第1次 アキバ戦争(その1)
テレビによるとこういうことらしい。
秋葉原に遊びに来ていた高校生男女のグループが、
イベントに参加していたゲーマーたちに取り囲まれ、
暴行されお金を巻き上げられたというのだ。
映像では、チーマーの1人がインタビューを受けていた。
まるで被害者のように、涙を浮かべて襲われた時のことを語っている。
(いやいや、違うでしょ。なんでこんな嘘が放送されてるんだ)
俺は驚きのあまりにポカンと口を開けて、テレビを見ていた。
しかし、次の映像を見て、今度は気を失いそうになった。
チーマーを取り囲み、殴りつけている1人が
どう見てもあっちゃんなのだ。
(いやいや。これは絶対にない。
あっちゃんは俺と一緒にいた。
こんなの完全な捏造動画だ)
スタジオではコメンテーターたちが、
オタクという人種は自分勝手で危険極まりないと非難している。
女性の政治記者も、線路に踏み入った鉄オタと並べて、
オタク全体を規制すべきだと声を荒げている。
<<< Bububububu >>>
着信だ。
電話の向こうで、あっちゃんが泣き出しそうな声で叫んだ。
「ヒカル、テレビ見たか?
いったいどうなってるんだ、俺はお前と一緒だったよな」
「うん、
俺とあっちゃんは通りの反対で見ていただけだ」
「ともかく親が怒ってるんだ。うちにきて説明してくれよ」
「わかった。すぐに行く」
電話を切ると、俺は玄関に向かった。
「あつしくんのところでしょ。行っちゃだめ」
一緒にテレビを見ていた母親が、俺の前に立ちふさがり、泣き出した。
「あんたは関わっていないわよね」
「もし、そうならお母さんは外を歩けなくなるわ」
「それはない」
「あっちゃんだって、俺の横にいたし、何もしていないよ」
俺は母親に反論した。
しかし、テレビから繰り返し流される
あっちゃんの映像が俺の反論をことごとく打ち消した。
(まさか、これも死神のしわざ・・・?)
そうなら、マスコミは全部敵だ。
俺が一人で動いて何とかなる話ではない。
(江良なら何とかしてくれるかもしれない。)
俺はあっちゃんに、学校が終わったら行くことを告げて、
江良に会うために学校へ向かった。
◇
教室に入ると、あちこちで昨日の事件が話題になっていた。
ほどんどの生徒が「オタクは怖い」「気持ち悪い」と吐き捨てている。
江良は今日も遅刻だ。
三条は、何か情報を持っているのだろう。
冷めた目でクラスメートを見ていた。
(テレビの影響力は怖い、あっちゃん大丈夫かな)
俺はあっちゃんにLINEで呼びかけたが返事がない。
返事どころではないのだろう。
心配だ。今すぐ、あっちゃんに会いに行こう!
俺は立ち上がり、教室を出ようとした。
すると意外な人物から引き留められた。
「今、天野君が出ていくのは危険よ。
せめて、ミア様のお考えを聞くべきよ」
確かに三条が言うことは一理ある。
死神だけではなく、インスペクターが絡んでいる可能性もある。
「今度は、低級なソウルイーターではなく、
死神眷族の師団長クラスが動いているらしいの。
へたに動くと、すぐに命を取られるわ」
「三条、お前より強いのか?」
三条の目が光り、にやりとした。
(しまった。これはダメな質問だ。
自分最強主義の三条に聞いても答えは決まっている)
「分からない。」
「え?」
意外な言葉が三条から返ってきた。
「相手が1人で来たら瞬殺できるわ」
「でも奴は組織戦が得意なので決して1人では攻めてこない」
「複数の眷属たちが戦術的に攻めてきたら、
私1人で勝つのは、少しだけ難しいかもしれないわね」
つまり要約すると…
私は絶対負けないけど、勝つのが少しだけ困難かもしれない。
という風に聞こえる。
負けず嫌いの三条にここまで言わせるとしたら、
やはり敵の強さは本物だ。
ここまで三条に言われると、江良を待たざるを得ない。
あんな奴でも神だ。何かアイディアをくれるだろう。
一時間目…、江良はこない。
二時間目…、こない。
三時間目…、本当にこない。
四時間目…、いつになったら来るんだ?
そして、四時間目終了のチャイムが鳴った…
その瞬間、黄色いリボンが教室に入ってきた。
焼きそばパンとコーヒー牛乳が入った袋を抱きかかえ、
満面の笑みで登場である。
「今日は焼きそばパンを買えたわ。ラッキーね。」
何が「ラッキーね」だ。
こいつはきっと、昼休みの争奪戦を避けるために、
わざわざ4時間目をサボって学食の前で待っていたのだろう。
焼きそばパンに頬ずりしている江良に
突っ込みたいところだが、今日はそんな余裕がない。
江良の手を引っ張って、廊下に連れ出した。
「ヒカル、今日は積極的ね。
ついに愛の告白でもするのかしら?」
今日の冗談は笑えない。俺はグーパンチを繰り出す準備に入った。
「ミア様、天野君ずっと待っていたので、
まずは話を聞いてあげてください」
ナイス!三条、本当にお前は頼りになる奴だ。
「まぁ、貴方がヒカルの肩を持つなんて意外ね。
2人はいつの間に、そんなに仲良くなったのかしら?」
途端に例のシールドに包まれた世界が広がる。
江良が時間を止めたのだ。
はっ、と、三条が半歩下がって膝まづく。
「さぁ、ヒカル。準備はできたわ。」
江良が机に座り、
コーヒー牛乳のパックにストローを刺して口にくわえた。
「実は昨日… 」
俺は江良と三条に向かって事件のことを話し始めた。
秋葉原で暴力事件に遭遇したこと、
今朝のテレビで、被害者と加害者が逆になった捏造映像が流されたこと、
加害者の中に、なぜか俺と一緒にいた親友が映っていたこと、を説明した。
「それで、ヒカルはどうしたいの?」
「ズズズズー」
コーヒー牛乳を一気飲み干した江良が訪ねてきた。
「助けたい!
