救出と死闘の予感
結局夜通し馬車を走らせて、次の日の明け方にマールの村が一望できる小高い山の上に到着した。
「しかしこんなに早くついてしまうなんて信じられないな」
マール村をしみじみと見ながらロトキンさんがつぶやく。
「たしかにここまで来れただけでも奇跡だよ」
「村人は見えねぇか、早くみんなを助け出してぇぜ」
キベリさんが落ち着き無くマール村を見ながら行ったり来たりしている。
他の二人も気もそぞろで何も手についていない。
「少し落ち着いて下さい、今すぐ村人を救出出来るわけではないんですから。慎重に行かないと成功しませんよ」
三人を落ち着かせながら、これからの作戦を伝える。
「まずは村の様子を知らなければ何も始まりません。今の俺達は何もわかってないんですから」
地面に棒で簡単なマール村周辺の地図を書き、作戦を図解していく。
「ダイとキベリさんは馬車を隠して守っていてください。ロトキンさんは俺と一緒に村周辺をぐるっと偵察して敵戦力の把握を行いましょう」
「この先に馬車を隠すのにおあつらえ向きの洞窟があるんだ、そこに行って隠れてるぜ」
さすがはマール村出身の冒険者たちだ、村周辺の地形は全て把握済みだ。
俺は今、村の正面が見えるがさ藪に身を隠して村を観察している。
辺境の村らしく丸太で組んだ壁が村をぐるっと囲っていて、物見櫓も一基あった。
木で出来た門もなかなか頑丈そうで、籠城されたら厄介そうだ。
ロトキンさんによると、村の大きさは直径で三百メートルはなく、南北に同じ様な門があって、物見櫓も同じ数だけあるらしい。
閉められた門の前に二人の兵士が門番で立っている、物見櫓の上にも弓兵が一人、睨みを効かせていた。
三人の共通の特徴は、装備はバラバラだが黒に統一されていることだ。
夜になると目視が難しいかも知れない。
「ここは大体わかりました、周辺の警戒状況を調査しましょう」
「分かった、こっちに地元の者しかわからない獣道があるから、それを使って移動しよう」
やはり地元の人間は頼りになるな、兵士たちに見つからないように森の中に分け入った。
「前方に赤い点が二つあるぞ」
ロトキンさんに魔導地図版見てもらいながら森を探索していると、時折魔物が索敵に引っかかった。
俺が先行して魔物を倒して行く、フォレストウルフやゴブリンなどガルド周辺とあまり代わらない分布で、全て一撃で絶命させることが出来た。
「しかしトーヤの剣は凄まじい切れ味だな、一瞬で真っ二つにしてしまうなんて驚きだよ」
実際ダンカンさんが作ってくれた剣は切れ味が半端ではなく、ゴブリンの持つなまくらな短剣ぐらいでは受け止められず、短剣ごと身体を切られて絶命していく。
「この剣は、『武装商店ダンカン』の主人に特注で作ってもらったんです」
少し自慢したくなって、ダンカンさんの事を教えた。
「ええ! ダンカンさんの作品なのか、よく作ってもらえたな、あのひとは腕がいいけど、なかなか武具を作ってくれないので有名な人なんだ」
ロトキンさんが絶句して俺の剣から目を離そうとしない。
「そうなんですか、おれは武器も防具もダンカンさんに一式揃えてもらいましたよ」
盾を掲げてロトキンさんに見せる。
「よほど気に入られたんだな、羨ましい限りだ」
ため息一つはいて、魔導地図版に目を落とした。
結局村の周辺には盗賊達は見張りを出して無くて、マール村に全戦力を集中させていた。
ロトキンさんに村の教会の見える所に案内してもらう。
