カレンの「譲れない夢」
次に俺が手にした本は、エーテルの学術書『エーテルと私』。
筆者は、あの【カレン手島】だった。
本が書かれたのは、『 BC12000 』とある。
あいつも1万年以上、生きているのか?
古今東西、頭の良いオタクに本を書かせると、
ものすごく長くなる。
この本もカレンが、あのインテリメガネを光らせながら、
嬉々としてペンを走らせたのだろう。
おかげで、分厚くて持ちにくいし、重い。
同人誌までとは言わないが、もう少し薄くしてくれよ。
俺は、この場にいない筆者にクレームをぶつけながら
分厚い本のページをめくる。
前半は彼女がエーテルを取得するまでの半生記が描かれていた。
◇◆◇◇
カレンは上級眷族の家に生まれた。
しかし、生まれながらにエーテルが少なく、家族は心配した。
眷族は皆、エーテルのセンスに秀でており、
得意な属性に関しては、3歳から使えるようになる。
しかし、カレンは6歳になってもエーテルが使えない。
親が上級眷族でありながら、エーテルが使えないため、
カレンは周囲から【落ちこぼれ】のレッテルを貼られた。
実というとカレンは、エーテル魔術より剣の方が好きだった。
こちらはセンスがあった。
しかし、彼女にはどうしても眷属になりたい事情があったのだ。
それは、憧れの【あの方】に会うためだ。
【あの方】とは、
たった1人で神界の軍隊を打ち破り、全能の神を負かせた女神だ。
憧れの女神は今、ヒトの世界にいる。
そこへ行くためには、眷属の中でもエリートになり、
派遣されなければならない。
そのためにも眷属になるため、まずはエーテルが必要なのだ。
少女カレンは、どんなに辛くても、夢を叶える計画を諦めなかった。
やがて、カレンはソウルイーターが通う
『初級眷族伝習所』に入学する。
他の眷族の子は、最初から『中級眷族伝習所』へ入る。
しかし、彼女は試験すら受けさせてもらえなかったのだ。
「カレンよ、そなたに眷族は向いていない。
勉強ができるのだから、事務官の道に進んでも良いのではないか?」
「お父様、お恥ずかしい思いをさせて申し訳ございません。
私は『あの方』にお会いする夢を持っています。
どうか、もう少しだけ目をつむってくださいませ。」
眷族の子がソウルイーターに混ざり初級の伝習所へ通うのは異例中の異例だ。
「手島さんのところのカレンちゃん、初級伝習所に入ったんですって?」
周りが、カレンを噂する。
しかし、カレンはソウルイーターとも仲良くなり、
共にエーテルを錬磨するのだった。
◇◆◇◇
「あら、今度はカレンちゃんの本ね。
あの子は頑張り屋さんだから、きっと参考になるわ。」
「カレンさんのこともご存じなんですね。」
「死神のヴィオラと私は、幼馴染なの。
だからカレンちゃんのことは、よく聞いてるわ。」
「まだ、最初しか読んでいませんが、
小さい頃から苦労していたんですね。」
「そうよ。だから下々の気持ちがよく分かるのね。
いま、こちらにいるソウルイーターは、
みんなカレンちゃんの学友ばかりなのよ。」
あの中身おっさんの“天使もどき”が、カレンの友達なのか。
確かにカレンは面倒見が良さそうだよな。
頑張り屋カレンは、その後、首席で初級伝習所を卒業。
中級伝習所へ入り、やる気に満ち溢れていた。
しかし、
「あの子よ、初級から来た子」
「なんで、こっちに来るんだよ。
ソウルイーターと遊んでいれば良いのに。」
初級伝習所から来たカレンは、異質なものを見られるように
他の生徒たちから、いじめられた。
カレンは、子供の頃から
自分の長所を『真面目さ』と『努力』しかない、と割り切っていた。
だから他人の陰口は気にならない。
ただひたすら、勉強と剣の技を磨いていった。
その甲斐あって2回生になると、
勉強では常にTOP、戦闘では5位にまで上り詰める。
その2回生の秋、1つのイベントが開催された。
このイベントが、カレンの人生を大きく変えていくことになる。
イベントとは、
死神、ガーディアン、インスペクターの3眷族による他流試合。
毎年、生徒たちの実力を測るため行われている。
今年は、ガーディアンが死神の伝習所にやってきた。
そして、これまで例がないことだが、
【死神ヴィオラ】と【ガーディアン神イデア】が観覧した。
噂によると天才少女の試合を見に来たようだ。
ガーディアンの天才少女の話は、カレンも聞いたことがある。
僅か5歳にして、中級魔術を全てマスター。
今年7歳からは、アトランティスのイデアの元で
直接エーテル指導を受けている天才中の天才だ。
今年から、中級を飛び越え上級伝習所へ編入が決まっているが、
その前にお披露目を兼ねて、特別参加となったらしい。
負けず嫌いのヴィオラは、その天才少女に嫉妬した。
そして、隣に座って自分を見下しているイデアを凹ませるため、
中級同士の他流試合に上級伝習所の生徒を紛れ込ませた。
◇◆◇◇
「うわ、汚ねー。7歳の児童相手に上級を忍び込ませるかよ」
ついつい、本を読んでいた俺は、言葉にしてしまった。
「ヒカルくん、他流試合のページまで読んだのね。
そこにも書いてあるけど、ヴィオラは負けず嫌いよね。
あの子、イデアにはライバル心持ってたから仕方ないわ。」
「そんなに三条葵って強かったんですか?
