開戦前夜 忍び寄る天使の影
家族で観ていたテレビ画面に、
あのソウルイーターが映っていた。
姿が見えたのは、俺だけのようだ。
『死神は精神操作が得意』
『偽情報を使ってヒト同士を争わせる』
俺は先日の三条の言葉を思い出した。
今、目の前に映っている死神のしもべ達は
得意の精神操作で、視聴者の怒りや憎しみを
煽っているのだろうか。
ふと、江良と三条の顔が浮かんだ。
あいつらなら、何かわかるかもしれない。
月曜日に聞いてみよう。
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朝食が終わり部屋に戻るとスマホにメッセージが届いた。
( このタイミングは、あっちゃんかな? )
明日は待ちに待ったカードイベントだ。
会場は秋葉原。
あっちゃんと一緒に出掛ける予定になっている。
( ソウルイーターのこと、
あっちゃんなら信じてくれるかな? )
彼は、"天使もどき"が見えないから
信じてはもらえないだろうな。
そんなことを考えながら
俺はスマホのメッセージを確認した。
そこには、
たこ焼きを食べる“どや顔”の江良の写真があった。
(こんな時に、あいつは!)
一瞬、ムっとしたが、
写真に添えられた文章が、俺に緊張を走らせた。
『ヒカル、聞きなさい。
三条茜の情報によると、
インスペクターの幹部が来日したみたい。
君には手を出さないと思うけど、十分注意しなさいね。』
死神の手下だけじゃなく、今度はインスペクターかよ!
江良の言う通り、注意するに越したことはない。
それにしても、この画像は何も関係ないだろ。
ただ、あいつも「たこ焼き情報」を共有する
友達がいないのだろう。
俺は、ボッチの江良に少しだけ共感を覚えた。
その日、俺は1日かけて
過去にテレビや新聞が作り出した
怒りや戦争について、ネットで調べていた。
先日の三条の言葉が気になったのだ。
すると、次々とそれらしき証拠が見つかった。
簡単にまとめるとこうだ。
・過去の戦争は、新聞が過剰に
愛国心を強めて引き起こしていた。
・世界大戦もラジオと映画が、敵を喧伝し憎しみを生み、
引き起こしていた。
・識字率が低かった中世では、宗教が他の宗教を野蛮な敵として
互いの殺戮を扇動した。
つまり、東西を問わず、メディアが民衆の怒りを高めて、
「こいつが敵だ」と認識させる。
そして、戦争や戦いが起こりやすいように感情を
コントロールしていたのだ。
背後に死神が絡んでいる可能性が高い。
最近では、ネット記事やSNSが、争いの種となっている。
死神の仕業とは言いきれないが、関係しているとみて間違いないだろう。
ん、待てよ。
世界の調和が図れるのであれば、人口を減らすことに
インスペクターやガーディアンも、反対ではないはずだ。
事実、江良や三条も、死神の行為自体には否定的ではなかった。
2つの勢力も何らかの形で、戦争に絡んでいるのか?
この疑問を共有する相手がいない。
やはり、話すならボッチの江良だ。
◇
翌朝、俺は眠い目をこすりながらリビングに入った。
妹が好きなアイドル番組を見ている。
画面では、爽やかなイケメンジュニアが笑顔で踊っていた。
(この少年たちも死神の手先なのか?)
イケメンの傍には、天使もどきがいない。
これは問題ないだろう。
隣では、父親が新聞を読んでいる。
紙面には『自由と平等を脅かす企業特集』として、
あの電力会社が取り上げられている。
父は政治に興味がない。
四コマ漫画を見ながらにやけている。
昨日は母の機嫌を取るために、もっともらしく
うなづいていただけだ。
昨日、一番熱く語っていた母は、
今朝になるとイケメン大リーガーの活躍に目を輝かせている。
今はイケメン選手の話題で頭の中がいっぱいだ。
この調子なら、家族は死神の影響を受けないだろう。
世の中が、みんな俺の家族のようだったら、
深刻な紛争は起こらないに違いない。
かくいう俺も今朝は、昨日の悲壮感が消えている。
何といっても今日は【祭り】なのだ!