案の定教会周辺は厳戒態勢がしかれていて兵士の他に完全武装の騎士の姿も確認できた。
時折村人らしき人が教会から出てきてどこかに消えていく、しばらく待っていると先程の村人がカゴにパンをいっぱいに入れて戻ってきた。
「村人が監禁されているところは、あそこに間違いないようですね」
目を離さず隣のロトキンさんに小声でに話しかける。
「ああ間違いなさそうだ、村人はそんなに大勢いるわけではないから、あのパンの量だと全員一箇所に居そうだ」
「これで偵察は切り上げましょう、みんなと作戦会議します」
「了解した、村のみんな待っててくれ」
祈るように手を組んで目をつぶるロトキンさんがとても痛々しかった。
「もどりました! 偵察完了です、飯にしましょう」
洞窟に戻ってきた俺達は、食事をした後で情報の共有をすることにした。 リュックからテーブルと椅子を出して地面に置く、洞窟内が薄暗かったのでランプも出してテーブルに置いた。
焼きそばパンや串焼き肉、即席のサラダ、コップを四つ用意してコーラを波波と注いだ。
「冷めないうちに食べよう」
「便利だねリュックサックは」
「ウオ~ うまそうだな、まだ湯気が立ってるぜ」
三人が思い思いの料理を手にとって食べ始めようとした。
「いただきます!」
手を合わせて食事の開始を宣言する。
「何だその『いただきます』ってのは」
三人は口に入れる寸前で止めて、俺に聞いてくる。
「おれの覚えている記憶で、食事の前にかならず言う挨拶みたいなものですよ、命をいただく感謝の言葉です」
「なるほどな、俺達もやろう」
「トーヤさんに感謝して、食べなくてはいけないね」
「よし、もう一度やり直すぜ!」
三人が俺を見て手を持ち上げた。
「「「「いただきます」」」」
四人の『いただきます』が洞窟にこだました。
みんな一心不乱に料理を口に運ぶ、無くなるそばからリックから補充し皿の上には大量の料理が常に出ていた。
「うわ! 何だこのコーラって飲み物は、喉がヒリヒリする、でもうまい!」
「たしかに甘くて冷えていて最高ですね!」
「まるでエールを飲んでいるみたいだぜ、こっちのほうがピリピリが強いが、香りと甘さがくせになりそうだ」
コーラは三人に好評だ、俺はニヤニヤしながらコップの中の琥珀色の液体をグイッと飲み干した。
「これからの作戦を伝えます」
食事を終えて片付けた後は、いよいよマール村奪還作戦の作戦会議だ。
「ロトキンさんと偵察を行った結果マール村は難攻不落の要塞になっていて、正面突破は難しいことがわかりました。隠密裏に村に潜入しても中にいる兵士たちに見つかる可能性が高いです」
「確かにあそこに忍び込むなんて無理だし、仮に出来ても村人を逃しながら戦うことなんて出来ないよな」
ダイ青年が気を落として下を向く。
「そこで考えを変えて、奴らがいなくなった後に攻め込むことにしました」
「それはどういうことだ? 奴らがいなくなるなんて、分かるわけねぇだろう」
キベリさんが首を傾げなら俺に聞いてくる。
「奴らの狙いはガルド市です、ガルド辺境伯領を占拠するならまずあそこを押さえないと話になりません。しかも討伐軍が編成される前に占領しなければ勝ち目がありませんから、今日明日にも動きがあるはずです」
「なるほど、本体が出払った所で手薄の村をやっつけるって寸法か」
ロトキンさんがしきりに頭を動かして考えている。
「軍隊は動き出したらここへはもう戻らないわけですから、かなり人数が減るはずですよ」
