第1次 アキバ戦争(その2)
俺たちのあっちゃん救出計画は江良によって
「ミアの箱舟作戦」という謎の名前が付けられた。
江良のやつは、
いつのまにか「隊長」の腕章までつけている。
三条の腕にも「副官」の腕章が巻かれていた。
「いーい?事件は現場で起こっているのよ」
また、テレビの影響か。
訳の分からないセリフを江良がほざいている。
「はい!」
三条が挙手し、江良に会釈をした。
「意見を許すわ。話してみなさい」
「ありがとうございます。
今回は素晴らしい作戦に参加させていただき、
心から感謝いたします。」
満足げな顔で、江良がうなずく。
「今回の作戦は、まず、あつしという少年の救出。
そして濡れ衣を晴らすことがゴールかと存じます。」
「そのためには真犯人を世の中にさらけ出すことが必要となります。」
「続けてちょうだい。」
「はっ。」
「我々、箱舟隊の戦術は、真犯人のチーマーとやらを拉致し、真実を白状させる。
そして新たな映像で愚民を洗脳すればよろしいかと存じます。」
「うふふ、いいじゃない。いいじゃない。」
「拉致」とか、「洗脳」とか、
お前たち2人の方が、悪役に見えるぞ。
特に、そこのポニーテール。
お前は女神さまじゃなかったのか?
俺が完全に無視される形で会議は進み、
作戦の決行は、今夜6時45分となった。
何故、45分なんて半端な時間になったのか?
6時から30分間の「たこ焼き」グルメ特集が放送されるからだ。
俺は黙ったまま、女神のわがままな悪ノリに従った。
全てはあっちゃんの無実を晴らすためなのだ。
あっちゃん、待っててくれ!
◇
俺は夕飯を終えると、コンビニに行くと伝えて玄関を出た。
待合わせは、駅南のスタバ前だ。
少し早く家を出たせいか、待ち合わせ場所に10分前についた。
しかし現場には、既に三条が来ていた。
「ごめん、待った?」
「私も今来たところ」
もちろん、そんな甘い会話は俺たちにはない。
何と言っても三条は黙っていると、高貴な雰囲気があり、
遠巻きに注目を集めてしまう。
祖母はオランダの王室という立派なセレブで
行き交う人が、みんな三条に目を奪われている。
普通の神経をしていたら、
こんな高嶺の花に気安く声なんてかけられない。
たった1人を除いては。
「やっほー、三条さーん。
今回のたこ焼き特集も最高やったわー!」
その例外が来た。
手には、たこ焼きが入った包み。
どこで買ったのか「粉もん日本一」という
Tシャツにハーフパンツという姿だ。
お前はコント芸人か?!
とはいえ、そんな江良も黙っていたらどこかのお嬢様だ。
2人そろうと、なかなか絵になる。
「ヒカル!おーい。こっちこっち。」
周囲から笑い声が聞こえる。
ただでさえ目立っているのに名前を呼ぶな。
「なーにあの子たち。Youtuber?
それにしても、女の子はかわいいのに男子がねー」
いろんな声が聞こえてくる。
そんなこんなで合流早々、俺のHPは残り30%まで削られていた。
渋谷にむかう道中、
電車の中で俺と三条は、延々とたこ焼き特集の話を聞かされた。
興味がない上に、何故かどや顔で話され続けたせいか、
渋谷に着くころ、俺のHPゲージはついに底をついていた。
◇
「さあて、三条さん。お目当ての子達は、どこかしら?」
「この先の ”クラブ” といわれる店にいるようです」
ハチ公口を出ると、江良と三条は
勢いよくスクランブル交差点を渡っていく。
「ヒカル、ちゃんとついてきてる?」
時折、江良が振り返り、俺をどやしつけてくる。
あれだけ、興味のない話を聞かされて、
こっちはへとへとなんだよ。
無神経な隊長に、一般隊員の愚痴をいいたかった。
しかし、一緒に聞かされた三条が
毅然と江良についていく姿を見ると、何も言えなかった。
やがて、俺たちはセンター街に入っていった。
「あいつの眷族はいる?」
「いいえ、ここにはいないようです」
「おーけー。じゃあ、さくっと終わらせましょう」
そして、このお好み焼き屋で打ち上げよ!」
お好み焼き屋の看板を見つけて、江良のテンションが一段と上がった。
「強そうな敵がいなくて残念ですわ」
「どうせ、そのうち出てくるわ。
ただ、貴方はエーテルが強いから気を付けてね」
「かしこまりました。
バレないように頑張ります」
センター街を抜けたところにある少し古びたビル。
その前で2人の足は止まった。
その地下にクラブはあるようだ。
三条が先に中に入り、江良と俺が続く。
「ねー、彼女たち、あまり見かけないね。
こっちで一緒に飲もうよ。」
さっそく雑魚登場!
いかにもって服と髪形、一目でチーマーだと分かる。
三条はガン無視。
奥に陣取っている例のグループに近づいていく。
「なーにー?私たちになんか用?」
金髪にピアスの女が三条を睨んだ。
「ゆーこ、待てよ。かなりの上玉だ。
ねぇ、きみー俺たちの仲間に入らない?
