盗撮された公開テスト
江良が化学室に飛び込んできたことで、
我に返ったのか、三条の表情が引き締まった。
「ミア様、どうか動かないでください」
三条がサッとハンカチを取り出し、
片膝をつくと
江良の頬についた青のりを拭った。
「ん、ありがと」
どうみても、このだらしない奴が女神には見えない。
どちらかというと三条の方が女神にふさわしいだろ。
「ヒカル、あなた、良からぬことを考えたわね」
こんな時だけ、この女神様は勘が鋭い。
「ところで、俺は江良の加護をもらったようだけど、
記憶操作が行われない他、何か効果でもあるのか?」
「天野くん、ミア様に何と言うことを」
「いいのよ三条さん。
いーい、ヒカル。よく聞きなさい。
私の加護があれば、身体能力が上がるはずよ。
あとは簡単なエーテル魔術が使えるようになるわ。」
「そうなのか?俺は何も感じないんだけど。」
「まだ自分の能力に気づいていないだけよ。
ヒカルのような運動神経ゼロでも
ソウルイーターのような低級眷族ぐらいなら
戦っても簡単に勝てるようになるわ。
中級でギリギリいい勝負かしらね。」
そういうと、江良は三条をちらりと見た。
「でも、相手が上級の戦士が出てきたら話は別よ。
いくら鍛えても、ヒトが上級戦士には勝てないわ。
基本的なレベルが違いすぎるからね」
隣で三条が深くうなづいている。
その目はギラギラと輝き、俺をロックオンしている。
「今度は、自分が必ず勝つ」という目だ。
(大丈夫。あなたとは二度と戦いません)
俺は三条の熱い視線をかわし続けた。
「ミア様、天野くんにエーテルを使った戦い方を
教えてはいかがでしょうか?」
「あら、どうしたの?三条さん、乗り気ね」
「天野くんはインスペクターから目をつけられてますし、
今朝のソウルイーターも、確実に天野君を狙って
来たものでしょう。
今のままでは、少し強い相手が来たら、
すぐに消されてしまいます」
「け、消されるって」
「それもそうね。ほんとヒカルは鈍いからねー。」
「天野君には借りがあるので、
それを返すまでは生きてもらわなくては困ります」
「おいおい三条、俺が消されることが前提で
話が進んでいるんだけど。」
「間違いなく、そうなるわ。
せっかくミア様のご加護があるのですから、
今のうちに魔術を会得するべきです」
「まてよ、三条の気持ちはありがたいんだけど、
俺は君たちとは違って人間だぜ。
簡単に魔術なんて使えるわけがないだろう」
「そうよねー。
ヒカルは運動神経だけではなく勘も鈍いのよね。
魔術がものになるか?怪しいわ」
「江良!何度も『鈍い』『鈍い』と言うな。
さすがに直球で繰り返されると俺も傷つくわ」
「いきなり魔術が難しいなら
天野君はエーテルが少しあるようだし、
エーテル量を高めてみたらいかがでしょうか?
そのあと攻撃の魔術を覚えれば、多少は戦えるかと思います。
ミア様、いかがでしょうか?」
「分かったわ。
その順番なら鈍いヒカルでもできるかも
しれませんね」
そう言うと、江良は右手を頭上に上げた。
少し右手が光ったかと思うと、その手には指輪が握られていた。
まるでイリュージョンだ。
「ヒカル、これをつけてみて」
「おまえ、それをどこから出したんだ?」
俺がモブにありがちな質問をししようとすると、
その声を打ち消すように三条が叫んだ。
「「「 ミア様、そ、それはまさか…! 」」」
「『カレイドリング』。指にはめた者のエーテル量を
極度に高める道具よ」
「「「 それがあの『奇跡の指輪』!? 」」」
「私は『奇跡の指輪』を初めて見ました。
そのようなものをヒトなどに与えてよろしいのでしょうか?」
「かまわないわ。
このアイテムは所有者が消されると、
強制的に私に戻るものなの」
「お前、いまさらりと怖いセリフを言ったな。
簡単に消されてたまるもんか」
「ええ、ヒカル。
そうでなくては、与える意味がないわ。
この力をフルに使って生き残ってくださいね」
ニコリと江良が微笑みかける。
ニコリは良いんだが、何かごまかされているような気がする。
「そういえば、おまえ、
この前は『私が君を守ります』と言ってたじゃないか
いつからセルフサービスになったんだよ」
「もう、うるさいわね。
だから私がテレビを見ている間でも
生き延びられるように貸してあげるのよ」
「あー、本音が出やがった」
「そうよ、ヒカルを守る約束も大事だけど
『全国たこ焼き選手権』のスペシャル番組は
私の命とも言えるわ。悪い?」
この女神、たこ焼き番組を自分の命と言いやがった。
高そうな指輪を貸してくれるので、これ以上は止めておくが、
いざという時には三条を頼った方がよさそうだ。
俺はこの時、薄情な女神との決別を心に刻んだ。
「ミア様、この指輪の使い方を教えた方が宜しいのでは?」
「そうね。それじゃ教えてあげるわ。
ヒカル、まずは火を出してみて」
「え、、、?
