フレッダと2人きりの小旅行
「おーい、ヒカル―、おーい」
朝早くから、誰かが、家の外で呼んでいる。
今日は土曜日だ、あっちゃんは迎えに来ないはずだ。
それに、これは女の子の声。
きっと、別の家のヒカルくんだろう。
「「 おーい、ヒカル―、あーそーぼー 」」
さっきより、一段と声が大きくなった。
うちの前で呼んでいる。
つまりヒカルとは、俺のことらしい。
「お兄ちゃん、外人のお友達が遊びに来たわよ」
妹がノックもせずに部屋に飛び込んできた。
「外人?」
「うん、外人の女の子」
( 誰だ?見当がつかない )
とりあえず、服を着替えて玄関に出ることにした。
玄関では、俺の母親が、しゃがんで楽しそうに話している。
「あなたフレッダちゃんって言うんだー」
「そうなのだ。あたしはヒカルの友達、フレッダなのだ」
「「「 なに、フレッダ? 」」」
なんでインスペクターの幹部がうちを知っているんだよ?
「よ、よお」
「よお、なのだ。ヒカル。
今日は遊びに来てやったぞ」
突然、早朝から人の家に凸ってきたわりに、
相変わらず態度が大きい。
「フレッダちゃん、朝ごはんまだでしょ。
一緒に食べていきなさい。」
「ママさん、ありがとうなのだ。」
「「「 なんでフレッダが、うちで食べるんだ? 」」」
「いいじゃないのヒカル、可愛んだから!
ねー、フレッダちゃん。いっぱい食べてね」
「わかった、いっぱい食べるのだ」
初対面なのに、いつの間にか
うちの母が、フレッダと仲良くなっていた。
妹も年の近い姉ができたようにフレッダになついている。
父に至っては娘が1人増えたようで、鼻の下が伸びっぱなしだ。
こいつ、うちの家族を精神支配で乗っ取る気か?
「ごちそうさまなのだ。じゃ、ヒカル出かけるぞ」
フレッダは朝ごはんを平らげると、
そそくさと席を立って俺の腕を引っ張った。
「ヒカル、時間がない。急ぐのだ」
「あら、フレッダちゃん、もう帰っちゃうの?
ヒカル、あまり遠くに連れて行っちゃだめよ」
( いやいや、俺が連れ去らわれるんですけど… )
「ママさん、ご馳走様なのだ。また来ても良いか?」
「待ってるわよ。ねぇ、お父さん。」
「うむ。」
( また来る気か? それにしても父よ
いつからそんなに無口になったんだ。 )
俺はそのままフレッダに引っ張られて外に出た。
外は朝から快晴だ。今日も5月の風が気持ち良い。
玄関を出ると、フレッダが右手を上げた。
タクシーでも捕まえるのだろうか?
すると、レールもないのに、
2両編成の電車が「ガタンゴトン」と現れて、
うちの前でゆっくりと止まった。
あまりにも突拍子のない展開だ。
電車は、博物館で見たことがある路面電車ってやつだ。
扉があくと、フレッダは駆け足で乗り込み、
いち早く靴を脱いで窓側の席に座る。
「ヒカル早く、こっちへ来い。良い席が空いているぞ」
「わかったよ、でも、どこに行くんだよ」
「ひ・み・つ。
ミアお姉ちゃんにも許しをもらったのだ」
「江良が? そうか、わかったよ。」
江良は一応俺の加護者だ。
命の危険が及ぶような所へは連れていかないだろう。
それにしても、うちの玄関から電車に乗るなんて思わなかった。
ここから乗るのは、もちろん俺とフレッダだけだ。
俺が乗車すると、電車は扉を閉じて、ゆっくり動き出した。
車内は何人か先に乗っていたが、比較的すいていた。
切符は、予めフレッダが買っていたらしい。
電車はスピードを上げながらトンネルの中に入っていく。
入ったと思ったら、既に外が明るかった。
何かの装置で転送されたのだろう。
さっきまで近所にいたのに、もう目の前は銀世界だ。
まったく見たことがない風景が広がっている。
『ここはどこだ?』と
考える間もなく、電車は駅に滑り込んでいった。
ホームの向こうには、恐ろしく高い氷の壁が見える。
