第1次 アキバ戦争(その4)
俺はクラブを出ると、
急いであっちゃんにメッセージを送った。
『さっき、あの時のチーマーに会ってきた。
インタビューが嘘だった証拠の動画をとったぜ。
無実が広まるまで、もう少しだけ待ってて』
あっちゃんからすぐに返事が入った。
『ヒカル、ありがとう』
俺は、少しだけ胸のつかえが取れた。
それにしても、この後、どうすれば良いんだ?
江良は「まかせといてー」と胸を叩いていた。
三条なら信頼できるが、江良は不安だ。
その証拠に江良はもういない。
今頃は、お好み焼き屋に向かって
1人で突撃している頃だろう。
三条も後を追った。まるで江良の執事だ、
だが、2人のお陰でチーマーの動画が取れた。
わがままだが、もう少し付き合ってても良いだろう。
俺は少し遅れて、お好み焼き屋に入っていった。
まだ、夜の8時を回ったところで店は混雑している。
「ヒカルー、こっちこっち!」
奥のテーブルでリボンが揺れている。
三条が鉄板の上で焼き始めていた。
外国のモデルが器用な手つきで
お好み焼きを焼いていると、
周りの客がスマホで撮影している。
お好み焼きは、タコネギお好み焼きだ。
あれ?タコ?
「三条が焼いているのは、もしかして江良の分か?」
「そうよ、私の分よ。
彼女が焼きたいって言うから任せているのよ」
「自分で焼けよ。
お前、『粉もん日本一』じゃないのかよ」
「日本一や!粉もんを愛しているといっても過言ではない」
「じゃ、なんで三条に焼かせてるんだよ」
「私は食べる専門の日本一なの!」
「それより、ヒカル。これ見てみなさいよ」
江良がスマホを渡してきた。
大阪ローカルのテレビが生んだたこ焼きキャラ、
「たこるくん」のステッカーが貼られている。
「スマホにも、たこ焼きかよ」
「そっちじゃないわよ」
「それと、このシールのキャラは、たこるくん!
覚えておきなさい」
江良がうるさいので、画面をのぞき込んだ。
SNSの動画投稿サイトだ。
そこには、
さっき撮ったばかりの映像が掲載されていた。
すでに、、、、300万回! すごい再生回数だ。
他のSNSでも、動画が貼られていた。
コメント投稿数の勢いが、
見たことのないスピードで伸びている。
「江良がやったのか?」
「まさか、私は全然ダメ。
こういったことはガーディアンが得意なのよ。」
三条には聞こえていない。
今まさに、お好み焼きを裏返そうと
へらをもって集中しているところだ。
ぺたん。
うまく、裏返しになった。
綺麗に焼けている。
何をやっても美少女がやると絵になる。
横では、江良のニヤニヤが止まらない。
三条が青のりを華麗にふる。
我慢できなかったのか、江良が食いつく。
三条の姿は餌付けをしている飼育員に見えた。
「天野君」
へらを置いて、飼育員の三条がこちらへ向き直った。
「大切なのはこの後よ。
我々の情報網はインターネットに強いの」
「死神様の眷族はテレビや新聞に強いから、
しばらくの間は、ネットとテレビの戦いになるわね」
「あっちゃんが無実だと、
みんなが分かってくれたらそれでいいんだ」
「こういったことには、流れや勢いがあるから、
世論がどちらに転ぶかは分からないわ」
「おい、これってシゲさんたちじゃね?」
この店にいる客も動画に気付き始めたようだ。
ネットの拡散力には驚くばかりだ。
そろそろ街全体がざわつき始めた。
俺たちは1枚ずつ、お好み焼きを食べて
渋谷を後にすることにした
これであっちゃんは、明日から普通に学校に行けるかな?
また、元気になってくれたらいいな。
その時、俺は1本の動画投稿が、
史上最大のクーデターに発展するとは思いもよらなかった。
◇
<<< bubububub >>>
朝5時半、カーテンの外が白み始めたころ、
俺のスマホが震えた。
誰だよ、こんな時間に。
「ヒカル、ネット見たかよ?
