第1次 アキバ戦争(その5)
「お兄ちゃん、ぜったい手を離さないでね」
「大丈夫、ちゃんと持ってるから」
日曜日、早朝の公園。
広場はラジオ体操に来た老人たちで賑わっている。
俺と妹は、邪魔にならないように
公園の隅っこで補助なし自転車の特訓をおこなっていた。
既に10回は転んだだろうか。
それでも、けなげに続ける。
わが妹ながら根性があるようだ。
<<< ガシャン >>>
これで11回目。
補助なしに乗れないのは、クラスで妹だけらしい。
友達と遊びに行くのが恥ずかしい、という理由で
今回の特訓が始まった。
空は青空が広がっている。
あっちゃんは、今朝7時に家を出るといっていた。
そろそろだな。
それにしても、抗議デモって何をやるんだろ?
昨日、あっちゃんも分からないと言っていた。
みんなでプラカードをもって行進するのかな?
芸能人や声優が来て、ライブなんかもやるのかな?
「お兄ちゃん、持ってる?」
「???」
今度は自転車の後ろを持つのを忘れていた。
しかし、妹の自転車は真っすぐ走っている。
「すげーじゃん。今度は持ってないよ」
「ほんとー」
「やったー」
自転車から降りて、飛び跳ねて喜んでいる。
よく飛び跳ねるやつだ。
周りで見守っていた老人から拍手が沸き起こった。
ラジオ体操中から、ずっと見守られていたようだ。
「ねーーーー、のれたよーーー」
家に帰ると、妹は母のところに飛んでいき、
喜びの結果を伝えている。
こういう時に、報告するのは母親なのね。
隣で父が新聞を読むふりをしながら、
自分にも報告してほしいオーラを出し続けている。
(気づいてやれ、妹よ)
微妙な親子ドラマが繰り広げられている
リビングを後にして、俺は自分の部屋に戻った。
あっちゃんからの連絡はまだ来ていない。
俺はSNSの画面を開き、デモの予定を確認した。
【抗議デモ予定】
10時30分 秋葉原UDX前集合
開会のあいさつ
抗議活動①
11時30分 バス移動
12時00分 虹テレビに到着
抗議活動②
13時00分 バス移動
(以下省略)
という具合に、かなり忙しい。
会費3000円で誰でも参加できるらしい。
まだ8時半だが集合場所のライブ映像が配信されていた。
2時間前だというのに、既に500人ぐらい集まっている。
ドンドン人が増えているようだ。
10代から20代が多い。女の子も目立つ。
その上を何かが飛んでいる。
ドローンでも飛ばしているのだろうか?
いや、見覚えがある。
天使もどきだ。
(はめられた!)
やつらは、これまでワイドショーを通じ、
『イベント参加者 = 悪』として、世間を煽ってきた。
それに対し、俺たちの動画がきっかけに
捏造報道の実態が暴露され、参加者達が立ち上がった。
テレビは、いつの間にか論点がすり替わり、
暴行事件を起こしたイベント参加者への批判から、
参加者を擁護するネット民への批判に発展し、
一方ネットでは、傲慢なテレビ番組に怒りが集中していた。
互いの憎しみは頂点に達している。
死神にとっては、「世界の調整」の絶好の機会だ。
(今日、何かが起こる)
俺はあっちゃんに秋葉原から離れるようにLINEした。
しかし、メッセージが既読にならない。電話にも出ない。
仮に、あっちゃんが襲われたら、ここでは助けられない。
ここから秋葉原まで40分はかかってしまう。
江良に助けを呼ぼうにも連絡先を知らない。
三条も同じだ。
(とにかく秋葉原に向かおう。)
俺は、自転車のハンドルを握り、全力でペダルをこいだ。
改札を抜け、駅のホームに上っていくと、
白いワンピースを着た赤いロングヘアの姿があった。
(俺の行動はガーディアンに筒抜けなのか?)