『本日は、ご乗車ありがとうございました。
終点ヘラクレス、ヘラクレス。
お忘れ物がないように、お願いいたします』
アナウンスが流れると、
フレッダは乗った時と同じく、駆けっこで降車していく。
( ここはどこだ?外国の駅か? )
電車を降りると、西洋風の顔ばかりだ。
駅構内のカフェも、おしゃれな造りである。
俺達乗客は改札の手前で、入国審査に誘導された。
フレッダはA級戦士なので、顔パス。
一方で俺は、ヒト族と分かり、係員から引き留められた。
検察官達が『ヒト族を通すには本国の確認が必要』と言い、
なかなか通してくれない。
「何故なのだ?事前にインスペクター本部から
届け出が出ているはずなのだ。」
普段ならキレるフレッダが我慢している。
どうやら彼ら検察官は神界の役人らしい。
フレッダでも、うかつに手を出せない。
だが、この幼女はキレたら何をするか分からない。
早めに手を打たないと面倒なことになりそうだ。
俺はこのピンチを脱すべく、ある知恵をフレッダに授けた。
フレッダは、俺に親指を立てて『やってやるのだ』と笑った。
「おい、検察官よ。」
「はっ、フレッダ様。
誠に申し訳ございませんが、例外は認められません。
もうしばらくお待ちください。」
「別にあたしは良いのだ。
だが、この者は、ミア様の加護を受けた者だ。
彼をここへ連れてくるように言われたのだが、
この状況を、あのお方が知ったらどう思われるかな?」
「へ? ミア様?」
「それでも、通せないと言うのか?」
「ミア様とは、まさか『戦闘狂の女神』ミア様ですか?」
「そうなのだ」
「お、お待ちください」
そういうと、監察官は全力で上司のところへ駆けていく。
代わりに上司が慌てふためき、俺の前に膝まづいた。
「も、申し訳ございません。
私どもの手違いでございました。
このままお通りくださいませ。」
「いえ、こちらもご迷惑をおかけしました」
何か大人に謝られると、恐縮してしまう。
もう1人の幼女は別らしい…満足顔だ。
「あのう…」
「どうしました?」
「ミア様も、こちらにいらっしゃるのでしょうか?」
「今日はあたし達だけなのだ」
ほっと、安堵する監察官たち。
乗客や係員の眷族たちも、江良の名前を聞いた時から
顔がこわばりながら、こちらの様子を見ていた。
彼らも同じように、江良が来ないことを知り、
安心した表情をしている。
( どんだけ江良は怖がられているんだよ )
「くれぐれもミア様には宜しくお伝えくださいませ」
深々とした礼に見送られて、俺達は駅を去った。
「ミアお姉ちゃんは、やっぱりすごい。
そして、お前の悪知恵もすごいのだ。」
先を歩くフレッダが振り向いて俺に話しかける。
「悪知恵と言うな。策略と言え。策略と。」
「本当にヒカルと一緒にいると、わくわくが止まらないのだ。」
駅を出ると、いきなり気温が下がった。
俺は、初夏の日本から来たのでシャツ一枚だ。
このままでは凍傷になる。
服を買うお金も持ってきていない。
俺は仕方なく、炎のエーテルで薄い膜を作って体を包み込んだ。
これは暖かいのだが温度調整が難しい。
フレッダもブラウス1枚だが、彼女は平気らしい。
その後、外を5分ほど歩いたが、表情が変わらない。
「お姉さまから、このツアーに参加するように言われているのだ。」
フレッダは駅前ビルの1つに入ると、財布を取り出した。
俺の知らないお金だ。
( 江良は、わざわざこんな国まで連れて来て、
何を見せようというんだ? )
駅の周りを見ても、相変わらず氷の壁しか視界に入らない。
ここが、どこなのか?すら全く見当がつかない。
ガイドの説明によると、
ツアーは、バスで移動するのではなく、
動物の形をした乗り物で移動するらしい。
乗り物は、昔の遊園地にあった動物のカートと同じだ。
右足のところにあるボタンを踏むと、前に進み、離すと止まる。