ライターなんか持ってないぞ」
「違うわよ。指輪を使うのよ。
この前、三条さんが打ち出した炎を思い出して。
ヒカルの右手から炎が湧き出るイメージを持つのよ」
「確か三条は詠唱を唱えていたが、それを言えばいいのか?」
「詠唱とは使い手が魔術をイメージしやすくするために
用いる言葉だから、ヒカルが炎につながる言葉なら何でもいいわ」
「分かった。やってみるよ」
俺は呼吸を整えて、片膝をついて目をつぶる。
「火の聖霊よ、今しばらく我に力を宿せ。魂の炎よ、顕現せよ!」
<<< しーーん >>>
何も起こらない。
江良が腹を抱えて、手足をバタバタさせて笑い転げている。
「うーひひひひ、笑えるわ、ヒカル、天才!
もう、その中2病の詠唱だけで相手を殺せるわ」
隣で三条が下を向いて、真っ赤な顔をしている。
チョークを持った手が、少し震えている。
「何なのよ、その詠唱は」
呼吸を忘れて笑っていた江良が、深呼吸をすると俺に尋ねた。
俺は、ふてくされて答える。
「三条が唱えていた詠唱だ。俺もできると思ったのに何故できない」
「三条さんが・・・?」
江良が三条を見ると、
つまんでいたチョークがつぶれて粉々になっている、
さらに髪が揺れて、炎を帯び始めた。
明らかに怒っている証拠だ。
(や、やっばー。ヒカルのオリジナルじゃないのー?
一応、私も神だし。威厳があるから謝れない。どしよー。)
「ば、バカねぇ、ヒカル。
三条さんが唱える詠唱は、三条さんだけのものなの。
ヒカルにはヒカルのイメージできる言葉があるはずよ。
もう一度、やり直してみなさい。」
(江良の奴、完全に三条を無視して逃げきるつもりだ)
三条の怒りを感じた江良が、俺にアイコンタクトを送ってきた。
『早く会話を先に進めろ』という信号だ。
確かに、三条を怒らせると怖い。
何事もなかったように切り抜けるしかない。
「分かった。やってみるよ。」
ここは江良に乗っておこう。
三条の怒りの矛先は江良ではなく、必ず俺に来るはずだ。
「いくぞ、巻き起これ、ファイヤー!」
「ショーット!」
ボッ、と俺の手元から炎の塊が出現し、
前方へ飛んで行った。
三条のものと比べると、
大人と子供のような威力の差だが、一応できた。
三条は、【そんなところね】という顔をしていた。
その横で、意外にも江良が驚いている。
「へー、ヒカルやるじゃない。これなら鍛えがいがあるわ」
「次は風の魔法を唱えてみてくれる?」
「風って武器になるのか?」
「そうね。竜巻をイメージしてみて」
「わかった。竜巻ね。
よーし、トルネード、タイフーン!」
小さなつむじ風のような、そよ風が吹いた。
「ぷっ、くすくす」
「おいそこ、笑わない」
江良が三条を指さして、注意する。
おい、江良、お前も目元が笑ってるぞ。
「じゃぁ、最後ね。雷撃を出せるかしら?」
「ミア様、さすがに雷は無理では?