どっちにしても、こいつが一緒なら心強い。
三条マリア茜。
ガーディアンの幹部にして、最強の炎の使い手だ。
普段、江良をお世話する脇役のように動いているが、
本当は恐ろしく強い。
「天野君、お出かけ?」
あまりにも不自然なベストタイミングだ。
俺は三条の挨拶がわざとらしく感じた。
だが、今日はこいつを仲間にしたい。
「おはよう三条。これから秋葉原だよ」
(実は、何をしに行くのかぐらい分かってるんだろ?)
「偶然ですね。私も秋葉原です。
せっかくですからご一緒しましょうか?」
三条から一緒に行ってくれるというのだ、
俺の答えに「No」はない。
「おっけー。江良が付いてくると面倒だ。
すぐ電車に乗ろう」
黙ったままうなづき、三条は電車に乗った。
◇
秋葉原の駅はプラットホームから、ごった返していた。
改札を抜けると、観光客に加え、
ネットの呼びかけで集まった人たちで溢れている。
気になったのは、秋葉原とは無縁の老人、
中高年が多いことだ。
彼らはグループごとに円を作っている。
中高年は集まると、何故か円を作る習性を持っている。
(とにかく、あっちゃんを探そう)
俺たちは電気街口を出てUDXを目指した。
駅前ロータリーは、車両通行止めになっている。
その向こうではデモ集会の
開会のあいさつがおこなわれていた。
リーダーらしき人の挨拶が終わると、
次に、あっちゃんが壇上に立った。
会場の参加者は、あっちゃんが捏造報道で
被害を受けていることを知っていた。
励ましのエールが、あちこちから飛んでいる。
俺も声をかけたが、距離が遠くて届かない。
少しでも近づけないか?
俺は右に、左に、隙間を通ってUDXに近づいていった。
ふと、気が付くと三条がいない。
途中ではぐれたようだ。
<<< ワーワーワー >>>
後方の、JR電気街口で歓声が上がった。
そこには拡声器を持った女性が立っていた。
ワイドショーでコメンテーターをしている
人気の政治記者だ。
彼女の前には数百人の中高年の人たちが集まっており、
記者の登場に興奮している。
「皆さん!
このようなデモは、言論を統制する行為です。
私たちは、民主主義を脅かす、
不法なデモを許すわけにはいきません。」
「そうだ」「ゆるさないぞ」
中高年側の聴衆から声が上がる。
聴衆の中にはヘルメットを被り武装している者たちも紛れている。
(これはタダごとではすまない。)
あっちゃんもそうだが、
せめて三条とは合流した方が良さそうだ。
しかし、そんな余裕がなくなった。
政治記者を先頭に、中高年たちがUDXに向けて
行進をはじめてしまったのだ。
相手は、自分の親ぐらいの人ばかりだ。
そのためデモ参加者は道を開けていたが、
彼らの傲慢な態度にイラついたのか、次第に道を塞ぎはじめた。
中高年の1人が道を塞ぐ女の子に手を挙げた。
それをきっかけに、殴り合いに発展した。
最初は小さな小競り合いだったが、
次第にまわりでも衝突が始まり、ロータリー内は騒然となった。
◇
「茜さま、いよいよ始まりました。」
「死神様の部隊は、真田ゆうきの手下のようです。」
「やはりそうですか。」
ロータリーを見下ろす高層ビルの一室。
三条はガーディアンからの報告を聞きながら
カオスとなった会場を見ていた。
「天野君なら大丈夫よね…」
「茜様、不確かな情報なのですが、
会場で手島らしい姿を見たという情報もあります。」
「カレン手島も出てきているのか?」
ガーディアンたちが顔を見合わせている。
「もし、そうなら、今回、死神様は本気ということですね。」
「天野君…。」
三条の視線の先に俺がいる。
俺はそんな視線に気づくことなく、三条の行方を追っていた。
゜*。,。*゜*。,。*゜*。,。*゜*。,
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