週末、俺はアキバに行くけど、お前も行こうぜ」
「え、なんのこと?」
まだ、頭が回らない。
今週は何もイベントがなかったはずだ。
「なんでもいいから、SNSを見てみろよ。
すげー盛上ってるぜ」
俺は急いでスマホの画面を見た。
どのSNSも徹夜で投稿祭りとなっている。
これまでアキバ事件で一方的に「悪」とされてきた
参加者達のうっぷんが、一斉に爆発したようだ。
テレビに文句を言うもの、
コメンテーターをつるし上げるもの、
スポンサーの商品をボイコットする声も盛上り始めている。
あっちゃんが言っていた秋葉原のイベントは、
今回のテレビ番組に対する抗議デモをおこなうものだ。
俺は、あっちゃんの濡れ衣が晴れれば良いと考えていたので、
あまり集会とかデモには興味がなかった。
「ごめん、俺、週末は家族の用事があるんだ」
事実、妹の補助なし自転車の練習相手をする約束をしていた。
カードイベントなら、迷わず優先したが、今回は妹の勝ちだ。
あっちゃんは、残念がっていたが、前より明るくなっている。
動画を見た両親から謝られ、
クラスメートからの謝罪メッセージも山のように来たそうだ。
時計はまだ6時になっていない。
俺は再びベッドに横になった。
◇
遠くで声がする。
見覚えのある風景だ。
古代オリンポスの神殿のパティオ、あれはザンの姿だ。
まだ、幼さが残る顔立ちをしている。
前に見たシーンより昔ということだな。
ザンは多くの人に囲まれて、お祝いの言葉を受けていた。
「大王様、この度の戦勝、おめでとうございます」
「戦いの神に愛された大王様、万歳」
それまで椅子に座っていたザンが立ち上がり、
大臣らしき男のもとへ歩み寄る。
その男は片膝をついてザンに会釈する。
「大王様、戦勝おめでとうございます」
「サガン公、今回は貴殿のお陰で助けられた」
「滅相もございません。大王様に寄せられた神のご加護でございます」
「いやいやサガン公が、余の配下に入って以来、
余は100万の軍勢を得たような気持ちになれる」
男は黙って頭を下げたままだった。
ザンが通り過ぎると、サガンと呼ばれた男は小声でつぶやいた。
その手には時代にそぐわない小型通信機が握られている。
「ケイト様、全て順調です。次は更に大きな戦いになりそうです」
「葵様と茜様にもお伝えいただけますと幸いでございます」
茜?
茜って、三条のことか?
あいつも眷族だからこの時代から生きている可能性が高い。
それじゃ、こいつはガーディアンということか?
いつものように妹に起こされた。
ベッドの上をぴょんぴょん跳ねる妹を見ながら、
俺は夢の意味を考えた。
これもザンからのメッセージだろうか。
何かこれから起こることの暗示にも思える。
朝食時のテレビは相変わらず、あっちゃんの動画を流している。
昨夜からネットで盛り上がっている動画は捏造だとして、
コメンテーターが新しいテロ陰謀説と説明している。
一方、ネットでは、
番組の方が捏造だと炎上している。
完全に敵と味方が分かれてしまった。
「ヒカル、お母さんは、
どちらが正しいのか分からなくなったわ。
あっちゃんには謝っておいてね」
「大丈夫だよ、あっちゃん、今朝はもう元気だよ」
「あらそう、良かった」
俺は、この騒動に家族が巻き込まれないように、
注意をしなければならない。
何か盛り上がり方が異常すぎるのだ。
学校でもTV派とネット派で、意見は二分していた。
さすがに喧嘩にはならないが、互いに意見をぶつけあっている。
「面白いけど、面白くないわね。」
珍しく江良は不機嫌だ。
三条はずっと下を向いている。
「今回はたまたまヒカルの友人だから付き合ったけど、
この騒動をガーディアンは利用してないわよね?」
三条は顔を上げず、小さな声で返事をした。
「いたしていないかと…」
ガーディアンは俺たちをサポートしてくれている勢力だ。
利用するって何のことだ?
俺は週末が来るまで、2人の会話の意味が分からなかった。
゜*。,。*゜*。,。*゜*。,。*゜*。,
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