彼の実力は分かったはずです」
「いいえ、せっかくだから見てみましょうよ。
どうせ余興だし。楽しみましょう」
「いつから余興になったんだ。
こっちは命がかかってんだぞ」
(だめだ、『奇跡の指輪』でエーテルを強化してもこれだ。
俺は本当に生き残れるのか?)
少し自信がなくなった。
俺が肩を落としたのを見て、江良がフォローを入れる。
「大丈夫よ。属性を見ているだけだから心配はいらないわ。
ともかく、チャレンジしてみて」
「わかったよ。やりますよ!」
俺は人差し指を立てて、右手を頭上に挙げた。
そして、振り下ろしながら詠唱した。
「サンダー、ビーム」
そう叫んだ瞬間、周りが暗くなった。
いや、俺の発した光がまぶしすぎて、一瞬で回りが暗く感じたのだ。
(なんだ、なんだ、何が起こったんだ?)
窓の外を見ると、はるか遠くの工場の煙突が吹き飛んでいた。
とんでもない破壊力だ。これがエーテルの力か。
「ヤバい。工場が。」
「大丈夫よ、ヒカル。すぐに私が戻すから」
ーーーーーーーーーーーーーー
気が付くと、工場が元に戻っている。
代わりにエーテルの飛んだ先の電球が
小さくチカチカしている。
江良が、時間を巻き戻して、
俺の発したエーテルに細工をしたのだろう。
三条は気が付いていないが、俺は江良の加護者だから
タイムリープ前の事を覚えているのかもしれない。
「まぁまぁね。ギリギリ合格よ。
エーテルを強化してこれだから、あまり期待できないけど、
訓練すれば、少しはましになるかもね」
「そうですね。ミア様。ヒトとしては、よくやった方です。」
突然、三条の表情が鋭い目つきになった。
「ミア様、あいつらが帰っていきました」
「そのようですね。やはり、観察していましたね」
どうやらインスペクターが、
遠くからこの部屋を監視していたようだ。
2人には最初から分かっていたらしい。
「しばらくは、それをつけておきなさい。
まだ戦えるレベルじゃないから、もしもの時には、
ひたすら逃げること。良いわね」
「わかった」
キーンコーンカーンコーン。
昼休みを終えるチャイムがなる。
俺たちは急いで教室へ戻っていった。
◇
「ご苦労様でした」
校舎から制服姿の男女2人が出てくると、
正門前に止まっていた高級サロンカーに乗り込んだ。
「ターゲットですが、エーテル、身体能力、
共に特筆すべきものはありませんでした」
乗り込んだ1人が、対面に座るスーツ男に報告した。
車内の後部座席は向かい合わせのソファーになっている。
男性は深々と座り直し、意外そうな表情をした。
「あの気難しいミア様が2500年ぶりに加護したヒトです。
きっと何か特別な能力をもっているのでしょう」
「はい、これは噂なのですが
ガーディアンの観察バトルで
レッドシューターの攻撃を全てかわし切ったようです」
「ほう」
「ただし、ミア様から与えられたカレイドリングを着けても、
戦闘力は、ほぼゼロです」
「神の強化アイテムをつけてもダメなのですか。」
「はい。そのようです」
「レッドシューターの攻撃を回避したことには驚きました。
しかし、報告どおりなら、私達の脅威にはなりませんね。
むしろレッドシューターが危険でしょう。引き続き、こちらを注意してください」
「茜ちん、来てるの?」
前に座っていた少女が、ぴょこっと顔を出した。
銀髪ツインテールがぴょんぴょん揺れている。
「これは、フレッダさま」
報告者の2人が深々と頭を下げた。
少女は話を聞いて、嬉しそうな顔をしている。
「はい。ガーディアンもミア様の周辺を探っているようです」
「向こうでは茜ちんと、1033戦1033引き分けなのだ。
早く続きをやりたいのだ。。」
「申し訳ありません、貴方様がこちらで
レッドシューターと戦うと、世界が消滅してしまいます。
あの方もお怒りになるかと」
「ちぇ、つまんないのだ」
フレッダは、ツインテールと足をぶらぶらさせながら、
悔しそうに頬をふくらませた。
゜*。,。*゜*。,。*゜*。,。*゜*。,
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