あれ?三条? この子って三条茜の姉妹ですか?」
「そうよ、葵ちゃんは茜ちゃんのお姉さんよ。
三条姉妹は今やガーディアンのエースだけど、
葵ちゃんは生まれた時からエーテルが飛びぬけていて、
神界でも有名だったわ。」
「生まれた時から、神が噂するエーテルって、
どんだけすごいんですか?」
「エーテル量だけでいったら、もう1人、
生まれた時から神の領域を超えた子供がいたけど、
葵ちゃんの場合は、エーテルバランスも飛びぬけていたの。」
「エーテルにバランスってあるんですか?」
「いま、ヒカルくん、どれくらい属性を使える?」
「火、氷、水、風、光、音、じ…。これぐらいです」
やばいやばい。あやうく時間属性もあるというところだった。
「まぁ本当? それだけ使えるのは上級眷族ぐらいよ?」
「江良は『あんたならそんなもんね』と言ってますので
量の方は大したことはないかと」
「エーテルバランスが良いと、属性を広げやすいのよ。
属性が多いと戦いの幅が広がるわ。」
「なるほど、そういうことですか」
ユラは、江良にエーテル通信を開いて
『ヒカルくんの情報間違ってるじゃないの』と文句を言い始めた。
俺は再び、カレンの本に目を移す。
◇◆◇◇
【死神伝習所VSガーディアン伝習所】の試合が始まった。
試合は死神伝習所の一方的なものとなった。
上級伝習所の生徒が入っているのだから、当たり前である。
10人対10人の勝ち抜き戦は、いきなり上級眷族のチート炸裂で、
あと1人で死神側の完全勝利になった。
「申し訳ないけど、今回はうちの勝ちね。」
「貴方らしいやり方ね。」
「何がよ?」
「いえ、何でもないわ。
うちの葵ちゃんを、たった10人で倒せるかしら?」
ついに三条葵の登場だ。
青い子熊のカチューシャをした小さい子供が闘技場に現れた。
「おお、かわいい」
「あれが天才少女か」
「あんなチビなんか楽勝だ」
いろんな声が会場でこだまする。
まるで、大人と子供の試合だ。いや相手は子供だ。
「はじめ!」
声が会場に響いたと思ったら、相手が倒れている。
そして、葵がぴょこんと、頭を下げて挨拶をする。
「・・・」
誰も声が出ない。
というよりも、何が起こったのか分からない。
「三条葵、これほどまでとは」
「おーほっほっほっほ」
悔しがるヴィオラの横で高笑いをするイデア。
よほど嬉しかったのか、紅茶をこぼしてしまった。
死神伝習所は、最初の5人が上級伝習所の生徒。
あとは、中級の上位5人を順番に入れただけだ。
もう、目の前で5人目の選手が倒されたので、
中級しか残っていない。
負けだ。。。中級では怪我をしてしまう、ヴィオラは棄権を考えた。
しかし、選手の中で1人だけ、目を輝かせて葵を見ている選手がいた。
(あの子だけ、経験を積ませてあげましょう)
ヴィオラが手を挙げて、次にカレンが出るように指示を出した。
会場がざわめいた。
「上級眷族でもかなわないのに、初級からきたあの子よ」
「絶対に無理」
「ヴィオラ様に恥をかかせるなよ」
殆どが、カレンに対する悪口だ。
しかし、葵に集中しているカレンには聞こえない。
「すごい集中力ね」
高笑いしていたイデアが、カレンを見て目を見張った。
「あの子は才能がない分、努力家なの。
今は勝てないけど、きっと良い経験になるはずよ」
選手の2人が静かに構える。
「はじめ」
<< シャキーン >>
今日初めて、葵の最初の剣が防がれた音だ。
メガネの奥で、カレンの目が光る。
次にカレンが打ち込むが、簡単に葵がかわす。
これまで、上級伝習所の生徒が瞬殺されてきたのに、
初級から来たメガネの少女がまともに戦っている。
途端に死神伝習所側の応援団から歓声が飛んだ。
カレンは葵の3の太刀、4の太刀も防いでいく。
「頑張ったわね。でも、ここまでかしら。」
ヴィオラがささやく。
葵は汗一つかいていない。
一方、カレンは集中力を持続するため肩で息をしている。
そして、葵の竜巻と雷を合わせた、サンダーストームが決まった。
10メートルは吹き飛んだだろう。カレンは傷だらけだ。
しかし、勝負は2本先取だから、まだ1本ある。
「ヴィオラ、あの子まだやるみたいよ。
止めさせないと大怪我をするわ」
ヴィオラは迷っていた。
やはり無理だ。
ここまでやったのだから、あの子は十分に経験を積んだ。
しかし、カレンの瞳からは闘志が消えていない。
葵もそれを感じているので、構えを止めない。
そして、2本目が始まった。
<< カシャーン >>
開始と同時に、カレンが剣を投げ捨てる。
対戦者の葵も、会場も、2人の神も、
カレンの意外な行動に、驚愕し声一つなかった。
゜*。,。*゜*。,。*゜*。,。*゜*。,
今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。
天才少女VS努力家少女 の戦いはまだ続きます。
カレンの夢を乗せた攻撃は、天才少女に届くのでしょうか?
この小説にも「ブクマ」や「いいね」が付き始めました。ありがとうございます。
(けろけろ)の執筆のモチベーションが3つ上がりました。
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