みんなの不安を払拭するために、予想でしかない作戦を自信有りげに披露する。
「本体が出発した後で、俺の移動魔法で教会の裏手に全員で移動します。俺が周辺の敵を倒しますから合図で中に突入して下さい。あらかじめ魔導地図板で教会の中の様子をうかがって、中に敵が居る場合には引き続き俺が先行して敵を排除します」
「トーヤにばかり任せてはいられない、できるだけ俺たちも敵を倒す」
ロトキンさんが鼻息荒く立ち上がる。
「無傷で教会を占拠したいんです、占拠した後は俺が村を回って敵を排除していきます。村解放後はロトキンさんたちに任せますから、あまり無茶をしないでください」
村への案内と解放後の後処理のために、三人を連れてきたので死んでしまうと困る。
「わかったぜ、村を解放した後はどうするつもりなんだ」
予想はついているんだろう、キベリさんが俺をまっすぐ見つめる。
「わかっていると思いますが、魔の森の騎士団は放って置けません。すみやかに追い掛けて殲滅するつもりです」
「殲滅って、相手は三百人からの精鋭部隊だぞ! いくらトーヤでも勝てるわけないじゃないか!」
ロトキンさんが俺を心配してくれて、大きな声を出してしまい慌てて口をふさぐ。
「勝てるか勝てないかは置いといて、放置したら解放したマール村もすぐ戦乱に巻き込まれますよ、今度は容赦なく殺されるかも知れない」
極力冷酷に聞こえるように声を低くして三人を黙らせる。
「心配しないで下さい、俺はこの世界に来てから一度も本気を出していませんよ。あの程度の戦力なんか相手じゃありません」
かなりハッタリを噛ましてしまったが、三人を納得させるにはこのくらいでちょうどいいだろう。
「な、なんだって…… それは本当なのか」
三人とも目を見開き拳を強く握ってこちらを凝視してきた。
ゆっくり自信たっぷりにうなずきかえす。
「わかった…… わかりました。色々反論してしまい申し訳ない」
ロトキンさんがテーブルに頭を付けて謝罪する。
「頭を上げて下さい、俺の力はあなた達に向かうことはありませんよ、敵対者には容赦ありませんが、味方には決して振るわれることはありません」
三人を順番に見ながら、優しい口調で語りかけた。
「ありがとうございます、村を救って下さい!」
三人は涙を流し俺の手を強く握ってきた。
マール村は夜通し篝火が焚かれ、各家から煙が上がっていた。
おそらく兵士達が食料の調理を中心に、来るべき戦闘に備えているのだろう。
俺たちは日が高いうちに睡眠を取ることにした。
一人を見張りにして三人は休憩に入る。
三時間交代で十二時間、たっぷり休憩して夜中にマール村の正面の門を監視できる崖の上に移動した。
朝霧がマール村周辺の森の中をゆっくりと漂っていた。
鳥たちが朝を告げるために、せわしなく鳴いている。
コーン コーン コーン
夜明けとともに板木の音があたりに響き渡る、鳥たちが一斉に空へ飛び立っていった。
ガルド市につながる門がゆっくりと開けられた。
先頭で出てきたのは馬に乗った騎士たちだった。
数は五十騎、全身黒ずくめで馬にも黒い防具が着せてある。
黒一色の旗を掲げている騎士が不気味さを醸し出していた。
次にゆっくりとした歩調で黒塗りの装備で固めた歩兵が、四列縦隊で進行していく、だいたい二百人ぐらいだろうか。
そして最後に食料や武器を満載させた荷車や救急看護の従者が続いて行った。
最後尾が門を出るのにたっぷり三十分かかった。
軍隊の行進とはこんなもんだろうか、遅すぎだろ!