楽しいこと、いっぱいできるよ」
ピアス女の横にいたロン毛男が立ち上がり、
三条に近づいた。
「あら、どんな楽しい事かしら?」
江良がニコニコしながら近づいていく。
「お、こっちも美形じゃん。
いーねー、いーねー」
チーマーの中の1人が
江良を抱き寄せようと手を伸ばす。
その瞬間、大男が宙を飛んだ。
三条が男の髪を掴んで投げ飛ばしたのだ。
クラブは大音量が流れているので近くの人間しか気づいていない。
「ふざけんな、この女」
他のチーマーたちが三条にとびかかっていく。
中にはナイフを出している者もいる。
女はバックから出したスタンガンを構えた。
「あたしたちに手を挙げるなんてホントバカね。
仲間もくるから絶対に逃げられないよ。」
「三条さん、仲間がいるらしいわ。少し待った方がよろしくてよ」
三条に飛びかかった男は、既に足元で伸びている。
倒されたスピードは誰にも見えていない。
「かしこまりました。その間は天野君に遊んでもらいましょう」
「「「 え、えええええ!? 」」」
俺はクラブに入ってから、
ずっと距離を取りながら他人のふりをしていた。
俺は平和主義だ、
こんな悪そうな不良に勝てるわけがないだろ。
ほら、こいつらヒトを殺していそうな顔だぞ。
無理無理、絶対に無理。
逃げようとする俺の背中を江良が押した。
俺はチーマーたちの前に飛び出してしまった。
江良さーーーん、たのむよーーー。
俺は、虎の前に放たれたウサギだ。
何もできず、食べられるのを待つことしかできない。
「おい、彼氏、頑張れよ。」
「せめて3分は楽しませてくれよな」
何て店だ。
俺がボコられるのを見ようと客が集まってきた。
ん、3分?
そうだ、俺にはタイムリープがあった。
渋谷という陽キャな街に気おされ、大事なことを忘れていた。
逃げるだけなら大丈夫だ。
「いいのか?江良?」
例の力を使って良いのか?江良に尋ねた。
周りの奴らには、
『本気出していいのか?』と聞こえたようだ。
さっき三条の強さを見たギャラリー達の間では
「こいつも強い」という空気が広がった。
チャンスだ。
このままごまかして逃げ切ろう。
俺の生き残りが確定したかに見えた。
しかし、どこにでも空気が読めないバカがいる。
「この雑魚。おれが、やっちゃっていいよねー。
ファイアーボールで一撃だぜ」
何だ、三条と同じ炎のエーテル使いか?
ん、ライターを持っている。
口から液体を吐いたかと思うと、
それに引火して、目の前に火が迫ってきた。
「きゃはははは」
「ファイアーボール大成功!」
「おおおおおっ」
店内で歓声が巻き起こる。
「だっせ、こいつ腰ぬかしそうだぜ」
場の雰囲気が変わった。
空気が読めないバカの登場で、
俺は再び雑魚キャラへ変わってしまった。
「ヒカル良いわよ。どうせ後で全部書き換えるから」
「了解。そういうことなら」
◇
女神の快諾を得たので、俺は時間を止めた。
バカがもう一度、火を噴こうとしている。
10秒あれば、いろいろできる。
まず他のチーマーを俺がいた場所に移動させた。
ナイフやスタンガンは危ないのでゴミ箱に捨てる。
◇
ここで、時間が動き出した。
バカの炎が仲間の顔面を直撃した。
倒れてもだえ苦しむチーマー。
あっ、やば。
もう少し離しておけば良かった。
ごめんねー。
店員がバケツの水で火を消した。
しかし、チーマーはピクリともしない。
突然のことに店内が完全に静まり返ってしまった。
チーマーの横にいた女は、パニックで言葉がでない。
「面白いこと、やってるなー」
そこへチーマーの仲間たちが現れた。
スキンヘッドの大男がいる。
どうみても、こいつがボスだ。
「やってくれたな、これ。
慰謝料だけじゃ、すまねーなー」
こえーーーー。
この人、頭にも入れ墨してる。
固そうな警棒も持ってるよ。
ここは三条さんの出番だろ。
強い奴が好きなんだよな?
俺は三条に、アイコンタクトを送った。
「天野君の獲物よ。しっかり!」
好き嫌いせずにしっかり食べなさい、
という感じで声をかけてきた。
「おー、俺っちは獲物か?
そうか、やってやんよ、お前」
やばい、ボスを更に怒らせちゃったよ。
江良は楽しそうに笑っている。
わかりましたよ!
やれば、いいんでしょ。やれば。
俺はもう一度、時間を止めた。
◇
止まっていても、この人の顔、怖いんだよね。
殴ったり蹴ったりは苦手だ。
そこで、江良の前で試したサンダービームを使うことにした。
工場を壊す破壊力があるので軽くなら死なないだろう。
指先に少し力を入れて、ゆるーくサンダービームを放った。
◇
ビームを放ったところで、時間が動き始めた。
ボスが目の前から消えている。
あれ?
周りを見渡すと、ボスの巨漢は10メートルぐらい吹き飛んで、
丸焦げになっていた。
三条も驚いて、俺を見ている。
「仕方ないわね。ヒカルはまだ手加減ができないものね」
江良が立ち上がると、ボスに近づき、手をかざした。
丸焦げが元通りに再生されていく。
やがて、ボスは息を吹き返した。
「ミア様、これは?」
「見ての通りよ。
ヒカルは光系のエーテルが強いのね。
ヒカルなだけに。うぷっ」
俺は江良が再生したとは知らず、
人を殺めたショックのため、
江良の言ったことが聞こえなかった。
ただ、
三条が何とも言えない表情をしていた。
よほど重大な秘密が江良から告げられたのだろう。
俺も気になる。あとで三条に聞いておこう。
゜*。,。*゜*。,。*゜*。,。*゜*。,
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