フレッダは、迷わずウサギのカートを選んだ。
他の客にも貸し出され、最後に残ったアヒルのカートが俺に渡された。
少し慣れるまでに時間がかかったが、
慣れると、これ以上運転しやすい乗り物はない。
◇
「この度は、ヘラクレスツアーに
ご参加いただき誠にありがとうございます」
「いま我々がいる場所は、ご存じの通り、ヘラクレス。
アーベルヘイムとヒトの世界の国境の街です。」
「アーベルヘイム、どこかで聞いたなぁ。」
「あたしや茜ちゃんの故郷がある世界なのだ。」
「…ってことは、ここは?」
「ヒト族の名称は、たしか”南極”なのだ」
「南極だって?」
てっきり俺は北欧の街にいるものだと思っていた。
とんでもない所まで連れてこられたんだ。
「ヒカル、わき見は危険だぞ。
みんな前に進んでいるのだ。
しっかりとついて来るんだぞ。」
「わかったよ」
わき見と言っても、遊園地のようなカートだ。
子供が運転しても安全安心なスピードしか出ない。
様々な動物が隊列を組んだ、我がキャラバンは、
ゆっくりと進み、やがて、氷の壁の真下に来た。
「こちらはご存じの通り、
全知全能の神、ゼノン様が作りなさった神界の壁でございます。」
「壁は、長さ、約5万キロ、高さは10キロメートルにも及びます。
この壁のお陰で、神界に対するヒトの侵入が不可能となりました。」
以前、三条から聞いた世界の理の話だ。
それにしても、氷の壁がこれほど巨大だとは思わなかった。
俺も氷のエーテルで、ある程度のことはできるが、
この高さだと、せいぜい100メートル作ったらエーテルが尽きるだろう。
その後、俺たちのカートは、氷の壁沿いに走り続ける。
すると、遠くに2つの影が見え始めた。
近づくと、その影は巨大な2体の巨人像だった。
その2つの間を、氷の川が静かに流れている。
「あれが、ヘラクレスの門です。
かつて、こちらの世界と神界の海をつないでいた門です。」
「ゼノンが氷壁を作った際、
2つの世界を結んでいた海が、ここで分断されました。
そして、アトランティスと呼ばれた土地は
氷の大陸とされ、新たに神界とアーベルヘイムが作られたのです。」
化学室で三条からアーベルヘイムの話を聞いた時には、
ピンとこなかったが、目の前で氷の壁を見せられると実感がわいてくる。
そして、ガイドはカートを止めて、こちらを振り返った。
「前回、ゼノン様がヒトの世界をリセットして
そろそろ1000年が経とうとしています。
早いもので、あと3年ですね」
乗客の中から、口笛や歓声が挙がった。
フレッダも、盛り上がっている。
「3年経ったら、
皆さまお楽しみ、1000年に一度のイベント、
ミレニアム祭です」
「きゃっほー、楽しみなのだ!」
「その前に、リセット前の大掃除。
皆さんの職場や学校では準備が進んでいますでしょうか?」
「次のリセットまで3年? 何のことだ?」
「ヒカルは知らないのか?
1000年ごとにヒトの世界をリセットするのだ。
そうしないとヒトが増えすぎて、災いを生むからな」
「そして、リセットが終わると1000年間の打ち上げ、ミレニアム祭をおこなうのだ」
それは、あと3年で、世界が滅ぶってこと?
フレッダも、ツアー参加者たちも、ミレニアム祭は
大晦日や正月のように楽しみな行事らしい。
何十万年と生きる神々や眷族にとって、
1000年に一度のリセットは、ただの年間行事だ。
江良の奴、あと3年でリセットが来ることを知らせるために
このツアーに参加させたのか?
でも、俺に何ができるというんだ?
俺は、横で喜んでいる、フレッダや眷族たちを
茫然と眺めることしかできなかった。
゜*。,。*゜*。,。*゜*。,。*゜*。,
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