◇
【ユニバーサルカードデー】
カードゲームの老舗、ユニバーサル社の呼びかけで、
全国のカード会社が秋葉原に集うイベントだ。
毎年、この祭りで限定の超レアカードが販売される。
そのため国内だけではなく、
世界からカードゲーマーたちが集ってくる。
特に今年のイベントカードは、
幻の絵師『ミスターZ』の参加が噂され、
純粋なゲーマーのほか、転売ヤーたちも沸いている。
俺は駅前であっちゃんと合流し、秋葉原へ向かった。
電車が秋葉原に近づくと、車内はイベント参加者で満員となった。
秋葉原駅に降り立つと、本場のイベントを一目見ようと、
外国人観光客が押し寄せ、カオスを極めていた。
午前10時になると、UDX前でセレモニーが始まった。
人気カード作品とコラボしたMMOゲームを担当した声優が
ライブのステージに立ち、ボルテージは最高値に達する。
歓声は、ラジオ会館前にいた俺達2人にも聞こえてきた。
しかしその中に、何か異質な声が混じっている。
あっちゃんが、ゲマズの方を指さした。
「あそこで、何かもめてる」
◇
今日はゲマズでもイベント限定カードが売り出される予定だ。
既に100人以上が列を作って発売を待っている。
その前で、場違いな渋谷風ファッションの女の子たちが
大声を出していた。
あっちゃんによると、彼女たちが行列に割込んで、
注意をされていたことに逆ギレしていたようだ。
騒然としている列に、わらわらと、チーマー風な少年達が現れた。
数は10人ぐらいだ。
「お前ら、どけよ。彼女たちが並べねーだろ」
チーマーたちはそう叫ぶと
並んでいた人たちが押しのけていく。
逆らった者は、殴られているようだ。
どう見てもカードファンではなく、悪質な【転売ヤー】だ。
彼らを注意した店員も逆切れされ、
土下座を強要され、さらに殴られていた。
まわりの人が止めに入ったが、
チーマー達は護身用の警棒を取り出し、
笑いながら殴り始めた。
「きゃっ、ウケるんすけどー!」
それを見て笑う少女たち。
「ここは俺たちの聖地だ!」
「聖地からこいつらを排除しろ」
どこからものなく声がした。
「そうだ」「排除だ」
あちこちから怒りの声が広がっていく。
やがて、百人以上がチーマーたちを囲んだ。
「やんのか、お前ら」
チーマーはすごんできた。
しかし、数に勝るカードゲーマーは、ひるまない。
1人1人は、弱くて頼りないが、
集団になるとネズミもトラを狩るのである。
1人、2人、チーマーが集団に捕まり、
倒され踏みつけられる。
グループを囲んだ輪が徐々に狭くなる。
笑っていた女子たちが泣き出した。
俺はあっちゃんと、状況を見守り続けた。
すると、警察がやってきて、囲みは解かれた。
「ふざけんなよ、お前ら!絶対に許さねーからな」
チーマーたちは捨て台詞を言いながら逃げていく。
「かーえーれー!」
「かーえーれー!」
数百人に膨れ上がったゲーマーの声が秋葉原にこだまする。
チーマーの姿が見えなくなると歓声と拍手が巻き起こった。
俺たちの勝利だ。
遠くで見ていた俺も嬉しくなった。
その後、何事もなかったように祭りは再開された。
俺はあっちゃんとカードを捜し歩き、
声優ライブを楽しんで、秋葉原の街を後にした。
久しぶりに有意義な一日だった。
しかし翌朝、1つのニュース映像が
俺の祭り気分を吹き飛ばしてしまう。
昨日の秋葉原の騒動がテレビで放映され、暴行事件の主犯が、
いつの間にかイベントに参加者していたカードゲーマーだと
報じられていたのだ。
゜*。,。*゜*。,。*゜*。,。*゜*。,
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