このままじゃ俺の親友は社会から抹殺されてしまう」
「ミア様、今回はカレン手島直属の真田が動いているようなのです。」
『カレン』という言葉を聞いて、江良の表情が曇った。
「そう。確かにあの子が出てくるなら、マズいわね。」
◇
後で三条に聞いた話だ。
カレン手島、死神直下の師団長。
現在こちらの世界に来ている眷属の中では、最も危険な人物らしい。
沈着冷静、日本の歴史で戦争が起こる時、必ず彼女が裏で絡んでいた。
そいつの右腕が、今回現場で陣頭指揮を執っているというのだ。
◇
「はい。ミア様。あのカレンが相手だとすると
私なら負けることはありませんが、
天野君では、瞬殺されるでしょう。」
(三条、こいつまだバトルのことを引っ張ってるのかよ。
普段は良い奴なんだけど、強さが絡むと面倒くさい奴だ。)
江良は『確かに』という顔でうなづいた。
「そうですね。彼女に勝てるのは貴方かフレッダちゃん、
ぐらいでしょうね」
「フレッダなどには引けは取りません。
私なら奴の半分の時間で片付けます。
そもそもフレッダとの勝負は、これまでも…」
フレッダという名前を聞いて、三条の様子が変わった。
インスペクターのフレッダというのは、三条のライバルらしい。
(おい江良、頼むよ。
余計なところで三条に火をつけないでくれ。)
こっちは一刻でも早くあっちゃんの家に行きたいんだ。
ほんと、時間がないんだから。
あっ、いま時間が止まっているんだ。
じゃ、大丈夫か。ということで
俺は三条の「私は強いんです」アピールを放置した。
そしてアピールがひと段落したようなので
俺は話を本題に戻した。
「何とか、あっちゃんを助けたいんだ。
頼む、江良。俺を手伝ってくれ。」
「ついにヒカルも私を認めたようですね。
いいでしょう。そこまで頭を下げられたら、私も江戸っ子です。
見て見ぬふりはできません。」
「おまえ、女神だろ。いつから江戸っ子になったんだ。」
「まさか、ミア様がご本人で動かれるのですか?」
俺と三条の声が、重なった。
俺の突っ込みはスルーされ、江良は三条に答えた。
「だって。おもしろそ…
…、ヒカルは私が加護を与えた者です。
神の名において、加護者は守らねばならないのです」
「おまえ!
今、事件に首を突っ込めば面白そうだと思っただろ」
あわてて江良が2つめのコーヒー牛乳に手を伸ばす。
ひとくち飲んだ後で、呼吸を整えた。
「ヒカル、そんなことはないわ。
これは神として当然のことなのです」
明らかに動揺している。
まぁ、こいつがいれば敵も近寄ってこないかもしれない。
江良が来てくれるなら、ひとまず安心だ。
「では、私もご一緒させていただきます」
「「「 えええええ? 」」」
「「「 えええええ? 」」」
三条の意外なセリフに、
今度は俺と江良の声が重なった。
死神の眷族と戦いになるかもしれないのに、
敵か味方か分からないガーディアンの三条を連れていくのは危険だろう。
江良も三条を警戒しているので、俺と同じ反応を見せた。
「三条さん、貴方は良いのですよ」
「いえ、ミア様を一人で行かせるわけにはいきません」
「貴方が来てしまっては、
私のカッコいいところが横取りされてしまうじゃないですか」
(でたーー。女神さまのホンネいただきました。)
「死神様の眷族ごときに女神さまが出る必要はございません。
私の力でねじ伏せて見せますわ。」
(あれ?三条さん、もしかして戦いたがってる?)
「それに、以前、私の不注意である戦いで敗れたことがございます。
ここで汚名を返上しておきたいのです。」
そう言いながら俺をチラチラ見ている。
おそらく俺の前で敵をボコって、自分の強さをアピールしたいのだろう。
「三条さん、あなた強情ですわね」
「ミア様こそ」
「「「 うふふふふふ 」」」
女神とガーディアンのエースが、不敵に笑いあっている。
「では、さっそく出かけましょう」
江良は、焼きそばパンを平らげたので、行く気満々だ。
だが、俺も三条も昼食を取っていない。
横を見ると三条も空腹なようだ。
俺の提案で、昼休みに作戦会議をおこない、放課後に出動することになった。
゜*。,。*゜*。,。*゜*。,。*゜*。,
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