【閑話】 茜の休日
カーテンの向こうから小鳥たちの
さえずりが聞こえてくる。朝が来たようだ。
(昨日の天野君は凄かった。)
私は昨日の天野君とカレンのバトルを思い出していた。
まだ、どうやって彼がカレンを倒したのか?分からない。
カレン自身も、理解していなかったようだ。
気が付いたら、背後から得意技を止められている、なんて
誰でもショックで戦意喪失になるだろう。
もしかしたら…、
彼は、私の時と同じ技を使ったのかもしれない。
昨日、私はガーディアン本部からの要請で、
死神様の眷族と天野君の戦いを見守っていた。
天野君が防御し、攻撃するたびに
ガーディアンの仲間達の、驚きの声が挙がった。
しかし、まさかあんな展開になるとは、
さすがのイデア様も思わなかっただろう。
本当は昨日、私は非番だった。
こちらの世界のケーキ作りに挑戦する予定だったのだ。
しかし、緊急で指令が出たため、泣く泣く中止した。
今日こそはケーキ作りに挑戦である。
それにしても天野君は不思議な子だ。
エーテル量は、決して多くないのに、
上級眷族の私やカレンと五分五分の戦いを演じたのだ。
中級眷族の真田にいたっては相手にならず、
天野君の掌の上で遊ばれていた。
ミア様の加護を受けたのだから当然だが、
常識の範囲を超え過ぎている。
そういえばミア様も仰っておられた。
『 ヒカルだから光の魔術は凄い 』
神をして「すごい」と言わしめる力は、
どれだけのパワーを秘めているのだろうか?
そのあとミア様は噴き出していた。
こちらの理由は未だ不明だ。
本来であれば、眷属がヒトに後れを取る事は
何よりも恥ずべきこと。
だから最後のカレンや真田の気持ちは痛いほどわかる。
しかし、私は何故か天野くんを守ってしまった。
あの時の気持ちは何だったんだろう?
ともかく、天野君の強さを常識で考えてはいけない。
何よりも成長速度が速い過ぎるのだ。
ただ1つだけ、どうしても許せないことがある。
誰にも許したことがない私の唇に触れられたことだ。
今、思い出すだけでも恥ずかしい。
やはり、いつかは彼と決着をつけなければならない。
気分を取り直して、ケーキ作りを始めましょう。
材料の仕込みは、一昨日の内に完璧だ。
その前に、私は日課の【エーテルポスト】の確認をした。
我々眷属はヒトが使っているメールの代わりに
通信手段として、【エーテル通信】を用いる。
これは、エーテルさえ持っていれば、
ドキュメント、動画、などパケット通信のほか、
荷物や食料などの個体も瞬間移動してくる便利なツールだ。
アールブヘイムとも通信や移動可能なので、
単身赴任中は大変助かりである。
◇
「今日は何か届いているかしら?」
メールと荷物が1通ずつ、届いている。
荷物の差出人は、三条ソフィア葵。
私の姉だ。
姉もガーディアンの幹部をしている。
彼女は文武共に優秀なスーパーエリートだ。
子供の頃から才能をイデア様に認められ、
早いうちからアトランティスへ呼ばれ、
今もイデア様直属で働いている。
尊敬する姉だが、何かと面倒を見たがり口うるさく苦手だ。
荷物は、アールブヘイムの新鮮な野菜と、
アトランティスの果物の詰め合わせだった。
封を開くと、姉の懐かしい声が聞こえてくる。
『茜ちゃん、相変わらず武術の稽古ばかりで
野菜を食べていないのでしょう。
故郷の野菜を食べて、体調管理をしっかりすること。
いいですね』
このところ忙しくて、コンビニ弁当ばかりを
買っていたのがバレている。
『それから茜ちゃん。
イデア様が、ミア様から貴方のことを褒めていただいた、
と、お喜びでした。これからも、お仕事頑張るように。』
最後のメッセージは嬉しかった。
ミア様が褒めてくださり、イデア様が喜んでおられる。
飛び上がりたい気分だ。
葵お姉さま、ありがたい情報をありがとうございます。
さて、もう1つの差出人は?
この名前は見たくない。本当にしつこいわね。
キーホルダーぐらいのメッセージバーを、
私はソファーに頬り投げた。
彼女はアールブヘイム時代から、
毎日、”決闘しろ”とメッセージしてくる。
そして毎週日曜日になると決闘に付き合わされた。
全て引き分けだった。
こちらの住所を知らせなかったのに、どこからもれたのか?
ソファーに落ちたメッセージバーにスイッチが入り、
映像が映し出される。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「わーっはっはっはっ!」
「茜ちん、私、フレッダなのだ。」
映像には銀髪ツインテールの少女が映っている。
船の上で撮影したのだろう、背景は海だ。
少女の背後には『あたり号のかき氷』という
手書きのノボリが見えた。
「いま、私もニホンに来ているんだぞ。すごいだろ。」
「この子も一緒だぞ。」
白い雪ウサギが、少女の肩に乗って挨拶をした。
その時にバランスを崩し、ウサギが落ちそうになる。
少女は慌ててウサギを両手で抱えて、
カメラの方を向き直り、人差し指を立てて叫んだ。
「今度も一緒に遊ぶのだ!」
「いいな、逃げるなよ」
◇
( 無視、無視よ! )
さぁて、ケーキの準備を始めましょう。
フレッダのことは、しばらく忘れたいわ。
悪い子じゃないんだけど、負けず嫌いだから
勝つまで決闘をやめないに決まっている。
天野君、ミア様や私が負けず嫌いっていうけど、
フレッダの方が絶対に面倒な性格よ。
私はいつものように、
服を脱いでエーテルのシャワーを浴びる。
エーテルシャワーはお湯と違い、周りが濡れないので、
その場で浴びることができるのだ。
長い髪も一瞬で洗浄されて、トリートメントされる。
そのため女神や眷族の女性は、例外なく髪の毛がきれいである。
髪形も整い、料理用のエプロンもバッチリ。
BGMとして、アールブヘイムのお気に入りのアーティストの曲を流す。
「よし!」
胸の前でガッツポーズ。
ケーキ作り、頑張るぞー!
<<< プルプルプル >>>
エーテル通信が着信を告げる。
今日は、何かと騒がしい日ですこと。
差出人をみると、そこに1行だけメッセージがあった。
『”ミアの箱舟作戦”の反省会をします。至急、集合せよ。
あっ、来る時にはコーラ買ってきてね。みあ。」
今日もケーキを作れずに、私の休日が終わってしまう。
しかし、イデア様が喜んでいたので、お断りをすることはできない。
武人らしく決断したら、行動は早く。
私は一瞬で外着に着替えて、鏡の前で髪に櫛を入れる。
今日は、天野君も来るようだし、少しだけ意地悪して
ストレスを発散させましょう。
「ストレス」という割に、
いつもミア様に会う時には身体も心も軽い。
もしかして、これはミア様ではなく、天野君に会えるから?
゜*。,。*゜*。,。*゜*。,。*゜*。,
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