫色のブローチを出して、俺の左胸に付けた。

゜*。,。*゜*。,。*゜*。,。*゜*。,


今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。


カレンさん、今回は良いキャラを見せてくれました。

ちょっとほのぼの会となりました。


次回は研究大好き司書のユラにヒカルが、

1つずつ秘密のベールをはがされていきます。 ( ;∀;)


この小説にも「ブクマ」や「いいね」が付き始めました。ありがとうございます。

(けろけろ)の執筆のモチベーションが3つ上がりました。


少しでも面白いと感じていただけたら、

↓下の方にある「☆☆☆☆☆」や「ブクマ」をしてあげてくださいね。

(けろけろ)のモチベがあがると、キーボードが軽やかになります。(*'ω'*)

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