「すごい迫力だな、あれは盗賊じゃないな軍隊そのものだ」
「ギルドの奴らが震え上がっていたのも無理もないですね」
「おれはこわかねぇぞ、武者震いしているだけだ」
三人共小さくなって物陰から出てこない。
「なるほどな、騎士を倒せば後は雑魚だな、騎士の機動力が少し気になるだけで後はどうにでもなる」
先頭の騎士隊からずっとステータスを見ていたけれど、斥候部隊の騎士たちと強さがあまり変わらず正直拍子抜けしてしまった。
たっぷりと二時間、息を潜めてマールの村を観察する。
予想通りに敵の数が激減し、教会の周りには見張りの兵士が二人いるだけだった。
二つの門に二人ずつ、物見櫓に一人ずつ、教会の外に二人、中に一人、後は村長の館に集中して十人、全部で十九人。
非戦闘員の従者が何人かいるかもしれないが、数に入れなくてもいいだろう。
「準備はいいか? 一気に行くぞ!」
抜剣し盾を構える、三人も思い思いに得意な武器を構えてうなずき返した。
教会の裏にワームホールを出現させる。
おれを先頭に四人が次々にゲートに飛び込む。
教会の壁に張り付いて辺りをうかがい、敵がいないのを確認して教会の表に向かった。
教会の正面に飛び出した俺は見張りの兵士の首に向って水平に剣を振り抜いた。
兵士の生死を確認せず盾を構えたままもうひとりの兵士に体当たりを敢行する。
ぶちかまされた兵士は十メートル以上吹っ飛び、首が曲がってはいけない方向に曲がって事切れた。
俺が戦闘をしている間に教会の扉の両脇にスタンバイする冒険者達、俺が教会に飛び込むタイミングで扉を両方共全開にした。
飛び込み一番、上段から垂直に切り下ろして見張りの兵士をぶった切る。
頭から腹までを垂直に切られた兵士は、血しぶきを上げながら絶命した。
素早く教会の中を見渡し、他に敵がいないのを確認して剣を降ろした。
「助けに来たぞ、もう心配いらない!」
ロトキンさんが村人みんなに聞こえるように大声で伝える。
「キャシー俺だよダイだ、いるなら返事をしてくれ!」
「マリア、ユリア、父さんだぞ返事をしろ!」
ダイもキベリさんも必死の形相で彼女や家族を探し始めた。
「あなた? あなたなの! ああ神様!」
一人の女性がキベリさんに駆け寄る。
その背中には小さな赤ん坊がおぶさっていた。
キベリさんが号泣してふたりを抱きしめる、女性の背中では赤ん坊が元気に泣き叫んでいた。
少し離れたところではダイ青年と年頃の娘が抱き合っている。
周りの村人が涙を流して二人を祝福していた。
「勇者様、村の長のロンベルです。この度はお助けくださいまして誠にありがとうございます」
教会の奥の方から両脇を村人に抱えられた老人が名乗り出た。
「村長さんまだ安心するのは早いですよ、村には兵士がまだ残っています。今から掃討しますので、もうしばらくここでおとなしくしていて下さい」
長々とお礼を言っている老人に今の状況を説明して大人しく座ってもらう。
「キベリ! ダイ! まだ終わっていないんだ! 周囲の警戒を怠るな!!」
二人を叱り飛ばして扉に駆け寄る、ロトキンさんは扉から外を見張っていた。
扉から一瞬だけ顔を出し外の様子を確認した。
幸い外には敵の姿はなく、まだ侵入はばれていないようだった。
「すまねぇ、つい我を忘れちまった」
「申し訳ないです、彼女の顔を見たら感情を止められなくなってしまいました」
二人共俺に怒られたので顔面が蒼白になっている。
そんなに俺って怖いんだろうか?
「言い訳はいい! 今は死ぬか生きるかの瀬戸際なんだ、お前たちの肩に村人の命がかかっているんだぞ! キベリは教会の中の警戒だ、ダイとロトキンさんは扉の死守だ! 俺は村で敵を殲滅してくる!」
言いたいことを言って教会から飛び出す、教会を振り向いて全力で呪文を唱えた。
「バリア!」
教会が一瞬強く光り輝く、目視できるほどの結界が教会を包み込んだ。
次の瞬間俺の背中に矢が当たり、絶対防御が発動し身体が淡く光った。
総勢十人の完全武装の騎士隊が俺の背後に迫ってきていた。




